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「……ちょっと、キミタチ。何かコメントしたらどうかね」 人に脱げ脱げ言っといて、脱いだら脱いだで黙り込むってかなり失礼だと思うんだけどね? じろりとねめつけると、気まずそうな顔で逸らされる。 陰気この上ない反応だ。 南国の海辺に居るとは思えないくらい辛気臭い。 ……こうなると思ったから、水着になりたくなかったのに。 蒼く澄んだ空を見上げて、私ははふぅ、と(外見だけは)幼けな女子高生らしからぬ溜息を吐き出した。 La Dolce Vita 〜海中遊泳 南の島の刺客たち2〜 どーすりゃいいのさと心底困り果てた辛気臭い空気を壊してくれたのは、南国のご陽気を浴び倒して育ったお子様達だった。 「どーしたんさ、それ?!」 「すっげぇな!」 直球でそれ、と指摘されたのは、まさに氷帝の皆が目を逸らしていたものであり、空気の読める男・知念クンが甲斐と平古場を慌てて嗜めていたが、時既に遅すぎた。 「これ? 事故の名残。なかなか迫力っしょ?」 知念に「大丈夫だよ、ありがとう」と声をかけつつも笑って答える。 五分丈のボトムからはみ出す傷跡は、未だ赤みや腫れを残しつつ脹脛まで届いている。一番大きな傷はそれだが、他にも隠しきれない大小様々な傷が腕や足を覆っている。もちろん、水着に隠れて見えない場所にも。 毎日それを見ている私自身ですら、なかなか壮絶だと目にする度に感じるそれを初めて目にした氷帝の皆が受けた衝撃は想像に難くない。ないのだが、本人が「気にしていない」と笑っているのだからその意を汲み取って空気を葬式並みに重くするのは是非にも止めていただきたい。 でなければ居た堪れなさ過ぎる。 なので、沖縄っ子たちの陽気さは大変ありがたかった。 「事故ってなにやったんさぁ?」 「ん? ミニバスと正面衝突?」 「はぁっ、ミニバス?!」 「しんけんっ?」 「しんけんしんけん。もー生死の境を1ヶ月も彷徨っちゃった」 「すっげー!!!」 ちょっと誇張。 正確には意識不明の植物状態だったんだけど。 いつの間にか甲斐君と平古場君だけでなく沖縄っ子全員がキラキラした目で私を囲んでいた。木手君もいたのでちょっとびっくりしたのはここだけの話だ。 「もう痛くねーらん?」 「うん。大丈夫」 「触ってもいいか?」 「裕次郎!」 「……頑張りましたね」 ぽふん、と頭に手を置かれて、上を見上げたら木手君が「いいこいいこ」してくれた。……嬉しいけど、照れる。 ちなみに甲斐君は田仁志君と知念君に「どさくさに紛れて女子の足に触ろうとするな!」と怒られてた。 「木手君?」 「そこまで大きな傷です。動けるようになるまで、いえ今もずっとリハビリに励んでいるんでしょう?」 「……や、それは、まぁ」 「ですから、俺が褒めてあげますよ。そうそう、それに、その水着も良く似合っていますよ」 ぐりぐりと撫で回される。 ……うわぁ。ちょっと、これ……感動モノかも。 じんわり感動を噛み締めていたら、ぐいっと腕が引かれた。 「うえ?」 ビックリして振り向くと、不機嫌そうな顔をした忍足君がいた。 その隣には、これまた凶悪そうな顔の景吾君。 「ウチの姫さんに気安く触らんといてくれるか」 忍足君の腕が私の肩を覆う。 「君達の、姫…ですか?」 木手君がフン、と高慢な笑みを浮かべた。 「なんや。言いたいことがあるんなら言えや」 「…なら言いますが、彼女の水着姿を褒めるでもなく気まずげに目を逸らすのが君達の『姫』に対する態度なんですかね」 「……っ」 「まったく、本土の男は軟弱ですね」 木手君の勝ち誇った笑みに忍足君の腕がぎゅっと締まる。 流石沖縄が誇る殺し屋。挑発がお得意のようで。 だがしかし。 その挑発してる相手の腕の中にいる私のことも考えて欲しい。 気まずさは勿論だけど、力の篭った腕がちょっと…いや、結構痛い。 「で、でもほら、無理に褒めてもらっても空しいしさ!」 ね? と上を向く形で忍足君の顔を覗き込むと、忍足君は……今にも泣きそうな顔になった。 逆効果だったらしい。 「違うで?! 姫さんの水着姿が似合ぅてないっちゅーことやないねん!」 「いや、あの…っ」 ぎゅう。 力いっぱい腕がしまる。 イタイイタイイタイイタイ! この生身甲殻機動隊が! 自分の腕力考えてくれよ!! 「忍足。いい加減を離せ」 無言で悶えていたら景吾君が助けてくれました。 「た、助かった…」呟いたら忍足君が更にショックを受けたらしく、どんよりと雲を背負ってしまった。 「お、おい侑士…」 「嫌われた…姫さんに嫌われてもーた…」 「元気だしなよ、忍足」 「あかんねん。もーおれはあかん…」 「しっかりしろ、ゆうしー!」 沖縄の晴天に非常に似つかわしくない。 それを眺めてる木手君も非常に微妙な表情だ。 景吾君は苦虫を噛み潰し倒している。 「」 「ん?」 「泳ぐぞ」 「うん」 「……アレ、置いておいていいんですか?」 「だったらテメェが何とかするか?」 満場一致で海で遊ぶことに決定しました。 陽がすっかり傾いてきて、肌を撫でる風を少し冷たく感じて来た頃。 「おい、そろそろ戻るぞ」 景吾君の号令で氷帝の皆が一斉に海から上がった。 比嘉の皆はまだいいじゃないかとぐずっていたみたいだけど、木手君が「いい加減にしておきなさいよ」とひと睨みしただけで大人しくなった。流石です、キャプテン。 「あー、おなかすいた!」 簡単な着替えを済ませて戻る途中、「お夕飯なんだろうね」と首を傾げた途端にべしりと頭をはたかれた。衝撃でぐらりと揺れた身体は隣にいた知念君がすかさず支えてくれた。いい人だ。 「女がンなデケェ声でみっともねぇこと叫んでんじゃねぇよ」 「はぁーい」 流石に育ちが良いらしく、景吾君にはよくお行儀に関する注意を受ける。ま、確かにはしたなかったかと素直に反省はしたものの、空腹なのはどうしようもない。 「でも俺もはらへったー」 「ねー?」 「ねー?」 慈郎君と声を揃えて言い合っていたら、景吾君が何かを言いたそうな顔をしていたけれど、宍戸君が「俺も腹減ったな」と同意してくれたので、溜息一つで済まされた。 ところで、さっきから気になってたんだけど… 「比嘉の皆もご飯一緒に食べていけるの?」 帰ろうとする様子もないから訊いてみたら、木手君は一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐに納得したようにふと笑んで「ああ、君は聞いてなかったんですね」と頷いた。 「勿論ですよ。今日は泊まりですからね」 「え?! そうなの?」 「ああ、明日は練習は朝からだ」 「そっか」 日差しがきつくなる昼を避けようと思ったらそうなるのだろう。 てことは明日も私は一人で時間を潰さなくてはならないわけだ。 ……何をしようかなぁ。 「心配すんな」 観光ついでにちーちゃんたちにお土産でも買いに行こうかと頭の中で計画を立てていたのが顔に出ていたのか、私の頭に手を置いた景吾君がフっと笑った。 「テニスすんのは朝だけだ。昼からはお前に付き合ってやるよ。どこに行くか考えとけ」 「え…」 「幸い、道案内には事欠かねぇしな?」 「地元ですからね」 「何処でも連れてってやるさー」 「まかせれ!」 バシッと背中を叩いた甲斐君に悪気はないのだろうけど、ちょっと痛いよ。こちとら一般人(しかも病み上がり)なんだから手加減を希望する。切実に。 でも、そっか。 明日は一緒なのか。 それはやっぱり嬉しくて、ヘへっと笑ったらすかさず景吾君に「しまりのない顔してんな」と言われてしまったけれど、頭に置かれたままの手でわしわしと撫でてもらったから、まぁ良しとしておこうと思う。 next. ============================================== やっと一日が終った・・・ |