どこに行く?
なんてそんなの、    決まってる!


「カラオケ!」
「はぁ???」










Dolce Vita
熱唱絶唱 南の島の美声対決











「へぇ、結構広いね」
「…そうか?」
「まぁ、この人数が入れば良いんだからこんなもんじゃない?」
「やっぱパーティルームっつーとステージがあるんだな」
「飛び跳ねんなよ、向日」
「えー!」
「なぁなぁ、やったードリンク何にするよー」
「このソファ、寝心地悪いC」
「そりゃまぁこんなトコのイスなんてこんなもんだろ。って、来て早々に寝んなよな」
「ん〜〜〜」
「ジロー、寝んならお前のドリンク俺が貰っちまうぞ」
「だめ」
「ホットコーヒー2つにホットの紅茶とココア、コーラ一つずつに、お子様二人はコーラフロートでええやんな?」
「お子様じゃねーし!」
「甲斐君、俺達はいつも通りでね」
「はいはい了解〜っと」


壁にかかった受話器を取り上げてオーダーを通す甲斐君は見事に手馴れてる。
氷帝の皆のオーダーも一度で覚えちゃってるし。
きっと、毎回やってるんだろうなぁ。

…ていうか、私の分てどれ?

首を傾げつつも、手渡されたリモコンでぴぴぴ、とお目当ての曲を検索して入力していく。

うふふふふふ。

今日はこれを景吾君とおっしーに歌ってもらいたいがために来たのだよ!
ちらりと視線を向けると、おっしーはともかく、景吾君は興味なさそうにふんぞり返っていらっしゃるけれども!
曲さえ始まっちゃえばこっちのものさ!

最後に「送信」アイコンをぴこっと押せば、ディスプレイに表示されるのは誰もが知ってるバレンタインの定番懐メロ。


「ええええええ?!」


と驚きの声が上がる中、私はマイクを持って景吾君に擦り寄った。


「……なんだよ?」


非常に嫌そーな表情は完璧に私の「おねだり」を予想している証拠だろう。
それはそれで切り出しやすくて助かる。
私は顔がにんまりと笑うのを自覚しつつ、マイクを差し出した。


「歌って?」
「却下だ」


間髪入れずに切って捨てられました。
が!
それは予想の範疇。


「景吾君のバレキス聴きたいの!」
「ふざけんな」
「お願いー」
「冗談じゃねぇ。何で俺がんな古い歌謡わなくちゃならねぇんだ。アーン?」
「おーねーがーいー!」
「嫌だ」


むぅ。
手ごわい。

しかし私も引けない。
なんたってこっちの世界に来て(目が覚めて?)からずっと狙っていたこのチャンスを、逃すわけにはいかないわ!
あっちでアニメに詳しい友達に「跡部が歌ってるんだよ〜」と教えてもらった噂のCDは、某大型ネットショップで注文したまま、私の手元に届く前にあの事故に遭っちゃったのよぅっ。

あああああ、もうイントロ終わっちゃうし!
わたわたと焦っていたら「わんが歌ってやるさー」ぽん、と頭を押さえられた。
振り返れば、甲斐君がすぐそばに立っていて、私と視線が合うと頭に載せていた手をそのまま下ろして二の腕を掴んで引き上げられる。強引だけど乱暴じゃない手つきで立たされた私を引っ張って、甲斐君はステージへ。


え? えええええ?


展開についていけない私を置き去りに、歌いだした甲斐君は……すっごく上手だった。
しかもなぜかしっかり振りつき。
わざとらしくつくった「しな」がすっごく可愛いのは何故ですか。
美少年な上に芸達者ですか。
美味しすぎるぞ、キミ。
おまけに合間合間にコーラスという名の合いの手を入れるのは比嘉中オールスターズ。
ワンフレーズずつ交代で歌う私のテンションも否応なく上がるってもので、気がつけばサビの「〜キッス」の部分でお互いに投げキスし合ったりしちゃっていた。


「あはははは!」
「やー、ノリノリやっさー」
「甲斐君こそ! 何でフリ付で歌えちゃうの?」
「あー、永四郎がこういうの好きなんよー」
「えー?! そうなの、意外!!」


曲が終わっても上がったテンションは収まらず。
手を引かれるまま比嘉中の皆が座ってるほうへ腰を下ろしたら、ふっと目の前が翳った。
と、目を上げるまもなく両脇に腕が差し込まれ、抱き上げられた。
ぷら〜んと、ちいちゃな子供のように両足が揺れる。
目の前には景吾君のお綺麗なお顔。


「はぃ?」
「忍足」
「はいはい」


そのままおっしーに渡され、二人が座っていた場所にすとんと降ろされた。
そして流れ出す曲は……さっきとまったく同じメロディ。


「お前はおとなしくそこで俺の美声に酔ってりゃいいんだよ」
「え? え?」
「楽しそうなん見てるんはええんやけどな。投げキッスはあかん。やりすぎや」
「は? なに?」


話が掴めなくてハテナマークを飛ばしまくる私を置き去りにして、マイクを構えた景吾君はやけに堂に入って見える。


  そして、その唇から紡ぎ出されるメロディ。


「……すっごい」


通りの良い声が一音たりとも外すことなく歌を再現していく。
それがただのオリジナルのコピーにならないのは、曲に載せた歌の端々に景吾君らしさが滲んでいるから。

ぽかん、と口を半開きにして見ていたら、なぜか得意げなじろー君にわしゃ、と頭を撫でられた。

続く2番は、おっしー。
……これはこれですごかった。
いやもう、うん。すごいよ、おっしー。
それ以外言いようがないよおっしー。


「っていうか、笑いすぎてお腹が痛いー!」
「おっしーエロいC!」
「いやもうアレ犯罪だって!!」
「いいのか! アレ放置してて良いのかよ?!」
「おまわりさーん!」


氷帝の皆はもう、好き勝手言いたい放題だ。


「やれやれ、漸くその気になったんですか」ため息混じりに言ったのは木手君だった。


「どうせやるんだから、最初から歌ってあげれば良いでしょうに。素直じゃないね」
「ハン、真打は後から登場するもんなんだよ」
さんをこっちに獲られそうになって慌てて出てきただけでしょ。物は言いようですね」
「獲られるも何も、は最初からこっちの人間なんだよ」


……お互いを挑発しあう二人の間にはブリザードが吹き荒れております。
氷帝の皆は牙を剥くみたいに威嚇してるし、比嘉中の皆はニヤニヤ笑いながら木手君を煽ってるし。血の気が多いな、キミタチ!
唯一冷静そうな滝君に視線で止めてくれるようお願いしてみるも、「なんで? こんなに皆楽しそうなのに」と綺麗な笑顔が答えてくれましたよ……

それからは何故か懐メロ大会(というよりもはやおにゃん○大会)…いや、対決? になだれ込み、可愛らしさで甲斐君とジロー君が張り合ったり、宍戸・向日・田仁志の漢対決(でもお○ゃんこ…)があったり、滝君が意外に芸達者だったり木手君がおっしーとは違った意味でエロだったりと色んな発見をしつつ時間は過ぎていった。

沖縄で過ごす、最後の一日が。






夜。
散々唄って騒いでお腹をすかせた私たちは用意してくれたフミ子さんが呆れを通り越して心配するほどご飯(フミ子さん自慢の地元沖縄料理だった)を平らげ、それで漸くひと心地をつけて各自部屋へと一旦は引っ込んだものの、やはり名残惜しいのか、示し合わせたわけでもないのに皆リビングに集まってきて、今はトランプに興じている。
最初は健全に七並べや神経衰弱をしていたはずが、気が付けばポーカーだのブラックジャックだのにすりかわり、沖縄の夜の気温を上げている。と言っても、賭けているのはさっき戻ってくる前にコンビニに立ち寄って各自で買ったお菓子だったりするのだから可愛いものだけど。
私は、ポーカーで2回、ブラックジャックに切り替えて1回勝ち抜いたところで皆の輪を外れてベランダで星を眺めていた。
東京では  否、『向う』にいたときから、地元では見ることの出来なかった満天の星空を。


「そんな薄着でボーっとしてても、風邪引くだけだぞ」


いくら沖縄とはいえ、夜の気温はまだそれほど上がらねぇからな。
口が悪いくせに、優しい景吾君はそう言いながら私の肩にシャツを掛けてくれた。サイズの大きすぎるそれに振り返れば、景吾君はTシャツ一枚で私のすぐ隣に立っている。


「ありがとう。でも、これじゃ景吾君が風邪引いちゃうよ?」
「お前と一緒にするな」


そこまで柔じゃねぇ、とシャツを脱ぎかけた私の手を押しとどめられてしまう。
けれど、私のせいでスポーツマンの身体を冷やしてしまっては申し訳ないので、早々に中へ戻ろうとこっそり心の中で決めた。口に出すと景吾君が意地を張りそうだし。


「んで? 何やってたんだ?」
「星を見てた」
「星?」
「ん……こんな満天の星、なかなか見られないし」
「そうか……そうだな」


こういうのも、たまにはいいな。
ぽそりと呟く景吾君は、なんだか仕事に疲れた企業戦士みたいで笑っちゃいそうになったけれど、よく考えれば彼は子供ながら跡部財閥の御曹司としての責務に追われる忙しい身だし、私は私で今はこんなだけど元々は仕事と生活に汲々としている会社員だったわけだから、こんな会話をしていてもおかしくはないのかもしれない。


「明日…」
「アン?」
「空港でスタバの沖縄限定タンブラー買うの覚えておいてね?」
「は?」
「ちーちゃんからメールでお土産の指定されたの」


もし買い忘れたら…想像するだけでも怖いです。はい。
それは景吾君も納得なのか、ちょっとだけ苦い顔で頷くと、でも「それくらい自分で覚えとけよ」と突き放されました。
はくじょおものー!







next.
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愛用してます、沖縄限定タンブラー。