「ただいまもどりました〜」


本日の戦利品、Tシャツ3枚・ジーンズ2本・日よけ用のパーカー1枚・サンダル1足。
それから、これは沖縄に来たら外せないよねっ、『海人』のキャップ1つ。


あ〜、久し振りにお買い物堪能した〜!









La Dolce Vita
〜一宿同飯 南の島の刺客たち〜









「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま戻りました、フミ子さん。これ、お土産です。人気のケーキ屋さんって聞いたので」


出迎えてくれたフミ子さんに行列に並んで買ってきたロールケーキを渡すと、フミ子さんはちょっと驚いたみたいだったけれど、すぐに目元を綻ばせて受け取ってくれた。


「あら、こんなにいっぱい」
「5本あるんで、2本は皆で食べようかと思って。1本はフミ子さんたちへ、運転手さんにはもう1本差し上げましたし」
「残りの2本は?」
「……お客さん、来てませんか? えと、景吾君達のテニスの……」
「ああ! ええ、ええ、来られてますよ、元気の良い男の子達が5人」


彼女の返答に続いて、テニスコートの方からかすかな掛け声というか、怒声というか、悲鳴というか……とりあえず、元気の良さそうな声は聞こえてくる。
彼らの練習(?)はまだまだ終りそうもない。


「お疲れでしょう? シャワーでも浴びてゆっくりなさったら」
「そうします」
「冷たいレモネードをお部屋にお持ちしますね」
「ありがとうございます」


あ、でも。


「……フミ子さん」
「はい?」
「そのレモネード、10人分くらい作れます?」


訊くと、フミ子さんは心得顔で頷いた。


「もう用意してますよ。後でお渡ししに行かれますか?」
「はいっ」


さすが榊先生が雇っただけあって優秀な家政婦さんだなぁ。
軽く感動を覚えながら、着替えのために部屋に戻った。


……つもりだったのに。


「……しくった」


いつの間に寝てたの、私。
えーと、確か、汗を流そうとシャワーを浴びて、それから買ってきたばかりの服に着替えてから、ちょっと疲れたなぁ、とぼすっとベッドに身を投げ出し……たのがいけなかったのか。そりゃそうだ。

枕元においてある目覚まし時計は私が最後に見たときからきっかり2時間経過していることを示している。

「さすがにもう練習は終っちゃってるよねぇ」


矢鱈と広大なベランダへと続いているフランス窓の外へと目を向けてみれば、外に出る事を考えるだけでも眩暈がしそうな陽光も、大分西へと傾きかけている。知らない間に比嘉中の彼らが帰っちゃってたら悲しいなぁ。折角仲良く慣れるチャンスだったのに。

やっちまった感満載で身支度を整えて部屋を出ると、キッチンからカートを押してでてきたフミ子さんに会った。


「あら、お嬢様。もうお目覚めになられたんですか?」
「あー、はい。すみません、すぐ戻ってくるって言ったのに」


レモネードの約束を思い出して頭を下げれば、フミ子さんは「いいんですよ」と笑い飛ばしてくれた。


「ぐっすりお休みになってらっしゃったから、起こすのが忍びなくて」
「ありがとうございます」


あのだらしない寝姿を見られたのかと思えば気恥ずかしい。
が、フミ子さんの屈託のない笑顔に気にしないことにして、フミ子さんが押してるカートの中身に話を振ってみた。


「…なんですか、それ?」
「ドリンクです。頑張ってる坊ちゃん方へそろそろ差し入れようかと」


直球で尋ねた私に簡潔に答えてくれたフミ子さんは、更に私も一緒に行かないかと誘ってくれた。それに間髪入れず「行きます!」と答えたのは良いとして、跡部君達がまだ練習続けてたことに驚いた。それも、十分程度の休憩を挟みつつもほぼノンストップだと聞いて更にびっくり。


「すごい体力だなぁ……暑いのに」


もっとも、彼らは揃って全国レベルらしいので、それくらいでなければ務まらないのかもしれないけど。

考えてみれば、皆がテニスしてるところを見るのはこれが初めてだった。

だって私が知ってるのはゲームの『テニスの王子様』だけだから。
アレはジャンル的には完璧に乙女ゲーなため、氷帝の皆のプレイスタイルどころか、テニスの練習というもの自体が未知の領域で、どんな風にやってるんだろうと考えただけでわくわくしてくる。
ゲームの中では変なドリンク作ってたりした人もいたけど、青学のキャラだったからここにはいないんだよね。フミ子さんが運んでるのも真っ当なスポーツドリンクだし。
『王子様』っていうくらいだから、すっごい気取ったプレイしたりして。
特に景吾君とか。


「……………うっわ、すっごい似合う」
「はい?」
「いえ、なんでも」


思わず噴出した私に向けられたフミ子さんの怪訝そうな視線を軽く避けて、テニスコートへと足を進めた…の、だけ……ど。


「はいでぇ!」


バシュゥゥゥン!


「甘いぜ!」


シュンッ。



…………。



「海賊の角笛!!」
「もっと飛んでミソ?」
「ビッグバン!!」
「ローズウィップ!」



……………………えーっと。

うん。

すいません。
私の考えが甘かったです。

っていうか、なんかもう有り得ない衝撃音がしてるんですけど?!
テニスって言ったら普通、パコーンッ、とか、スパンッって感じの音じゃないの?!
何ですか、あの、『うっかりボールに当ったらもれなく天国見れちゃいます』的な音は!!
おまけに皆、何か必殺技の名前みたいなの叫んでるし!!
がっくんのありえないジャンプ力と宍戸君の瞬間移動はゲームにあったから知ってるけど!


「……この世界のテニスって、命懸けの格闘技だったんだ……」
「皆良く頑張ってますねぇ」


呆然とする私の隣でフミ子さんはニコニコ笑っている。
彼女にとっては見慣れた光景らしい。
……私にはサイボーグの集団にしか見えません。生身で攻殻機動隊に入れるんじゃないでしょーか。

まぁ、それでも。
この時点で既に私は非常に近寄りたくなくなっていたものの、フェンスの扉を先回りして開けてくれたフミ子さんのいい笑顔に逆らうこともできず、魔の空間に足を踏み入れた。
多少、表情筋が引きつっていたのは見ないことにしていただきたい。


「おーい、みんなー、きゅ」


…うけいにしない? と続くはずだった私の意を決した呼びかけは、「大飯匙倩!!」の叫び声と共にありえない方向からありえないスピードで飛来し、私の頬ギリギリを掠めて後ろのフェンスに突き刺さったボールにかき消された。
「お嬢様! 大丈夫ですか?!」あんまりにもビックリしすぎてフミ子さんの声も少し遠くに聞こえる。


「お嬢様、お怪我は?!」
「あ…だ、大丈夫、です。かすめただけ…」
!!」


血相を変えた氷帝の皆が駆け寄ってくる。
中でも一番に辿り着いた景吾君がその指で私の顎を捕え、ボールが掠めた辺りを検分するとすぐに、ちっという舌打ちが聞こえた。


「切れちゃいねぇが、赤くなってやがる。……おい平古場! テメェはボールコントロールも満足に出来ねぇのかよ!」
「あぎじゃびよ〜」
「…驚いてる場合じゃないでしょう、平古場君」
「あー、けど、いきなりフェンスの中に入ってくる方が悪いんさぁ」


……なんだと?
その物言いに引っかかって派手な金髪頭を睨むと、平古場君は「意地を張って謝れなくなった子供」そのものの表情でそっぽを向いている。それでも気になるのか、チラチラとこちらの様子を窺うように視線を飛ばしてくる辺りまでが全く子供そのものだ。


「平古場君」
「わっ、わんは悪くない!」
「りーん、意地はるなってー」
「はぁやぁ…」
「う、うるせぇ!」


さすがにチームメイトだけあって沖縄の子達はみんな、彼が意地を張ってるだけだと判っているらしい。氷帝の皆は平古場君の私が悪い発言で険悪オーラを漂わせ始めているので、早いところ何とかして欲しいんだけど。
そう思っているのが顔に出てたのか、木手君がちらりと私を見遣ると小さく溜息をついた。


「…平古場君」


名前を呼んだだけなのに、声に篭る凄みが肩を震わせる。
流石の殺し屋さんには平古場君も勝てないらしい。「…なんだよ」気丈に睨み返しているけれど、さっきよりも怯みがちなのは傍目で見ても明らかだ。
と、ひょろっと背の高い強面クンが平古場君の肩を叩いた。


「凛」
「う……」
「悪いことしたら、謝らなくちゃダメだ」
「……わざとじゃないさー」
「わざとじゃなくても」
「……」
「凛」


駄目押しのように名前を呼ばれて、平古場君は折れた。
てとてとと私の目の前にやってきて、「…ごめんなさい」と頭を下げる。
……まるでちいちゃい子とお母さんを見てるみたいだと思ったのは内緒だ。


「あい? やー、もしかして朝、街で会わんかったばー?」


ひょこりと甲斐君が顔を覗き込んでくる。
なんだか犬っぽくて笑ってしまった。


「やっと気が着いた?」
「やっぱり?!」
「あー」
「そう言えば…」
「さっきはありがとうございました。助かったよ」


ニコリと笑って返す私に、「何の話だ」と景吾君が詰め寄って、本日の練習は終了と相成りました。









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久し振りすぎる…まだ3月なのよね、この話(遠い目)