小学校、中学校、高校、大学。
都合4回の卒業式を経験してきたけど・・・
「先輩っ、高校へ行っても私たちのこと忘れないでくださいっ」
「お体を大事にして下さいねっ」
「たまには遊びに来てくださいっ」
「わたしっ、私先輩のこと大好きでしたっ」
「私達も!」
「あ、あはは。うん、皆、ありがとう」
……正直、ここまで居心地の悪い卒業式は初めてです。
La Dolce Vita
〜急転直下な大移動〜
涙と共に群がってくる下級生達から開放されて、真っ直ぐ向かったのは校門……ではなくて、生徒会室。ドアをノックすると、どうぞと応じる声と同時にドアが開かれた。
「いっやー、すごかったねー。さすが演劇部のアイドル『様』」
「……ちーちゃん」
部屋の一番奥でぱちぱちと拍手している元生徒会長様をじろりと睨む。
が、私が本気でないのが判るのか、全く動じる様子がない。
「まぁまぁ、会長も先輩と久し振りに会えて嬉しいからってじゃれないでくださいよ、時間がないんですから」
「じゃれてないっ。それに、もう生徒会長はアンタでしょうが!」
「あーそうでしたね。すいません、元会長」
「ったくもう」
ドアを開けてくれたのんちゃんは、私の手から花束やらプレゼントの小箱やらを手際よく受け取って用意してあった段ボール箱の中へ放り込んでいく……ちーちゃんを適当にあしらいながら。
「ゴメン、廊下の道々にも幾つか落ちちゃってるんだけど…」
片手で杖をついている身としては拾うこともままならないから、仕方なく放置してきたのだと告げると、のんちゃんは有能な秘書のように微笑んだ。
「ちゃんと専任スタッフが回収してますから大丈夫ですよ」
「専任スタッフ?」
「書記と会計です」
「…成程」
「先輩に渡しきれなかった子達の分も預かってますから、その分と併せて送っておきますね」
「お世話掛けます」
聞けば、この二人は2年もの間生徒会でコンビを組んでいたのだそうで、その名物コンビの片割れであるちーちゃんはこっちの世界の私の親友だという繋がりから、必然的にのんちゃんとも親しい間柄、なのだとか。
出席日数が充分足りていることと殆ど自由登校だったことに甘えて、退院してもこの学校へ通うことはなかったのだけれど、病院へお見舞いに来てくれた彼女達とだけは連絡を取り合っていた。
だから、彼女たちは私の記憶が『失われている』ことも充分承知している。
その上で、なんでもないことのように普通に接してくれているのが嬉しかった。
「ま、生意気な後輩は置いといて」
この話題では勝てないと悟ったのか、ちーちゃんが私へ向き直る。
「隣の準備室で着替えてきなよ。着替えは持ってきてあるんでしょ?」
「うん。朝、言われたとおり置いといた」
「じゃあ、さっさと行った行った」
「あ、先輩。手伝い要ります?」
「大丈夫、着替えくらいならもう一人で出来るから」
さすがに、立ったままじゃ厳しいんだけどね、まだ。
身支度を終え、生徒会の誘導の元、ちーちゃんといっしょに正門を出た。
未だ校外に出ることを禁じられている後輩達が黒だかりの山となって私達に手を振ってくれている。私のことを演劇部のアイドルだのなんだのと揶揄しているが、ちーちゃんだって2年連続生徒会長に選出された 立候補したわけではないらしい 人気者なわけで。
厄介者二人を送り出した生徒会役員の面々は一仕事を終えた感満載の、やたら好い笑顔をしていた。
「じゃ、またね」
「うん、ばいばい」
そんな彼女ともあっさり別れて、歩くこと、数歩。
「遅ぇ」
「ちゃんおつかれー」
「お疲れさん」
「すっげぇな、あの見送りの数!」
「女版跡部見てるみたいだったぜ」
「フフッ。慕われるのは良い事だよ」
学校の周囲を巡る壁に横付けされたリムジンに腕組みしながら寄りかかる俺様を筆頭に、お馴染みの面々が私を待ち受けていた。
「この俺を待たせるとは、いい度胸だなァ、アーン?」
「勘弁してよ、これでも頑張ったんだから」
すらりと長い指先で顎を上げさせられたが、空いた左手で丁重に払い除けた。
「まぁ確かに、すっかり囲まれちまってたもんな」
宍戸君のフォローにしっかり頷く。
「この足じゃ走って逃げるわけにもいかないし、そもそもあんなに囲まれるなんて思ってもみなかったっての!」
「演劇部のアイドル…だっけ? 宝塚の男役みたいなものなんだろうね」
「多分ね……ちーちゃんが言うには、娯楽も何にもない僻地の全寮制ミッションスクールにおける数少ない『癒し』なんだってさ」
なんたってテレビを見ることもままならないらしい。
……よくそんな学校に通おうと思ったな、こっちの私。
最も、学力は高いし世間の評判も非常に良い学校らしいけど。
「要するに行き場のない欲求不満の捌け口か。不毛だな」
……全くもってその通り、なんだけども。
ちょぉおっとムカっときた。
「その通りだとは思うけど、中学生で女慣れしちゃってるような景吾君には言われたくないでしょうね」
「……なんだと?」
「あの子達は不毛だけど純粋だもん。不純な景吾君とはちがいますー」
「テメ…っ」
別に私が彼女たちを庇う理由なんてないんだけどさ。
でもあんな風に一途に慕ってきてくれる子達を馬鹿にされるのは納得がいかない。
「ちゃーんと知ってるんだから」
「何をだよ」
「このひと月あまりで、景吾君がデートに出かけた相手。全部違う女の子だったでしょ」
「…それはっ」
「いいけどさ、どんだけ遊んでようと本人達が納得済みなら自己責任だし。けど、自分のこと棚に上げて人様のこと批判しないでね」
「……っ」
景吾君が言葉に詰まったところで、忍足君が「まぁまぁ」と割って入った。
「喧嘩するほど仲良ぅなったのはええ……いや、あんま良ぅないな。妬けてまうし。姫さんも跡部とばっかり仲良ぅせんとちょっとは俺らにも構ってぇな」
「え? いや、仲良くしてたわけじゃ」
むしろ、喧嘩勃発ギリギリだったんですが。
「て言うかな、早よ車ん中おいで。そんな薄着やったら寒いやろ」
「そうそう、折角風邪が治ったところだったのに、また引き込んじゃうよ?」
忍足君が執事よろしく開けてくれたドアの中、滝君が手招きして私が座るスペースを開けてくれる。そして、小さく舌打ちをした景吾君は、それで怒りの矛先が鈍ってしまったのか私の肩を抱くようにしてリムジンへ乗り込ませてくれた。
そして、私の向かいには景吾君が座る。
「出せ」
の指示と共に相変わらず滑らかに走り出した車内は忍足君の言う通り暖かくて、無意識にほぅっと息を吐いていた。
服を用意してくれたメイドの春子さんには申し訳ないけど、今日は比較的気温が高かったとはいえ、やっぱりシャツとジーンズだけというのは無謀だったらしい。一応、シャツの下に長袖のTシャツも着込んだのだけれど。
…おお、爪がちょっと青くなってる。
「…大丈夫か?」
そんな私の様子に気付いたらしい景吾君が心配そうにこちらを見ていた。
さっきまで喧嘩していたのに、優しい彼にちょっと気恥ずかしさを覚える。きっと大丈夫だと応えた私の顔は変だったに違いない。
「悪かったな。軽装にしろと指示したのは俺だ」
「え? そうなの?」
「ああ。これから向かう場所は、それでも重装備過ぎるくらいなはずだからな」
「は? え?」
これから向かうって・・・
「一体、どこへ行くつもりなの?」
問えば、景吾君はにやりといつもの笑みを浮かべて。
「沖縄だ」
簡潔に、答えてくれやがった。
next.
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おまけ@
10日前の跡部家での会話
「うぅ〜〜、あたまいたい…」
「熱出てんだから当たり前だ、バーカ」
「けーごくん…」
「……なんだ?」
「ごめんね、たおるとりかえてもらって」
「…気にすんな」
「だって、ひえぴただったらてまかからないのに…」
「気にすんなっつってんだろ。大体、アレは冷えすぎて余計に頭が痛いって拒否したのは誰だよ」
「わたしです…」
「だったら、こうなるのは判ってただろうが」
「……や、じぶんでやろうとおもってたし……」
「病人は大人しく寝てろ。でもって早く風邪を治せ」
「…あい」
「……まぁ、ここのところ寒暖の差が激しかったからな。退院したてのお前が風邪を引いても仕方がねぇ」
「……ぅん」
「風邪が治ったらどこか暖かいところにでも行くか?」
「………ん…」
「……おい? …………なんだ、もう寝たのかよ。薬が効いたのか? ったく、まだどこに行くか決めてねぇじゃねぇか。海外……は、コイツにパスポートがなかったらマズイな、だとすると国内だな…」
景吾君は有言実行の人でした。
そのA
車が空港に着くまでの会話
「そういや、何でわざわざ学校で着替えたんだよ? 一旦跡部ん家に戻ってからでも良かったんじゃねぇか?」
「クソクソ宍戸! それ、今俺が聞こうと思ってたのに!」
「なんだよ、誰が聞いても同じだろ」
「そうだよ向日。それに、疑問はそれだけじゃないしね」
「え? なんか他にあったか?」
「よぅ見てみ、がっくん。姫さん手ブラやろ。花やらプレゼントやらはともかく、着替えた制服はどないしてん?」
「…あ! そーだよなっ、どこやったんだよ、!」
「え? 制服なら学校に…って言うか、生徒会に寄付してきたよ?」
「「「「はぁ?」」」」
「だから学校で着替えたの。ちーちゃんがそうしてくれって言ってたし」
「……聞いて良いか?」
「うん」
「その、寄付した制服をアイツらどうするつもりなんだ?」
「細かく切って分けるんだって」
「「「「はぁっ?!」」」」
「ほら、第2ボタン下さいとか、記念品下さいとか、よくあるでしょ?」
「あ、ああ」
「俺らもそれでもみくちゃにされたクチや」
「あれはすごかったよなー…」
「特に跡部と忍足がね」
「でしょ。でもほら、今の私怪我人だから、もみくちゃにされたらイチコロだし、そもそも制服のボタンやスカーフの奪い合いで混乱がおきても生徒会は困るし、だったら最初から生徒会から希望者へ配布するって形を取った方が安全で合理的だからって」
「で、希望者が多いから人数分に切り分けるってことかよ…」
「ちなみに、ちーちゃんのも同じ配布方式だよ」
「確かに安全で合理的だけど…」
「すっげーな、」
「いや、この場合、凄いんはそんなこと考え付いた元生徒会長さんやで」
「「「……確かに!……」」」
「……………ぐー………」
ちなみに、景吾君は制服の行き先については事前に知らされてました。
「……その手があったか…っ」
軽くショックを受けていた背中が可愛かったことは秘密です。