「だから、もう大丈夫だってば! I'm quite fine! entirely!completely!
perfectly!」
「Nein!! 駄目だっつってんだろうが。何度同じことを言わせやがる! こンの
Die Selbstsuchtigkeit Frau」
「わがまま?! これわがままなの?! 私の仕事なんだけど!!」
ドアを開けた途端どっと襲ってきた言葉の洪水に、「……どないしてん」呆れつ
つもすぐに気を取り直して割り込んだ忍足は後続レギュラー陣の目に勇者と認識
された……の、だが。
「この馬鹿が次の土曜に『バイト』で家を空けるっつってきかねぇんだよ!」
「…は?」
「ちょっと、馬鹿って言うな!」
跡部の一言により、空気は一変した。
「バイトに行くて、そらアカンやろ」
「お前何考えてんだ? 検査入院したの、つい先週の話だぞ?!」
「そうですよ! また何かあったらどうするんですか!」
「ゼッテー駄目だかんな!」
「俺もー。はんたーい」
「馬鹿ですか、アンタ」
「……俺も無謀だと思います」
ストーカー事件から1週間、頼もしいボディガード達は一斉に過保護者へと華麗
なる転身を遂げていた。
跡部が来てくれた、と認識した途端に気が抜けてしまったのか、その後の記憶が
かなりの部分曖昧で、次に気が付いたときには何故か跡部の腕の中にいた。
「……あ、れ?」
首を絞められたせいか、掠れた声が我ながら耳障りに響く。
「目が覚めたか」
「…跡部」
ほっとしたように息を吐いた彼に首を傾げると、「自分、気絶しとってんで」と
横から といっても、にとっての横であって跡部とは正対しているら
しいのだが 忍足がそっと前髪の辺りを撫でながら教えてくれた。
「大丈夫か? 気分悪いとか眩暈とかせぇへんか?」
「……大丈夫みたい。今のところ」
床に叩きつけられた後頭部が痛いだけ。
訊かれて、しばらく考えてから答える。
「そうか。けど、場所が場所やからちゃんと検査せなな。もうちょっとしたら跡
部の車で病院行くで」
「ん」
頷きながらも、「もうちょっと」という言葉に引っ掛かりを覚えてゆっくりと首
を巡らせると、少し離れたところに滝と鳳に日吉が見知らぬ大人に向かって何か
話しているのが見えた。
「警察だ」
「え?」
「ついさっき犯人引き渡したとこやねん。で、状況説明しとるトコ」
「……慈郎と岳人は? それに樺地クンと宍戸も……」
まだ学校に残っているのかもしれないが、はそうは考え付かなかった。
彼らがこんな騒ぎが起きているときに大人しくしているとは到底思えなかったか
らだが、その考えは見事に的を得ていた。
「宍戸と樺地には学園へ連絡させてる」
「岳人とジローは……ちょっと刑事さんにお小言くらっとんねん」
「は?」
「ちょっとやりすぎてもうてなぁ」
「ハン、あれくらい当然だ」
仕方ない、と溜息を吐いた忍足とは対照的に、跡部は納得がいかない様子。
話を聞けば、跡部がドアを蹴破る勢いで飛び込んできたその後に彼らが続いたの
だったが、を襲う犯人の姿を目にした瞬間に怒りが爆発したらしい。
その頭めがけて先ず岳人が見事な跳び蹴りを見舞い、吹っ飛んだところをすかさ
ず慈郎が頭を踏みつけ、渾身の力を込めて踏みにじり、苦しみもがく胴体の上に
樺地がどすん、と座り込んで抑え付けたのだとか。
こっそり戦闘態勢をとっていた日吉が出張る隙もないほどだった。
「それは……あの男も災難だったね」
「自業自得だろ」
「それはそうやねんけどな、警察が着くまで、しつっこく踏み続けてたんはマズ
イやろ。明らかにやりすぎやん」
「それで、お小言…?」
「そうや」
「大したことねぇだろ、その程度」
「……跡部?」
何で機嫌悪いの?
問えば、尚更眉間の皺が深くなる。
忍足が笑った。
「忍足?」
「跡部なぁ、さっきからずっと拗ねとんねん」
「忍足! 余計なことを言うな!」
「ほらほら跡部、の耳元で大声だすなや。頭打っとんねんで」
「…っ!」
すまん、と小さく呟くように謝った跡部に、忍足は堪え切れないようにくすくす
と笑った。
「拗ねてるって…」
「犯人に蹴り入れたんは岳人やし、追い討ちかけたんは慈郎やろ? 押さえ付け
たのも樺地やったしで、跡部が手を下す暇があらへんかってん。跡部はそれが不
満なんやって」
「忍足……テメェ、覚悟はいいな?」
「の介抱っちゅう大事な役目を果たしてんのに、贅沢やんなぁ」
跡部の脅しも、忍足には通じないらしい。
もつられるように笑みを浮かべた。
「贅沢じゃない跡部なんて、跡部じゃないよ」
この切り替えしは予想していなかったらしい。
一瞬目を見開いた忍足は、「言えてるわ」今度こそ声を上げて笑った。
「……おい、いつまで笑ってやがる。説教が終わったらしいぜ」
跡部が顎で示す方へ目を向ければ、不満顔でこちらへ歩いてくる二人が見えた。
「岳人、慈郎」
「ちゃん!」
「気がついたのかよ! 大丈夫か?」
それでも、目覚めたに気が付いた途端に慌てて駆け寄ってくる。心配げな
顔つきの中にどこかほっとしたような色を覗かせる二人に、は申し訳なさ
で一杯になりつつ、それでも精一杯の笑顔を見せた。
「ん、もう大丈夫。だけど念の為に病院に行こうって忍足に言われてたところ」
「そうだね〜、その方がEよ」
「だな。用心しといた方がいいぜ?」
「…うん」
そうしている内に、他のメンバーも各々集まってきた。
「終わったのかよ、滝」
「まぁね。さんへの事情聴取はまた後日だって」
「余罪含めて徹底的に罪を追及しろと念を押したか?」
「勿論。……って言っても、僕ら子供の言うことをどこまで真剣に取ってもらえ
るのか、疑問だけどね」
「それは『跡部』から警視総監に連絡しとく。心配は無用だ」
「さすが、容赦ないね」
滝がニコリと笑むと、跡部はハン、と鼻先で笑った。
「警官のクセに女子高生ストーカーしやがる腐った野郎だ。身内だからって手心
加えやがったらただじゃおかねぇ」
を襲ったストーカーの顔を見た瞬間、跡部には見覚えのある顔だとすぐに
わかった。
頬に怪我をしたを病院から送り届けた日、マンションの回りをパトロール
していた『お巡りさん』だったからだ。
「俺達も、今日のところはとりあえず帰って良いそうですよ」
「って言うたかて、ここをこのまんま放ってくわけにいかへんやろ。警察に好き
放題掻き回されんのはかて嫌やろうし」
「ああ、その辺りのことはさっき駆け付けて来られた弁護士さんが話をされるの
で心配はいらないそうです」
「弁護士? 誰のことだよ、鳳」
「さぁ…? 俺にも詳しいことはちょっと…」
「大方、榊監督が手を回したんじゃないですか?」
「ああ、それなら納得ぅ」
「……いいえ、違います」
「俺達も下で会ったけど、なんかの後見人とか言ってたぜ?」
なぁ、樺地?
跡部の十八番を宍戸が口にすれば、樺地がいつもの如く応える。
「後見人?」
「…はい」
「そっか……榊監督が先生を呼んでくれたんだ……」
学校側には当然、非常時の連絡先を伝えてある。
榊が手配してくれたのだとしか考えられなかった。
「知り合いなんか?」
「ん、大丈夫」
「……なぁ、後見人って……」
「話が付いたんなら、病院に行くぞ。付いてきたい奴は勝手にしろ。……但し、
ぐずぐずしてたら置いていくがな」
宍戸を遮るように言い放ち、それと同時に跡部の腕にぐっと力が篭った。
あっけないほど簡単に体が引き上げられる。
「あ、跡部?!」
歩けるから下ろして!
抱き上げられているのだと気付いて抗議するものの、「黙って大人しくしてろ」
逆に一喝されてしまった。
「頭を打ってるんだ。出来る限り揺らさねぇようにするのが鉄則だろうが。そん
なことも解らねぇのか、アーン?」
「で、でもっ」
「直ぐに車に着く。黙ってろ」
「………」
一切の抗議は受け付けないとばかりに顔を逸らされてしまった。
忍足たちに目を向けても、「諦めろ」と目顔で言われてしまう。
「……ご迷惑をおかけします」
「それでいい」
まぁいっか。
車に着くのは直ぐだと自分に言い聞かせて、目を閉じただった。
……が、結局病院に着いても診察室まで抱き抱えられたまま運ばれ、道ゆく人々
の視線を存分に浴びる羽目になってしまうのだが。
跡部が事前に連絡を入れていたお陰だろう、到着早々に頭部の精密検査を受ける
ことができただったが、それでもそのまま検査と経過観察のために1泊の
入院を余儀なくされてしまった。
流石にあんなことがあった直後に一人きりで病室に泊まるのを不安がった
の為に、なんと、自宅で連絡を待つに報告を兼ねて帰宅した滝を除く全員
が付き添いと称して一晩中ずっと一緒にいてくれた。
簡易ベッドを部屋に入るだけ用意してくれた看護士には迷惑をかけてしまったが、
皆の気持ちが本当に有り難くて嬉しくて。
その気持ちは今でも変わりはない。
が、あれからもう一週間経っているのだし、彼らの過保護もそろそろ解禁しても
らいたいとは真剣に願っている。
「検査結果だって問題ないって出たんだよ? なんでダメなのよ〜」
「しょーがないって」
取り込んだばかりのタオルの山に突っ伏しながら嘆いたら、「そんなことしてた
ら畳めないでしょ」にあっさり奪われてしまった。
「……ちゃん、冷たい」
「氷帝男子テニス部マネに余分な時間はないの。嘆いても何でも良いから手は動
かしてね。……大体、幾ら反対されたって『アルバイト』には行くつもりなんで
しょ?」
見透かしたように微笑んだに、もにっこりと笑みを返し、山と積み
上げられたタオルを畳み始めた。
next.
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誕生日おめでとう、跡部様!
お誕生日祝いはまた後日。
(これを書き上げたのは10/4でした)