跡部による強制テニス部見学から10日間。
何でこんなことになっているんだというの嘆きは、まだ続行中だった。
「、こっちにタオル」
「あ、すいません俺にも」
「マネージャー、ドリンクは? 俺のどこぉ?」
「あれぇ? なぁ、俺のジャージ何処行ったんか知らん?」
「−、今の俺の勇姿見たかっ」
「先輩、業者が備品の納入に来てますが」
「………………あの、部長が呼んでます」
…………………………………………………………………………………………ぷちっ
「あーーーーーー!!! もうっ、いっぺんに言うなっ! いっぺんに!!」
私は影分身の術なんか使えないだってばよ!
肺活量の全てを使って叫んだは、両手に抱えていた特大の洗濯籠をぼすっと
投げつけるように日吉に押し付けると、くるり、と我侭なレギュラー陣をねめつけた。
「宍戸! 長太郎! タオルはさっきあんたらが自分でそこのフェンスに引っ掛けて
たでしょーが! いちいち取りに行くのが面倒とか言って!!」」
「あ? そうだっけ?」
「す、すいませんっ」
の怒声に恐縮したように肩を竦めた長太郎が慌てて背後のフェンスに走り、そ
の後を宍戸が後頭部を手で掻きながらゆったりと続いた。
「慈郎少年のドリンクはベンチの横のクーラーボックスの中! 忍足は今日はコート
に来たときからジャージなんて着てなかったでしょうが! 岳人少年! 君の勇姿を
のんびり見てられるほど暇だと思う?!」
「はーいっ」
「あれ、そうやったけ?」
「ご、ごめんっ」
名前を呼ばれた三人もそれぞれに散っていく。
「先輩、業者が…」
「分かってる。すぐに行くからそれ、部室まで運んどいて」
「何で俺がっ」
「近くにいたから。それに、「出来る限りには協力するように」でしょ?」
「っく」
顧問と部長の同音異口の言葉を引き合いに出して日吉の反論を抑え込むと、
は最後に残った樺地に苦笑を向けた。
「聞いての通りだから。備品の受け取りが終わったらすぐに行くって、部長に言っ
といてくれる?」
「………………ウス」
「まぁ、どうせ大した用事じゃないんだろうけど」
「………………」
コメントに困る後輩の背を労うように軽く叩いて、はフェンスを抜けて、業者
が待っているであろう正門の方へと走り去った。
「ったくもう、何でこんなことに…」
走りながら、は何度目か分からない嘆きを繰り返した。
10日前、目の前で見事にスッコロんでくれたは、運の悪いことにしっ
かりと右足首を捻挫しており、それでも健気に「部活をする」と言い張る彼女を見捨
てることが出来るほど、は残念ながら冷徹な構造はしていなかった。
だからして、
ついうっかり。
言ってしまったりしたのだ。
自分がやるから、貴女は指示だけしてくれ、と。
それが、イノチトリだったと、知ったのは翌日の事。
「部外者に仕事をさせるわけには行かないだろう」
榊の言葉は拒絶ではなく、むしろ悪魔の囁きだった。
するりと差し出されたA6版の白い紙は正に『魂の売買契約書』。
「仮入部、とかそういう制度はないんですか?」
かなり引き攣った顔でそう問うたのに、榊はあっさり「ないな」と答え、「じゃあ、
やめます。誰か別の人間探してください」と踵を返そうとしたを跡部がその
尊大な態度と口調と表情で遮った。
「別の人間なんていねぇよ。お前が入部しないんならは捻挫した足を引き
ずってでも部活しなくちゃならないだろうなぁ?」
それに返す言葉を見つける前に、申し訳ないと全身で表現しているマネージャーの
の顔を見てしまったのが敗因か。
……と、言うより、絶対にそれを狙って彼女を同席させたのだろうけれども。
結果。
『魂の売買契約書』にはしっかりの名前が載り。
しかしもさるもの。
付帯条項をこれでもかと盛り込んで、この契約が高価くついたのは一体どちらなのか。
配達された備品の内容と数を検分して受領印を押し、引き取った荷物を台車に載せ
て備品倉庫へしまう。
しっかり施錠を確認したところで、聞こえてきたのは女の金切り声。
なぜか部室の方から聞こえてきて、あまり聞いていて気持ちのいい声ではないそれ
には眉根を寄せた。
またか、と思う。
この学校の男子テニス部員というのは何故か無闇矢鱈と女性にモテる。
確かに顔はいいし、スポーツ、それもテニスなどと言うノーブルな競技が全国レベ
ルとなれば、ただでさえ夢見がちな女生徒に夢を与えてしまうのも仕方のないこと
なのかもしれないが、しかし、集まってくる人数が多ければ多いほど問題もまた多
発するのは自明の理である。
この10日の間でも、は既に2件の修羅場と3件の呼び出しを受けていた。
揉め事には極力関わりたくない。
しかし、放っておくわけにはいかない。
放っておける筈もない。
なぜならば、は今からそこにいるであろう俺様部長様に呼ばれているのだから。
しかし。
溜息をつきつつ部室に足を運んだは、やはり来なければ良かったと後悔した。
くるりと踵を返してしまいたい衝動を必死で抑える。
そこには。
部室のドアの前でいつもの通り尊大に腕組みなぞをしている跡部と、般若の面さなが
らの表情をした小柄な女生徒が対峙し、正に修羅場の雰囲気を醸し出していた。
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跡部様、台詞ないし。