「……あり得ない。なんでこんなことになってんの?」
半ば呆然と呟いた言葉は、
「煩ぇ。おとなしくそこで見てろ」
見事なまでに偉そうな一言ですっぱり斬られてしまった。
目の前には一部の隙もなく整備されたテニスコート。
躾の行き届いた男子生徒……というか、テニス部員たちは余程と俺様テニス部
部長が気になるのか、ちらちらとこっちを見てる。
そして飛び交う黄色いボールと小気味のいい音。
はと言えばあちこち擦ったり打ったりして痛む身体をベンチに預け、隣には不機
嫌丸出しの俺様野郎が座ってる。
……そう。
は何故かあれほど逃げ回っていたテニス部の、その本拠地というべき場所で暢
気にペットボトルのお茶なんかを啜っていたりするのだ。
しかもこのお茶は、どういう風の吹き回しか跡部の奢りで。
何気に跡部もドリンク飲んでまったりしてる。
「ーっ、俺のムーンサルト見てミソ!!」
「あー、はいはい。ちゃんと見てるよー」
矢鱈張り切ってるらしい岳人がぶんぶん手を振ってくるのへおざなりに手を振り返し
たりもしつつ。
…………本当に何なのだろう、この状況は?
「生徒会長、一つ質問」
「何だ」
「あの不思議メガネの名前は?」
「……忍足のことか?」
「おしたり?」
「ああ。岳人のダブルスパートナーだ」
「ふぅん?」
「不思議メガネ」の一言で誰のことか判ったのか、と跡部に突っ込みを入れたくなっ
たが、とりあえずそこはぐっと胸の内に押さえ込んだ。
そんなことより、今は忍足である。
はむぅっと岳人と打ち合う忍足の姿を睨みつけた。
何を隠そう―――別に隠してもいないが―――、今のこのの状況は全て忍足の
せいなのだ。
……否、それを言うならそもそもの原因は跡部にあるのだけれど。
「ったく」
「あ?」
「FANの躾がなってないね、生徒会長」
ちらり、と何の感情も込めずに目を遣れば、不機嫌そうな表情もそのままにチッと舌
打ちして「俺の知ったことか」と返ってくる。
それはそうだと思うが、理不尽にも下校時に突然取り囲まれ、暴力一歩手前の行動と
暴力そのものの言葉を叩きつけられた身としては元凶に一言言いたいのもまた人情だ。
がそんな目に遭ったのも、元はと言えば跡部が「テニス部のマネになれ」と何
度も断ったにもかかわらずしつこく付きまとってくるからで。
「日頃の行いが悪いから私にとばっちりが来てるのよ。ちょっと反省して自省してみ
たらどうよ?」
たまたま通りがかった忍足が割り込んで来たので助かったが、何故かその後、忍足は
を保健室ではなく部室へと連れて行って怪我の手当てをし、当然そこに居合わ
せた跡部をはじめとする一同に事の経緯を詳らかに語ったのだった。
当事者でもないのに激怒してくれた岳人と慈郎以上に驚きだったのが、帰ろうとした
を引き留めた跡部だった。
「ふざけんな。ここまで来たんだ、練習を見ていけ」
ただそれだけを告げ、抵抗するの身体を矢鱈にガタイのデカい樺地と呼ぶ後輩
に担がせて、このベンチまで強制送還されたのだ。
訳が分からない。
狙いは何かと訊ねた所で、素直に答えが返ってくるはずもなく。
中途半端な状態に追い込んだ当人を睨みつける。
覚えてやがれ、忍足。
どうやってこの落とし前をつけてやろうかと思案していたら、コートの向う端で何や
ら重そうな籠を抱えてふらふら歩くジャージ姿の女子生徒の姿が目に入った。
「生徒会長、あれ、誰?」
「あれ? ……なんだ、じゃねぇか」
うちのマネのだと告げられる。
「なんだ、ちゃんといるんじゃないの、マネージャー」
だったらわざわざを勧誘しなくたっていいだろうにと言おうとした直前に、
「あいつ一人じゃ手が回らねぇんだよ」
跡部に先を越されてしまった。
「うちは200人からの部員がいる大所帯だ。いくら1年がマネの仕事も分担してやるっ
つっても厳しい練習の合間じゃ限界がある。完全実力主義だから何方も此奴も例え1分
でも長く練習したいと思ってるし、そうじゃない奴は要らねぇしな」
そう言う跡部はしっかりと『部長』の顔をしていた。
「……それにしたって、マネージャー志願してくる女の子は幾らでもいるでしょうに」
「もういい加減言い飽きたんだがな、。お前が良いんだよ」
「あ、そ」
それこそ聞き飽きた台詞を聞き流しているの目線の先で、
「あっ」
重そうな籠が宙を舞った。
途端に散乱する白い布様の物体は部員達のタオルか練習着か何かのようだ。
どうやら何かに躓いて転んだらしきは起き上がることもままならず、痛そうに
足首を擦っている。
「ちょっと大丈夫?!」
声を張り上げながら駆け出したには、跡部が背後でフッと笑みを漏らした事に
は気付けなかった。
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