サッカー部の松本クンとが別れたと噂が回るのは早かった。


「別れたんだって?」
「……いっつも思うんだけど、こういう噂って誰が最初に流してんの?」


「おはよう」の挨拶もなしに言ってきた越野クンに逆に尋ねる。
だって別れ話をしたのは昨日の夕方、松本クンの部活終了後の帰り道なのに!









SAVE ME!?













「そりゃ、本人が言ってんだろ? 他に情報源なんて考えられないんだったらさ」
「……なんで」


言っちゃ悪いけど、そんなこと言い触らしたいか?

プライバシーの侵害だよ。

松本クンのプライバシーだから彼の勝手だと言われるかもしれないけど、これは私のプライバ
シーでもあるのに。


「男の子というのは訳が分からないね、越野クン」
「俺に言うな。……お前、今朝はまだ松本と会ってないんだろ」
「顔を見てもいないよ。なんで?」
「冷たい奴だな。別れた途端にそれか?」
「普通、振られた相手とはなるべく顔を合わせたくないと思うのですが」
「はぁ?!」
「は?」


越野クンが盛大に首を傾げて素っ頓狂な声を上げたので、私も首を傾げてしまった。


「ちょっと待て」
「なんでしょう」
「誰が誰に振られたって?」
「私が松本クンに振られました」


もう付き合っていくのは無理だと思う。

帰り道に寄った公園で、そう言われたのは私。言ったのは松本クン。
私の気持ちがふらついているせいで、彼が辛い想いをしていたのは知っていたから、私は何も
言わずにうん、と頷いた。

頑張れなくて、ごめん。

松本クンは最後にそう言ってちょっとだけ微笑んだ。
とても寂しい笑顔だとそう思って、そんな表情をさせてしまったのが自分なんだということが
とても悲しかったけど、そこで私が泣くわけにはいかなかったから、代わりに私も微笑った。

私の方こそ、頑張れなくてごめん。

そう言って、微笑って別れた。


「……じゃあ、なんで振ったほうがあんなに落ち込んでて、振られた方がそんなにへらへらし
てるんだよ?」
「へらへら言うな。仕方ないでしょう、私に落ち込む権利なんかないんだから」
「悪ぃ」
「松本クン、そんなに落ち込んでた?」
「ものすっごくな。あれじゃあ、周りが心配して何があったのか聞き出そうとするのは当り前
だって」
「………そう」
「安易に付き合うからそんな事になるんだよ」


全くその通りです。
反論の余地なんてどこにもないから、話を反らせた。


「仙道クンの耳にも入ってるよね」
「当然な」


まんまと私たちの破局の原因と成り遂せた彼はどんな表情をするのだろう。
してやったりと笑うのだろうか。

だったら今はそんな顔見たくないな、と思った。






だけど、仙道クンはお昼休みになっても姿を現さなかった。






どうしたんだろう、と訝る気持ちは当然あった。
だけど、私には彼のことばかりを考える余裕なんてどこにもなかったのだ。

廊下を歩けば見知らぬ女の子たちから敵意と嫉妬の視線を浴びて。
教室に戻れば事の経緯を根掘り葉掘り聞きだそうとするクラスメイトたちに囲まれる。

それだけでも神経が磨り減る思いなのに、

漸くLHRが終ってさあこれで帰れるとほっとしたのも束の間、またもや顔も知らない女の子
数人に囲まれて、気がつけば体育館の裏まで連れ込まれてしまっていた。

イマドキ呼び出しなんてギャグ漫画の中だけの事かと思っていたのに、自分が実際に当事者に
なるなんて昨日まで思ってもみなかった。


「しかも場所もベタ過ぎ…」
「何よ?」
「いや、なんでも。……で、何の話ですか?」


予想はつくけど。
これ見よがしに溜息を吐いたのは分かりやすい嫌がらせだ。
折角帰れると思ったのに。


「謝って」
「…は?」


腕を組んで仁王立ちになったリーダー格のコは、何故か大威張りでそう言った。


「聞こえたでしょ。謝ってよ、松本クンに」
「……何で?」
「松本クン、あんなに落ち込んでかわいそう。どうせあんたが何かしたんでしょ、謝りなさい
よ。松本クンがレギュラーから落ちたらどうするのよっ」


………なんだ、それは。
滅茶苦茶な理屈に、本気で眩暈を覚えた。


「……馬鹿馬鹿しい」


軽く頭を振ってみても、眩暈は晴れてくれそうにない。
嫌味でなく、本気で溜息が出た。

帰ろう。

こんなのの相手なんてしてられない。


「ちょっと、待ちなさいよっ!」


一歩足を踏み出したら、腕を掴まれて引き戻された。


「っ!」


勢いが余ったのか、狙ったのか。
ブロック塀に思いっきり肩をぶつけられた。

痛みが一瞬で骨を伝う。

指先が痺れた。


「アンタなまいきなのよ! 松本クンだけじゃなくって仙道クンにまで手を出して!!」


……うるさい。


「このドロボウネコ!」


近くでぎゃーぎゃー騒がないでよ。


「こんな女に騙されたなんて松本クンがかわいそうよっ」


こんな女呼ばわりする前に、自分の顔を鏡で見たらどうなの?


「そうよそうよっ」


人の陰に隠れてるだけで、まともに喧嘩も出来ないような奴がごちゃごちゃ言うな。





神様。
もう限界です。


……… キ レ て も い い で す か ?







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仙道夢なのに、仙道出て来なかった…っ。(またか)





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