少しずつ晴れてゆく表情に、自然と頬が緩んだ。
世界と引き換えにしても欲しいモノ
「浮上した」と言いつつも、やっぱりどこか沈んだままの彼女が気になって、
多少強引に連れ出したはいいけれど、さてそれじゃあどこへ行くのかと聞かれ
ても全然考えていなかった。
「どこに行こうか?」
試しに問い返してみたらちょっとだけ呆れたような顔をされたけれど、機嫌を
損ねたわけではないらしく、景色を眺めるの目許は優しく緩んでいて、
こっそり様子を伺っていたカカシはほっと息をついた。
それでも暫くするとまた何かを考え込んでいるような様子を見せたから、安心
させるために声を掛ければ、は少し焦ったようだったけれどすぐに彼の
意図を察して調子を合わせてきた。
ああ、やっぱり頭がいいな。
テンポの良い会話に笑みが零れる。
ぽん、と肩の高さにある頭に手をやれば、返ってくるのははにかんだ笑顔。
どく、と心臓が鳴った。
酷く居心地が良くて、それで居て居心地の悪いような。
でも離れがたくて。
「あ、そうか」
胸の内に、ストン、と何かが落ちた。
「はい?」
キョトン、と自分を見上げてくる黒い瞳ににっこりと笑みを返す。
「俺ね、さんとこうやって歩くの好き」
「あ、私も好きです」
「そ?」
「はい」
邪気のない笑顔が間髪入れず返ってきて、カカシの目が思わず細まった。
「さんと話すのも好き。さん頭良いから話しててイライラしない
し、気を使わなくて済むし安心して話せる」
「ははは…お褒めに預かり、光栄です」
「照れなくてもいーよ」
事実だし。
付け加えると、却っての頬は赤く染まった。
それでも努めて平気な表情を保っているのが微笑ましい。
「でもね」
「はい」
「何にも話さないまま、ってのも好きなんだよね、これが」
「黙ったままでも?」
「そ。なんだか居心地良くてさ」
「……」
「さんは?」
「え?」
「さっきみたいに、俺と黙ったままぼーっと歩いたりしてて気まずかった?」
「いえ、そんなことは…」
少し考えてみる。
先ほどまでの自分達を思い出してみても、気まずさや居心地の悪さは自
身にも思い当たらなかった。
素直にそう告げると、カカシは目を一層細めて嬉しそうに笑んだ。
それを目にして何故かの頬がじわじわと熱くなる。
なんだか自分が酷く恥ずかしいことを言ったような。
でも、自分が口にした言葉を反芻してみても特別可笑しなことは言っていない。
俯きかけたの目の前に、スッと手甲を嵌めた手が差し出された。
長い指だなぁ。
一見細く見えるけれど良く見れば厚く硬そうな皮膚や傷跡だらけの指は結構ゴ
ツくて、男らしいのに綺麗だと一瞬見蕩れて、でもその手の意図が分からず上
げた目の前にはカカシが微笑みを湛えてを見ていた。
「?」
「さん、俺と『お付き合い』しない?」
「 は?」
俺ね。
カカシは先程の言葉を繰り返す。新しい言葉も付け加えて。
さんと話すのが好き。
黙ったままなのも好き。
さんと歩くの好き。
さんの作るご飯も好き。
さんの笑顔が好き。
俺の名前を読んでくれる声が好き。
つまるところ、
「俺は、さんのことが好きなわけデス」
だから俺と付き合ってください。
ぺこりと下げられた頭と差し出されたままの掌をの目は何度も何度も往
復して、今言われたばかりの言葉を理解しようとフリーズしかける思考を叱咤
する。
「あ、あの、でも」
「 昨日、さんが攫われたと知らされて、焦った。アンコが言う通り、
俺らしくなく慌ててたし冷静さを欠いていたと思う」
「あ、だってそれは…って、聞こえてたんですか?!」
「俺、耳良いんだ。ゴメ〜ンネ?」
「いや、わざわざ謝られることじゃないですけど…」
所詮、女同士の立ち話に過ぎなかったのだし。
それでも聞かれていたのだと思えば内容が内容だけに恥ずかしさがこみ上げて
くる。
「話を戻すと、俺は里のことを心配して焦ったんじゃないからね」
「え?」
「俺が心配だったのは君のこと。さんはきっと本当にヤバくなったら迷
わず自決すると思ったから」
「あ…」
「当たり、デショ?」
はこっくりと頷いた。
確かにその覚悟だったから。
「で、でもそれは本当に最後の手段でっ。出来る限り足掻いて足掻いて、それ
でも駄目だったらって!」
「うん、分かってる」
言い募ろうとするをカカシが制した。
「だからね、嬉しかった」
「へ?」
「俺が助けに行くって信じててくれたんでしょ? 死ぬ覚悟を固めてても、そ
れでも俺を信じてギリギリまで粘ろうとしてくれたの、嬉しかったよ」
「え? …えーっと、そう…なるの、かな? あれ?」
確かにその通りなのだけれど。
意識してしたことではなかったから、改めて言われると戸惑ってしまう。
のカカシに対する信頼は、彼女が里に来てから一番長く接してきた忍で、
おまけにナルトからずっと色んな話を聞いていたせいでほぼ刷り込み状態だっ
たから。
「俺が死んだと思って怒ってくれたのも嬉しかった。あんな状況だったのに、
敵を怖がるよりも俺の死に対する怒りが上回っててさ」
「あっ、や、あのっ」
「あの迫力にはビックリしたけどねー?」
「あっ、あれは忘れてくださいっ!」
「さーどうしよっかなー?」
「カカシさんっ」
「ま、それはともかく」
ごほん、と咳払い。
改めての前に手が差し出された。
「さん、俺と付き合って下さい」
「え、と…」
差し出された掌。
そこへ己のそれを一瞬重ねかけて……しかしはそれを引っ込めてしまった。
「…さん?」
「私……駄目です」
「ダメって」
「ナルトから聞きました。カカシさん、木の葉の里でも凄腕の忍者さんだって。
カカシさんは里を背負ってその上ナルト達も……この上更に私みたいな爆弾を
背負うことないです」
「さん、俺は」
「カカシさん潰れちゃう。私は一人で大丈夫ですから、だから」
ごめんなさい。
呟くように、けれどはっきりと拒絶の意思を込めて告げたは、そのまま
身を翻して駆け去ってしまった。
まさか断られると思っていなかったカカシは予想外の展開に呆然としてしまっ
て、ついその背を見送ってしまった。
が。
「…にゃろう」
これくらいで引き下がる位なら上忍なんてやっていられないのだということを、
は知らないのだろう。
カカシの目は追跡対象者を追うときのように鋭く光っていた。
next
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ああ、イライラする(笑)