「おはよー、さん」
「……おはようございます?」
目が覚めたら、
目の前にはイイ男。
でも、自分は寝起きのすっぴん。パジャマ代わりのよれよれTシャツ。
脳裏を過ぎるチワワの可愛い某CMソング(?)
なんてこと言ってる暇なんかあるか!
「うっきゃーーっ! もうこんな時間! 朝ご飯何にもしてないのに!」
世界と引き換えにしても欲しいもの
いつまでもくつくつと可笑しそうに喉を鳴らすその人をジロリと睨み上げる。
けれども隠しようのない紅潮した頬と耳、尖らせた唇は子供のように稚くて、
迫力なんてこれっぽっちもない。
「……いつまでそうやって笑ってるんです?」
食後のコーヒーを差し出しつつも恨みがましい口調になるのも、仕方がない。
何たってカカシは朝、が目覚めてからずっと笑いっぱなしなのだ。
「いやー、だってあんまりにもアレだったからねー」
「すいませんね、色気もそっけもない目覚めで」
何せ、覚醒した途端に「寝坊したー!!」と叫びつつ洗面所に駆け込み、数分も
経たずに戻ったかと思えば着替えもせずにエプロンを引っ掛けてキッチンで朝
食を作り始めたのだから。
当然顔はすっぴんのまま。
髪だけは衛生のため簡単に纏めたものの、到底他人様に見せられる姿でなかっ
たことは自身も充分自覚しているのだが。
「誰だって寝過ごした朝はあんなもんでしょうに」
どんな絶世の美女だって、取り繕ってる余裕などあるはずがない。
それをそんなに笑わなくてもいいではないか、とがカカシに視線を向け
ずに だって、とにかく恥ずかしくて目を合わせられない 言えば、カカ
シは「ごめーんね」とちっとも悪びれずに口先だけで謝った。
「さんって寝起き無茶苦茶良いんだねぇ」
「…ええ、まぁ」
「起き抜けにあんなに動けるなんてすごいよ。尊敬する」
「そりゃどーも」
「本当だって」
あまりの恥ずかしさから拗ねモードに入ってしまったの相槌はすっかり
ぞんざいなものに変わってしまっているが、カカシは気にした様子もない。
「あーんな短時間であれだけの量作れるなんてホントすごいよ。分身の術を使
えるわけでもないのにさ」
実際、カカシは本当に感心したのだ。
こんがりキツネ色に焼かれたトーストからはじまり、、鮮やかな黄色にパセリ
の緑が食欲をそそるコーンスープ、オリーブオイルとバジルをかけて焼かれた
ミニトマト、1cm角に切られた野菜と一緒にフライパンに流し込んで焼いた
のだろうまるでケーキか巨大な玉子焼きのような形状のそれはオムレツの一種
らしく、ナイフで切り分けるとふわりとチーズの香りが鼻と胃を擽った。そし
てヨーグルトに蜂蜜をかけただけとはいえ、デザートまで用意されていた。
それだけでも驚いたのに、部屋を飛び出そうとするナルトに持たせたのは、ど
うみても一人前には多すぎる量のサンドイッチが詰まったランチボックスで、
本人は作りすぎた等と言っていたが、「皆で分けて食べて」との言葉を聞くま
でもなく、それがナルトと同じく親の居ないサスケの分だということは明らか
だった。……もっとも、ナルトは額面どおりに受け取っていたようだが。
それらをは40分と掛からず作ってみせたのだ。
3つのコンロとトースターとオーブンがフル稼働しているキッチンというもの
をカカシは初めて見た。自分で料理するときは精々手前の2つを使う程度で、
奥の火力の弱い3つ目なんてずっと無用の長物と思っていたのに。
そう言うと、は「まぁ、1人暮らしだとそんなものでしょうね」と視線
をそらせたまま頷いた。
機嫌が直ってきたかな?
駄目押しとばかりにカカシは口を開く。
「さんの作ってくれた朝ご飯、美味かった」
「………ありがとうございます」
そっぽを向いている上に低くて小さな声だったけれど、彼女が照れているのは
明らかで。
ここで堪えなければ尚更彼女が意地になってしまうと解っていてもどうしても
堪えきれずに、カカシは次の瞬間、声を上げて大笑いしてしまった。
「もうっ! 気が済むまで笑っててください。着替えてきますから!」
「はーい了解。ゆっくりでいーよ」
「ダメです! 火影様との約束の時間に遅れたらナルトに怒られますよ」
「あー…」
あいつ煩いからねぇ。
と共に昨日の報告をしに出向かねばならないカカシに代わって今日の任
務は紅が8班と合同で面倒を見てくれるから、とナルトを送り出したときの一
悶着を思い出したのだろう、カカシは途端にうんざりしたようだった。
姉ちゃんをいじめたり、変なことしたらカカシ先生だって許さない
んだからな!
何にもしないと何度請け負っても一向に信用せずに、何度も何度も念を押して
いったのだ。
「全くアイツときたら・・・俺が上司だってホントに分かってんのかね」
彼を部下に持って以来、何度も繰り返した愚痴をまたもや繰り返す。
がクスクスと笑った。
カカシはなんとなし、照れ臭くなってぽりぽりと頬を指で掻く。
「ナルトもすーっかりさんに懐いちゃって。俺を蔑ろにするくらいだも
んなぁ」
「それは…違います」
「え?」
「ナルトが懐いてるんじゃなくて、私がナルトに甘えてるんですよ」
「……さん?」
ほんの少しの寂しさを滲ませたその声に振り返ったカカシだったけれど、その
右目に映ったのは寝室へ戻って行くの後姿だけだった。
着替えと簡単な化粧を施したが部屋から出てきたのはそれから約15分
後。
「早かったね」
「そうですか?」
いつもこんなもんですよとは事も無げに答えるが、女性の身支度と言え
ば早くても30分、平均1時間は覚悟していたカカシは驚きを隠せない。
「まぁ、頑張ってる人は頑張ってますけどね〜。私には無理ですね」
「無理って何で?」
女の子ってお洒落するのは大好きなんじゃないの?
カカシのもっともな疑問に、けれどは首を振って簡潔に答える。
「頑張って飾り立てるよりも、その分の時間寝ていたい人間なんです」
大体、どんなに頑張って顔を作ったって、元が変わらないんだから自ずから限
界ってものがあるでしょう。
潔くきっぱりと言い切ったに、カカシは本気で目を見開いて、
「さんカッコイー」
くつくつと喉を鳴らして笑ったら、は
「それ、よく言われます」
やっぱり困ったように眉尻を下げて微笑んだ。
「ああ、でもさ」
「はい?」
「さんはゴテゴテいじらなくてもじゅーぶんだと俺も思うよ」
「? はぁ、ありがとうございます」
「だってさん元が良いもんねー?」
「…っ?!」
ニッコリ笑って顔を覗き込めば、の顔は一瞬で沸騰して。
カカシはさっきよりもずっと大きな声で笑ったのだった。
next.
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あああっ。
この回で三代目との会見まで終らせるつもりだったのに!
予定の半分で何でこんなに長くなるんだろう?(泣)