焦りは禁物。


現状をよく把握して、自分の有利な点と相手の不利な点を最大限に活かすこと。


これがサバイバルの基本。











世界と引き換えにしても欲しいモノ










意識を取り戻してからかれこれ30分は経っただろうか。

あくまでも体感時間ではあるが、大体10分置き位の間隔で例の蝶を飛ばしつつ、
チャクラをこっそり巡らせて薬の影響を徐々に取り去った。
その甲斐あって回復具合は大体8割ぐらい。
……欲を言えば全快したいところだけれど、悠長に構えている間に誘拐犯達の仲間
が迎えに来たりすると困る。
そうでなくても忍の足で30分あればどれくらいの距離を移動できるのか
は見当もつかないのだ。知らない間に国境を越えられでもしたら目も当てられない。


………そろそろ、やるか。


お誂え向きに、先程誘拐犯たちは2度目の森を突き抜けている最中で、最初と違っ
てもう人目を憚る必要がないせいか、大胆に木々の枝や幹を飛び渡っている。

やるなら、今しかない。

一瞬、緊張で詰めた息をふぅっと吐いた。
目を閉じて精神を集中させる。

隣を走る忍の足が幹についた瞬間、「うぉ?!」奇妙に間の抜けた声を発して無様
にも転げ落ちていった。


「なんだ?! うわっ!」


間を置かず、逆サイドを走っていた男もまた地面に叩きつけられる。


「敵襲か?!」


を肩に担いでいた忍者が足を止めて振り返ろうとしたその一瞬に、
大きく反動をつけて上半身を起こした。
そのまま後ろに反り返れば、足を抑えられているだけだったので、の身体は
簡単に後ろ向きに倒れ込んでいく。

落ちればただでは済まないであろう高い木の上、の背後には暗い森がぱっく
りと口を開けている。

ただ人のにとってはまさに自殺行為に等しい暴挙だ。

意表を突かれて男も咄嗟に対応できなかったのだろう、その腕からすり抜けた肢体
はプールのジャンプ台から飛び降りる水泳選手のように美しい姿勢で森の中に呑み
込まれていった。


落ちるその瞬間。


自分を担いでいた忍者と目が合ったはふっと頬笑んだ。

驚きに動きを硬直させた忍者の周囲に一瞬でチャクラを張り巡らせる。夕刻にくの
一たちを固めたのと同じ術だ。
これで先の二人の足も固めて木から落とした。

これで暫くは後を追ってくることは出来ないはず。

……もっとも、痺れ薬のせいか今一つ精神集中が出来ていないためにその効果がど
れだけ続いてくれるのかは甚だ心許なかったが。


そしてすぐさまは自分の身の周辺にもチャクラを巡らせた。
こちらは固める為ではなく、幾重にも柔らかに包んでクッションとなるように。
それと同時に頭を両腕で庇い、出来るだけ身体を丸くして対ショック体勢をとった。

その間もバキバキとにぶつかった木々の枝が折れ、と共に落下してゆ
く。

そして次の瞬間にはドンッ! と鈍い音と共に衝撃がの全身を襲った。


「ぐぅっ」


衝撃に押されて肺に溜めた空気が全て吐き出される。

暗いはずなのに目の前に一瞬広がる閃光。

そして眩暈。


痛みは数秒後に先ず真っ先に地面に接触した背中、次に首筋、それから全身へと広
がった。


「…っ、かは…っ」


息は全て吐き出したはずなのに吸い込めなくて。
逆に搾り出すように僅かなそれが喉から抜けていく。

たっぷり10秒かかって漸く空気を吸い込んだときには勢いがありすぎてひゅうっ
と音が鳴った。
それでもその変化があまりにも急だったせいか、漸く身体が意思に従って動かせる
状態になったのは何度も咳き込んで、それが収まってからのことだった。


「…った!」


よたよたと身体を起こして立ち上がると、落下の衝撃で違えたらしい首筋が痛んだ。


とにかく時間を稼がなくては。


の頭にあるのはそれだけだった。

運動が大の苦手のただの民間人の自分が忍者から逃げおおせるとは思っていない。
それに、どの方向へ逃げたら良いのか、木の葉の里はどちらなのか、ここがどこな
のかすら分からない以上、自分に出来ることはたった一つきりだった。

必ずカカシが助けに来てくれる。

だからそれまで出来る限り時間を稼ぐのだ。

















『―――くそっ。やられた!』


カカシのヘッドセットにガイの声が流れ込んでくる。


「…どーした、ガイ?」


木々を渡る足は止めずにそれに問えば、『こちらは囮だった』との返事が返ってく
る。


「囮?」
『靴が片方転がってるだけだ。この近くにはの臭いはないらしい』
『悪ぃな、こっちもハズレらしい。こっちはの鞄だけ、後は何もない』


ガイの返答に続いて、アスマの舌打ちと報告が聞こえてくる。
彼らにはカカシが手塩に掛けて育てた忍犬を付けてある。
彼らがその先に臭いはないというのなら、それは信用して良いだろう。


「そう」


カカシは短く頷いて、一層走るスピードを上げた。

追跡を開始して早々、何故かの臭いが複数に分かれていた。
明らかに忍犬での追跡を撹乱する目的のその偽装工作に、仕方なくカカシとガイ、
アスマの三人は3手に分かれ、それぞれの臭いを追った。

そしてガイとアスマはそのくじ引きに外れた。

カカシの選んだくじが『当たり』かどうかはまだ分からない。

臭いは全部で5方向に分かれていたからだ。
残りの2方向はカカシ達上忍とは別に暗部と特別上忍の3人編成のチームが追って
いる。『当たり』は彼らのくじかもしれない。

それでもカカシは焦る気持ちを抑えられなかった。
早く、早くと心ばかりが急いてちっとも足が動いていないような気さえする。

早く早く、手遅れにならない内に。


「カカシ!」


先導するパックンが声を上げた。
慣性の法則に逆らって足に急ブレーキをかけると、パックンがしきりと鼻をひくつ
かせている地面にそっと指先を触れさせる。


「…柔らかいな。それに湿ってる」


このあたりに雨が降ったのはもう10日も前のことだ。
誰かがつい最近掘り返したに違いなかった。

ホルスターからクナイを取り出し、慎重に掘り返せば、直ぐに手応えがあった。


「……くそっ」


出てきたのは、靴の片方。
おそらくガイの方にあったものの片割れだろう。


『そっちもハズレか、カカシ?』
「……ああ、そーみたいね」
『ライドウ班の方は俺とガイが後を追ってる。お前はゲンマのチームへ合流しろ』
「分かった」


ハズレくじを引いたからといつまでもクサっているわけにはいかない。
踵を返しかけたカカシだったが、「おいカカシ、あれは何だ?」パックンの声に振
り返った。


そこには。


とっくに日も落ちたというのに、淡い燐光を放ちつつひらひらと舞い飛ぶ蝶が。


美しい緑の翅を持つそれにそっと手を差し伸べると、蝶はゆっくりとカカシの指先
に降りて……数滴の雫と変じてカカシの手甲に小さな染みを造った。


その、意味するところはただ一つ。


さん…っ」


その染みを握り締めるように拳を固めると、一旦は踵を返しかけた足を蝶が舞い来
たその方角へ向け、チャクラを篭めて踏み切った。


「カカシっ?!」


その後をパックンが慌てて追った。













next.

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実際のところ、NARUTO世界の忍者って1時間あったらどれくらい移動でき
るんでしょうね?
謎です。

それにしても、私はチャクラと言うものを勘違いしてる気がしてなりません(苦笑)。