「はたけ上忍、ここにいらっしゃったんですか! ああ、猿飛上忍とマイト上忍も」


駆け込んできたのはよく受付で任務の連絡係をしている顔見知りの中忍で。


「なに?」
「なんだよ?」
「なんだ?」


同時に答えたカカシたちに、その中忍は人目も憚らず、


「お三方とも今すぐ火影様の元へ! 先生が何者かに攫われました!!!」


重大事を叫んだ。











世界引き換えにしても欲しいモノ











が攫われた。今から1時間ほど前のことじゃから、今頃は里境を越えてい
る頃じゃろう」


急いで駆けつければ、三代目からは挨拶もなしに先ずそう告げられた。


「ごめん、カカシ」
「油断した」


部屋の片隅には、忍医に処置を施されている途中の紅とアンコが。
二人とも薄暗い中でもはっきりそうと分かるほどに顔色が悪い。

彼女らの話では、3人で飲みに行こうと丁度カカシ達がいた居酒屋へ足を向けたと
ころへ、突然『毒霧』が襲ってきたらしい。流石に訓練されてる紅とアンコは僅か
に吸い込んだだけで息を止めたが、はそうもいかなかったのだろう。
その体が力なく崩れ落ちる直前に、何者かがの身体を抱え、逃げ去ったのだ
という。


「『毒』といっても痺れ薬、それも効果はそれほど強いものでは無さそうじゃ。敵
の体調を気にしたらしいの」
「彼女の護衛に突いていた暗部がいたはずですが?」


護衛、と監視、そしてもしも彼女が他里へ連れ去られることがあれば、その前に殺
す役目を負った暗部が。

まさかもう動き出しているのでは、と背筋に冷たいものが流れるのを押し隠して訊
ねれば、三代目は溜息を一つついて首を横に振った。


「20分程前、里境付近で重傷を負って倒れていたのを発見されておる。
攫った手際の良さといい、敵は相当の手練れのようじゃ」
「どこの里の者かは?」
「分からぬ。水遁系の技の痕跡からして霧のようでもあるが……他里の忍を装って
いる可能性もある」
「……」


誰の吐いた溜息か。

結局、何も分からないと言うことだ。
を攫った理由も、危険を冒してまで里に入りこんだ目的も、何も。
分かるのはただ。


「時間がない。手分けしてを発見、保護してくれ」


彼女が、大人しく敵に利用されるぐらいならあっさり命を捨てかねない女だという
ことだけだ。














フワフワと体が浮いているような、それで居て身動きできないよう抑えつけられて
いる不自由さと不安定さに意識が揺さぶられる。


「……?」


瞼を押し上げる仕草一つがやけに辛くて、は小さく首を傾げた。

その途端。

目に入ってきたのは縄で縛られた自分の両手首と、流れるように後方に飛びすさっ
てゆく周囲の景色たち。


「?!」


思わず強張らせた身体に気付いたのだろう、不意に景色が流れるのが止んだ。


「意識が戻ったのか?!」


くぐもった声が空気ではなく身体を通して伝わってくる。
それでやっとは自分が見知らぬ忍者に肩担ぎにされていることに気付いた。


「まさか、半日は意識が戻ることはないとあいつが言っていたぞ?!」
「計算違いか?」
「薬に耐性があったのかも」


声は全部で3人分か…。
まだ身体を動かせる状態まで回復していないは、それでも冷静に状況を判断
しようと必死になっていた。
そうしないとパニックに襲われてしまいそうで怖かった。

けれどそうなったら相手の思うツボだと、それも分かっていたから。
駒として利用されるなんて冗談じゃないと、反逆心で自分を律する。

は持ち前の捻くれた性格に感謝しつつ、こういう場合の対処法はどうだった
かと、以前いた世界で読み漁った推理小説群や、アクション・アドベンチャー系の
映画のタイトルを思い出していた。


「なに、もの?」


声を出すのでさえ一苦労だ。


「俺たちについてくれば分かる」


ついて行きたくないから言ってるんじゃないか、というツッコミは体力の問題上断
念することにして、別の気懸りを口にする。


「ここは、どこ」


見たところ、森の中のようだが、大きく首を巡らせる事も出来ないので良く分から
ない。少しでも情報が欲しかった。

アンコと紅、それからあの場にが金縛りにしてきたくの一たちは無事だった
のだろうか?


「知ってどうする」


一人がクスリと笑った。


「木の葉の里を先程抜けたところだ。俺達から逃げようとしてももう自力では帰れ
まい」
「もっとも、伝説の三人の一人、綱手姫の弟子とはいえ一般人のお前が我らから逃
れられる筈もないがな」
「……」


やってみないと分からないだろう。
自信に満ちた三人分の嘲笑に胸の内で毒づいて、はこっそりチャクラを練り
上げた。
元々、に意識のない状態でもその膨大なチャクラは体の中に大人しく納まっ
ていてはくれず、僅かではあるが漏れ出しているのである。それに紛れ込ませれば
彼ら誘拐犯がに熟練した忍であろうと気付かれる心配はまずない。



の手の平に人差し指の一関節程の大きさの蝶が生まれた。

木の葉の色に紛れそうな美しい緑の羽根に黒い斑が三つあるその蝶は、ひらひらと
木々を潜り抜け、真っ直ぐに木の葉の里へ向かう。



本当はもっと素早く移動できる鳥か犬でも造りたいところだが、全身の痺れのせい
で今ひとつ精神集中が出来ない。今のにはこれが精一杯だった。

だが、もしもこの蝶をカカシが見つけてくれたなら。

きっとこの意味に気付いてくれるはずだから。











蝶が完全に見えなくなるのを見届けて、は全身の力を抜いて目を閉じた。
誘拐犯たちはそれを抵抗を諦めた証だと解釈したらしい。
頷きを交し合い、止めていた足を再び動かし始めた。

その振動を身体で感じながら、は静かに全身にチャクラを巡らせる。

僅かなチャンスも逃さないで済むように。
先ずは身体の回復を急ぐ必要があった。
せめてこの痺れだけでも取り去っておかなければ

彼らの不意を突くことが出来ればにも逃げるチャンスはある筈だった。


けれどもし。


全ての努力が水泡に帰したときには。



の覚悟は強い光となってその双眸を彩っていた。









next.

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連載更新、ちょっと久し振り。