何もかもを受け入れて。

彼女は困ったように笑う。










世界引き換えにしても欲しいモノ












「い〜天気だね」
「いい天気ですねぇ」


二人並んで少しばかりキツイ日差しに目を細めつつも、空に広がる青を眺めて。
そうして歩く姿はまるで老夫婦のようで、先ほどまで火影の執務室で交わした重量
級の会話など影も形も気配すら匂わせることはない。


「少し歩こうか」


誘ったのはカカシから。
もそれに同意して、そうして二人でのんびりと歩いている。

どこへ向っているのかは問うことはしなかった。
カカシも、特に目的地があるわけではなかった。

ただ、何となく歩いている。


「申し訳ない」
「は?」


ぽつりと零すように告げられた突然の謝罪に、はきょとんと首を傾げた。
カカシはばつが悪そうに視線を外して、頬を掻いた。


「いや、ほら。いろいろ疑ってたし」
「ああ」


合点がいったらしいはぽん、と両手を打って、「気にしない気にしない」と
右手を胸の前で振って見せる。


「疑って当然でしょう。私だってカカシ先生の立場なら疑ってましたよ」
「ん〜、でもねぇ」
「別に拷問されたわけでなし、自分の胡散臭さは重々承知の上ですから」


笑い飛ばすに、カカシは訊くのを躊躇っていた質問をぶつけた。


「……さんは、分かってるの?」
「何をですか?」
「『暗部の護衛』は、裏を返せば君が敵の手に渡った場合に」
「危険になる前に私を殺す為ですね」


カカシの言葉を強引に遮って、が言った。
まるで彼にその言葉を言わせたくないかのように。

驚いて振り返ったその先で、はあの、困ったような笑顔をして、それでもその
目はカカシではなく、真っ直ぐ前を見つめていた。


「私の危険性を考えれば、当然の処置でしょう」
「殺されても仕方ないってこと?」
「進んで死にたいわけじゃないですけどね〜。……でもまぁ、係累全部向こうに置
いてきてる時点で一回死んでるようなものですし」


そう言うは、やっぱりカカシを見ない。
ただ前を見て。
前にある、何かを見つめて。

彼女の目の前に在るのはきっと。


「……今頃皆何をしてるのかなぁ、と偶に考えることがあります」


どこかぼんやりとした静かな声。
カカシは無言で先を促した。


「両親は泣いただろうなぁ、とか、友達は心配してくれただろうなぁ、とか。多分
は怒っただろうけど」
って?」
「妹です。っても、年子で殆ど双子みたいに育ったんですけどね。私よりしっかり
してて、何時の間にかあっちが姉みたいになっちゃってた」


クスクスと、このときばかりは眉根を開いて笑う。

なのに、どうしてか。
あの困ったような笑顔よりもずっと頼りなげに見えて。


気が付いたら右手を上げての頭の上に置き、2、3度ぽんぽんと弾ませていた。


「カカシ先生?」
「……さんは、強いね」
「え?」


首を傾げるにカカシはただにっこり笑って見せるだけ。

泣いた両親も、心配してくれた友人たちも、怒っただろう妹のことも、全てが過去
形で語られたことにカカシは気が付いていた。

それと同時に。

彼女は自分の身に突然降りかかったこの災いともいうべき事態を、全て受け入れて
いるのだとも。
目を逸らすのでも反発するのでもなく、現実を冷静に分析し、受け止めて、それで
も笑って生きている。

強い女。
羨ましいくらいに。


「俺だったら、多分世の中恨んで拗ねまくっちゃうよ」
「まさか」


わざと冗談めかして言うと、何を想像したのか、がぷっと吹き出した。


「私は強くもなんともないですよ。ここまで事態がかっ飛んじゃってると、もうじ
たばたしてもどうしようもないから、開き直っただけですって」
「そこで開き直れるのが強さだと思うけどね」
「開き直りを強さと言っちゃマズいでしょう」


そう笑って、は数歩足を速めた。
カカシの視線から逃れるように。
かといって、本気で逃げるでもなく。

カカシも敢えて直ぐには追わずに、彼とは違って姿勢のいい背中を眺めた。





距離を保ったまま、同じ速度で歩く。


不思議な感覚。


こんなふうに当てもなく、ただのんびり歩いたのは何時以来だった?


二人とも、何も話さない。


黙ったまま、ただ歩く。


けれど不快じゃない。


沈黙も、二人の間の空気も。





……なんだろうね、これは。

首を傾げながらも、口布の下の頬は確かに緩んでいた。











「あぁっ! カカシ先生いたってばよ!」
「どーしてさんと一緒なんですか? はっ、まさか私達放っといてデートし
てたの?!」
「……ったく」


奇妙な平穏は、すぐにそんな日常の喧騒に掻き消されてしまったけれど。


「なんだお前ら、演習はどうした?」
「昼休憩だ」
「カカシ先生が弁当持ってっちゃったから、俺ら探しに来たんだってばよっ」
「あー、そういやそうだったな。すまんすまん」
「影分身と一緒に弁当も置いてけば良かったんだ」
「いや、お前らの前に弁当だけ残してったら、確実に昼になる前に食べつくしちゃう
でしょーよ」
「先生が言ってた大事な用って、デートのことだったの?!」


サクラはどうしてもそこが気になるらしい。
年頃の女の子としては当然かもしれないが。


「ま、否定はしない」


カカシがそう答えた途端、「えええーーーー?!」下忍三人の叫びが轟いた。

しかし、


「いや、そこは否定しておきましょうよ」


が苦笑する。


「単に、火影様のところで一緒になっただけよ」


誤解しないでね。とが言えば、サクラはあからさまにがっかりした表情にな
り、サスケとナルトは何故か胸を撫で下ろしていた。


さん冷たーい」


カカシの抗議は、


「そんなことよりっ、姉ちゃんの作ってくれた弁当食べようってばよ!」
「……腹減った」
さんも一緒に食べましょう?」
「え? でも私は……」
「私は自分の分のお弁当持ってきたし、こんなに一杯あるんだもん。さんの
分くらい余裕でありますって」


彼の部下達によってあっさり無視されてしまったけれど。


さんも一緒でもいいですよね?」
「カカシ先生、腹減ったってばよ!」
「早くしろ、カカシ」


ナルトたちに囲まれたがカカシを振り向いて手を差し伸ばし、


「行きましょう、カカシ先生」


満面の笑顔を向けてくれたから、


「はいはい。…お前ら俺が上司だって分かってるかー?」


まぁ、いいか。








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カカシさんとまったりお散歩デート。