「別に訊きたかねーんですけど、その『愛妻』ってな、誰のことです?」
さすがゲンマ。良い質問だ。
本当にどうでも良さそうな態度だけど、それはこの際大目に見よう。
ライドウとアオバは嫌〜な予感に固まっちゃってるから、話が進まないモンね。
世界と引き換えにしても欲しいモノ
「誰って、決まってるでしょ〜よ」
「……あー、この話の流れからしてそうだろうなとは思ったんですけどね。一応、
確認の為に名前言って貰えますか」
コイツらに引導渡さなきゃならないんで。
言葉でなく目の表情でそう付け加えたゲンマに、カカシもうんうん、と頷いて
「ちゃん」
ご丁寧にも語尾にハートを飛ばす勢いだった。
わざわざアオバとライドウに顔を向けて言った辺りが根性の悪さを物語っている。
「な、なんで先生が弁当を…?」
「昨夜は一緒だったもんでね。家に帰ってないのに弁当は作れないデショ?」
止めとばかりににっこり笑むと、
「うっ、嘘だぁっ!」
「夢だ。コレは悪い夢なんだ…」
悶え死なんばかりのライドウと気絶しそうなほど顔色を失くしたアオバの姿が。
「いやァ、昨日はなかなかハードな夜だった」
対照的に、楽しくて仕方がないといった様子のカカシ。
ゲンマは勝手にしろとばかりに溜息を付いている。
「こら」
ゴツッ
「だっ」
すっかりご満悦の態で油断していたとはいえ、上忍であるカカシの背後を取った上、
その頭を叩ける人間の数は自ずから限られる。
「……何すんの、紅」
「アンタこそ何してるのよ」
その内の一人である紅は、呆れ返った表情を隠そうともせずに切り返した。
「見て分からないか?」
「受付の廊下の真ん中で特別上忍いじめて遊んでる」
「その通り」
ご名答、と拍手するカカシに、紅はもう一発拳骨をくれた。
「あんまり揶揄うんじゃないの。モテるゲンマはともかく、アオバとライドウは真
剣に焦ってるんだから」
「焦ってるって何を?」
「だ・か・ら、あいつ等もう三十路でしょう? 結婚」
「けっこん?!」
「……まではいかないにしても、彼女くらい欲しいんでしょうよ」
だからあまり揶揄うな、との紅の忠告に、しかしカカシは気のない頷きで応じた。
気持ちは分からないでもない。
カカシとてもう27歳、30代は目の前である。
今まであまりまともに考えたこともなかったが、30歳という節目を迎えた彼らが、
家庭を持って落ち着きたいと考えるのは不自然な事ではない。
そしてその相手にを望むと言うのも。
正体不明ではあるものの、確かに彼女は家庭的だし、彼女が醸し出す穏やかな居心
地のいい雰囲気は一度知ったら忘れられない程で、実際、カカシ自身がそこから
離れがたい気持ちを味わったばかりだ。
殺伐とした世界に生きる忍なら誰もが憧れ、切望してやまない『それ』。
彼らの気持ちは分かる。
……しかし、何かが気に入らない。
「……で?」
「何が?」
「真相」
「あぁ…嘘は言ってないよ。泊まったのはナルトの部屋だけどね」
それをアオバとライドウに教えてやるつもりはないが。
「そんなことだと思ったわ。はそう簡単に男と寝るコじゃないもの」
カカシの意図を汲み取ったのだろう、特上二人に哀れみの視線を向けた紅の言葉に
引っ掛かりを覚えて、カカシは首を傾げた。
「もしかして何気に仲良い?」
「忘れたの? 彼女を里へ迎えに行ったのは私たち8班よ」
「…そーでした」
さしずめ、紅達8班のメンバーはが里で最初に作った友人、ということにな
るのだろう。
同性で気性のさっぱりしている紅は勿論、何かと落ち着きのないキバはともかく、
おとなしいヒナタや年齢の割りに大人びて寡黙なシノなど、本人たちの性格もだが、
木の葉でも旧い家柄出身の彼らならば、何かと戸惑う事の多いであろう新参の
が里に馴染む手助けも容易だろうし、人選としては悪くない。
「随分気遣われてるよねぇ」
彼らの派遣に三代目の意思が介入しているのは間違いがない。
綱手姫の弟子だとはいえ、一般人に対しての、この破格の扱いは何なのか?
それらの疑問はこの後で教えてもらえる筈なのだが・・・
「先生っ?」
「あ、アオバさんこんにちは。その後のお加減は如何ですか?」
カカシの思考は受付の入り口の方から聞こえてきたその声によって中断された。
「はいっ、もう全然大丈夫です! 先生の治療のお陰です」
「私なんて、そんな大したことしてませんよ。流石、忍者の方は鍛えてあるから、
回復力が全然違いますね」
「いえ、俺なんてまだまだですっ」
傷を診るために腕を掴んでいるので、の笑顔がとても近い。
彼らしくもなく耳まで紅く染めたアオバがガチガチになっている姿は、端から見て
いるとかなり面白いのだが、ライドウにはそうでもなかったらしい。
「先生、今日はどうしてこんな所に?」
二人の間に無理無理割り込むと、今度はアオバがむっとした表情になる。
「ええ、火影様に呼ばれて」
しかし、はそんな二人の攻防には一向に気付いていないようだ。
多少唐突だったライドウの問い掛けにも屈託なく答え、そして周囲をキョロキョロ
と遠慮がちに見回した。
「…何か?」
「あ。えっと、カカシ先生もいらっしゃる筈なんですけど……」
ガーン!!
がその名を口に出した途端、二人の顔が劇的に蒼褪めた。
「先生!!」
「は、はい?」
「やっぱりあの話は本当だったんですか?!」
「は? 何の話ですか?」
「昨夜はたけ上忍が先生の部屋に泊まって、その上弁当まで作ったって!」
段々悲鳴に近くなっていく二人の詰問にたじろぎながらも、
「ああ。その話ですか」
得心がいったはあっさり「昨日の今日なのに、良くご存知ですね」肯定して
しまった。
ガガガガーン!!
「あ、でも昨夜は…」
「やぁちゃん、お待たせ」
石になった二人の特別上忍の後ろからしゅたっと姿を現したカカシは、そのまま
の横に並ぶや、「さ、いこーか」自然な動作でその細い肩に腕を回した。
「あ、あの」
「ん? 何?」
「…いきなりちゃん付けですか?」
傍らに目線を落とせば、困ったように眉根を寄せる。
その頬が心なしか赤いのは、照れているのか。
一瞬跳ねた自分の心臓に、カカシはズボンのポケットに突っ込んだほうの手をぐっ
と握り締めた。
「……ツッコミどころはそこだけ?」
肩を抱かれて体が密着してることは気にならないらしい。
「は?」
「いやいや、何でもないよ。だって今朝「先生」って呼ぶのやめてって言ってたで
ショ?」
「確かに言いましたけど、だからっていきなり名前にちゃん付けは…」
「イヤ?」
「嫌というか、恥ずかしいので」
ちゃん付けで呼ばれるほど若くないんで。
へらりと笑うだが、本気で恥ずかしがっているらしい。眉が八の字になった
ままだ。
「ん〜、じゃあ「さん」は?」
「あ、それなら」
「決まり、ね」
お互い同意の笑みを向け合って、今度こそ三代目のもとへと足を向ける。
そんな二人の後姿を意味ありげに見送った後、紅もまた自分が指導する下忍たちが
待つ演習場へと去っていった。
ふと思いついて、はカカシを見上げた。
「そういえば、どうして名前呼びなんですか?」
今朝までは苗字呼びの「先生」だったのに。
問うとカカシは何故か困ったように人差し指で口布に隠れた頬を掻きながら、目を
泳がせた。
「ん〜…対抗意識?」
「は?」
「気にしない気にしない」
火影様が待ってるよ、と促されて、それきりその話題は追求される事はなかった。
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石像と化した特上二人は、数時間後に存在を思い出した
ゲンマさんが解凍してくれたそうです。
その間ずっと放ったらかし(笑)