調べれば調べるほど、変な先生は、医療忍術を使えば対象者の周囲の
人間にまでも効果を及ぼす膨大なチャクラを使い続けているという、衝撃の告白か
ら一夜明けた。
明けたのはいい。
日が暮れて夜になれば明けるものだ。
…………どうしてナルトとサスケと三人で朝食の卓を囲んでいるんだろう?
世界と引き換えにしても欲しいもの
親御さんが心配するといけないので、サクラは昨夜の割と早い時間に帰った。
一人では危ないと、途中まで帰り道が一緒のイルカが送って行ったのだが、サクラ
本人はサスケに送ってもらいたそうなのがあまりにもバレバレで、流石のイルカも
苦笑を隠せないようだった。
それはいい。
いつものことだ。
いつもと違っていたのはサスケで、「泊まっていかない?」というの誘いを
すげなく断るかと思いきや、何故かあっさり頷いて。
今朝もナルトと一緒に早朝の鍛錬に出て行った後、こうして戻ってきて一緒に朝食
をがっついている。
ナルトもこの状況を特に不審がっている節もない。
いつもならばもっと角付き合わせてるだろうに。
それに何より。
一番不審なのは自分の行動、だったりする。
一応、部下二人が迷惑掛けるのを放っておくわけにはいかない、とご大層な名目は
立てているものの、自分まで一緒に泊まる必要はどこにもなかったはずなのに。
ここを去るのだと考えると、妙に後ろ髪を引かれる思いがして。
「カカシ先生、お味はいかがですか? お味噌汁、辛くないですか?」
「いやぁ、美味しいです。先生、料理お上手ですね〜」
「あはは、お世辞でも嬉しいです。お代わり、まだありますので遠慮なくどうぞ」
「ハハハ。じゃあ遠慮なく、お味噌汁オカワリ」
気が付けばの作った朝食に舌鼓を打っていたりするのだから。
彼女の事を疑ってるはずなのに、何をしてるんだか…。
しかし。
「ホントーに美味いんだよね〜?」
何の変哲もない、和風の朝食のはずなのに、塩加減やら焼き魚の微妙な焦げ加減や
らが本当に絶妙なのである。
昨夜の中華も美味かったが、やはりカカシは和食党。
白いご飯に味噌汁の美味さが胃に染み渡る。
それになにより、ここは居心地が良かった。
「……俺も」
「あっ! 先生もサスケもずるいってばよ! ねーちゃん、俺もおかわりっ」
「はーいはいはい、慌てなくても大丈夫だからゆっくり噛んで食べなさいね」
まるで母親のように手のかかる二人を軽くいなして。
エプロンをしたまま立ち働くの後姿に、口布の下で笑みがこぼれた。
「忍者は早食いするモンなんだってばよ!」
「…そうなの?」
「敵地や戦場でゆっくり食事なんかしてられないからな。食べられる時にさっさと
食べる癖をつけるんだ」
ナルトの言葉にキョトンとしたの問い掛けには、サスケが応えた。
「へぇー」
「……常識だぞ?」
「…そうなんですか?」
サスケにまで呆れられ、の視線はカカシに移る。
が、カカシにも「ま、ね」と苦笑気味に肯定されてしまった。
「姉ちゃんってホンット、変な所で常識がないよなー。これだから放ってお
けないんだってばよ」
「それは悪ぅございましたね」
幾ら本職の忍者だからといって、年下の、それもまだ子供のナルトに子供扱いされ
ては、も苦笑するしかない。
「仕方ないじゃない、私の育ったトコには忍者はいなかったんだからさ」
ピクッ。
その言葉に反応したのはカカシだけではなかった。
「アンタ、一体ドコの田舎の出だ?」
「そういえば俺ってばねーちゃんの国の話聞いたことないってばよ!」
サスケ・ナルト、グッジョブ!!
思わず心の中で『ナイス・ガイポーズ』を決めそうになったカカシ。……すぐに冷静
になってそんな自分を恥じたが。
「田舎って……これでもれっきとした都会育ちなんだけど……」
「だから、それはどこだって聞いてる」
「……内緒」
「はぁ?!」
「ねーちゃん! それはないってばよ!!」
「う〜ん。だってねぇ」
言っても知らないと思うし。
はそう言って苦笑するばかり。
挙句の果てには、
「君達が……えと、上忍っていうの? それになったら教えてあげる」
にっこり笑んでそんなことを言い出した。
「ええーー?!」
「上忍…?!」
「あら、自信ないの? ないなら…」
「あるってばよ!!」
「上等だ」
案の定、競争心と自尊心を煽られた二人はの言葉を遮るや否や、食器の片付
けもそこそこに外へと飛び出していってしまった。
「あいつら……今日は演習やるって分かってるのかねぇ」
張り切って飛び出していったはいいが、鍛錬のし過ぎで演習に支障が出るのは困る。
単細胞な部下二人に溜息を付いたカカシの前に、すっとお茶が差し出された。
馥郁たる香りが鼻腔を擽る。
「ん〜、いい匂い」
「粗茶ですけどね」
僅かに覗く右目をこれでもかと細めたカカシに、は堪えきれないようにクス
クス笑った。
カカシは茶を一口啜って、その味にのその言葉は謙遜だと判断した。
「狙ったデショ?」
カカシの前に漸く腰を下ろしたを軽くねめつけると、は臆した様子も
なく首肯して、
「聞かれても、答えられないので」
そう答えた。
「答えられないって、ナンデ?」
「カカシさんも、ですよね?」
「は?」
「私のことを調べていらっしゃると、ある方が教えて下さいました」
驚きのあまり、まじまじと見つめた先で、は微笑む。
その、どこか困ったような笑顔は先ほどナルトたちに詰め寄られていた時と同じで、
底意があるようには到底見えないのに、その笑顔の意味が読み取れない。
不愉快そうでない事だけは分かるのだけれど。
「……誰から聞いたの?」
「ん〜、言っていいのかなぁ? 一応、口止めはされなかったんですが」
「言い難いなら言わなくてもい〜よ。このことを知ってるのは限られるからね〜」
調べればすぐに分かるから。
カカシがにっこり微笑んだら、「助かります」も安心したように頷いた。
「…で、それを知ってる事を俺に明かしたってことは、俺には話してくれるってこ
となのかな〜?」
「お話しするのはやぶさかではないんですが」
ニコニコと、お互い作り笑いを向け合って、これぞまさに狐と狸の化かしあいとい
う趣き。
ゲームの駆け引きをお互いに楽しんでいるのが分かる。
疑惑・疑念はあるものの、それは決して昏いものばかりではなく、は予想以上
に頭の回転が速く、相手にとって不足はない。
「じゃあ、話してヨ?」
「そのまえに、そろそろカカシ先生も出る時間なんじゃないですか?」
不意に視線を逸らせて壁に掛けた時計を示されて。
見れば確かに、まだ余裕はあるものの、のんびり話しているほどの時間はない。
「ナルトが嘆いてましたよ? カカシ先生の遅刻癖はどうにかならないかって」
揶揄うような視線に、カカシは右頬を人差し指で掻いて、
「ん〜……まっ、待つのも修行だから」
等と嘯いてみたりする。
しかし、そろそろ出発しないといけないのは事実で。
しぶしぶ立ち上がったカカシに四人分の弁当を渡しながら、は笑顔はそのまま、
しかし僅かに翳った瞳でカカシを見つめ、
「火影様の許可が出れば、お話します」
彼にだけ聞こえる程度の声で告げた。
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甘くない……