いや、だって、そんなの有り得ないデショ?
世界と引き換えにしても欲しいもの
小龍包、餃子、回鍋肉、酢豚、青椒肉細、青梗菜の茹で浸し、きゅうりの肉味噌炒め、
エビチリに麻婆豆腐に肉饅…etc
「ちょっと……作り過ぎたかな?」
ナルトの部屋に元々ある小さなちゃぶ台では載せきれないだろうと、あらかじめ持ち
込んであった自分の部屋のローテーブルと二つ並べて、それでも余ってキッチンのシ
ンクやレンジの上を占領する皿たちを眺めて、は一人ごちた。
「だけど、サスケって子もナルトと同じくらい食べるって言ってたし、イルカって
先生も男の人だから食べるだろうし、こんなものかな?」
それでもどこか満足げに一人頷いて、はひょういひょいと菜箸で大きめの皿
に料理を少しずつ取り分けた。
少しと言っても種類があるので、仕舞には皿に山盛りになる。
上にラップをかけて、テーブルから少し離れた衣装箪笥の上に置く。
「良ければどうぞ。匂いばっかり嗅いでてお腹空いたでしょうから」
誰にともなくそう呟いて、何事もなかったかのようにキッチンに戻る。
が背を向けたときにはもう、その皿は影も残さず消えていた。
「ただいまー。ねーちゃん、連れて来たってばよ!」
エプロンを外そうと後ろに手を回した途端、玄関のドアが開く音と同時に元気な声
がの表情を緩めた。
「お帰りナルト、お疲れさまっ」
ガツガツ、ムシャムシャ、パクパク……
「あーっ! それは俺のだってばよ!! 取るんじゃねーよサスケ!」
「うっせー。早いもの勝ちだ、ドベ」
「ドベって言うなってばよ!」
「コラお前ら、喧嘩せずに落ち着いて食べられないのか?」
「慌てなくっても一杯あるから大丈夫よ、ナルト、サスケ君」
「さん、これすっごく美味しいです!」
「ありがと、サクラちゃん」
「ナルト、野菜も食えよー」
「分かってるってばよ、カカシ先生! ちゃんと食べてるってば!」
もしかしたら余るのでは……という心配は、の杞憂だったらしい。
予想通り、少年二人の食欲は凄まじく、動かす箸と口が見えないほどだし、サスケ
の傍らに陣取っているサクラも一見おしとやかに箸を動かしているようで、
から「野菜中心でカロリーは意外と低い」と聞いた途端、歳相応の健啖振りを発揮
している。そんな子供たちを如何にも『先生』らしく窘めている大人二人にしたっ
て、子供たちの隙を突いてはしっかりと自分の取り分をキープしている辺り、忍者
なのだなぁと妙に納得したりして。
この分なら料理が残って困るということにはならなさそうで、ほっと安堵しつつ空
いた皿を下げて次の料理を取りにキッチンへ戻ろうと腰を上げると、
「お手伝いしますよ」
と横合いから手が伸びて皿の山を取り上げてしまった。
「カカシ先生」
「すいませんね、いきなり押し掛けちゃって」
の隣に並んで皿を運ぶカカシは、唯一見える右目を細めて笑む。
口元を覆う口布は、食べているからには下げているのだろうが、何故か食事の間中
いつ見てもそこにあった。
しかし、は気にも止めずに「いいえ」と笑みを返す。
「ちょっと調子に乗って作り過ぎかもと思ってたところなので、来てくださって助
かりました」
「ん〜、ま、俺がいなくてもあいつらが全部食べ尽くしそうな勢いですけどね」
「あはははは。それは確かに」
狭いアパートの中、すぐにキッチンに入ったはカカシから皿を受け取り、代
わりに別の料理が載った皿を預ける。
「使ってしまって申し訳ないんですが、あっちに持って行って下さいます?」
「りょ〜かい」
カカシの返事を待たずにはさっさと背を向けて、下げたばかりの皿を洗おう
とシンクへ向かった。
「それも、手伝うよ」
「え?」
すぐ隣から聞こえてきた声に慌てて振り向けば、料理を持っていった筈のカカシが
布巾片手に待っている。
先程預けた料理はとテーブルを見遣ると、料理はちゃんとそこに置いてあって、ナ
ルトたちの新たな争奪戦の様子が聞こえてきた。
ぽかん、と見上げるにカカシはにっこりと笑んで、左手を差し出した。
「へ?」
「ヘ? じゃなくて、お皿貸して? 拭いたげるから」
「あ…じゃ、そこの籠に適当に並べて」
「りょ〜かい」
言われるままには洗ったばかりの皿をカカシに渡す。
カカシをそれを手馴れた手つきで布巾で拭って、言われた通り籠の中に並べていく。
「……慣れてますね」
「まっ、一人暮らしだからね〜。先生こそ、料理上手いね」
「子供のときからやってますから」
「……へ〜ぇ?」
カカシがちらりとを伺った。
「親が共働きだったので、必要に迫られて見様見真似で」
「…先生のご両親って何やってたんですか?」
「その、『先生』っての止めませんか?」
「へ?」
このまま上手く誘導しての過去を探れるか、と意気込んだ途端、が苦
笑しながらカカシへと身体ごと向き直った。
「皆さんそう呼ばれるんですけど、どうも自分のことって気がしないんですよねぇ」
「ん〜、でも、病院の先生デショ?」
「先生って程の身じゃ………って、あ、そうだ」
「は?」
いきなり手を打ったに、またもや間の抜けた声が漏れる。
さっきのことと言い、今と言い、意図してやっているのかどうか、どうもテンポを
狂わされてばかりだ。
「先程は失礼しました」
「へ?」
カカシの戸惑いには一向気付いていないのだろう、はガバリとほぼ120°
頭を下げた。
最上級のお辞儀だ。
「え? えーっと、あの、何のこと?」
「以前に病院に来られてたんですよね、サスケ君の付き添いで。なのに私、さっき
は「はじめまして」なんてご挨拶してしまって」
「……ああ」
言われてやっと思い出す。
先程、ナルトを出迎えに出たは、カカシの顔を見てはっきりきっぱり「初め
まして」と挨拶したのだ。サスケには「あれ、ナルトの友達のサスケ君って、君の
ことだったんだ。えっと…確かうちはサスケ君、だっけ?」等と言っていたのに。
(ちなみに、サスケもナルトも間髪入れず「友達」の部分を否定した)
「俺のことなんて覚えてなくても仕方ないですよ。毎日患者さん大勢看てるんだから」
得意の、人のよさげな笑顔と口調でそうフォローするものの、内心では十分驚いて
いたりする。
良くも悪くも、カカシは自分が有名人だという自覚がある。おまけに、口布に斜め
の額当てで顔の大半を隠した風貌はお世辞にもインパクトがないとは言えないだろ
うに、はサスケに指摘されるまでカカシのことを全く覚えていなかったのだ。
「ほんっとうにすみません。患者さんの顔なら一発で覚えられるんですけど、付き
添いの方とかになるとまるでダメで……」
「……俺は患者じゃな〜いの?」
「は? ……え? 違い、ますよね?」
「でも、背中の傷治してくれたデショ?」
「へ? いつ?」
「サスケの付き添いで病院に行ったとき」
本気で心当たりの無さそうなに、カカシも首を傾げる。
「病院出たら治ってたから、てっきり先生だと思ってたんだけど?」
「……あー」
ぽん、と再び両手が打ち合わされた。
「またやっちゃいました?」
「へ?」
そのの顔に浮かぶのは、苦笑以外の何物でもなくて。
「すみません。どうもチャクラのコントロールが今一つらしくて、治療中、傍にい
る人の怪我とかも一緒に治しちゃうらしいんですよ」
「……そうなの?」
「どうもそうらしいです。もうちょっと上手く制御できれば良いんですが、綱手様
が面倒臭がってそこまでしっかり教えて下さらなかったんですよね」
なんだ、それは。
そんな無茶苦茶なことがあってもいいのか。
それはつまり。
はあれでも自分の扱うチャクラを精一杯抑えていたということだ。
術の対象者のみならず、周囲にいる人間にまで影響を及ぼす程のチャクラを、そんな
ものは彼女の持つ容量の、ほんの一部に過ぎないのだと、そう言っているのだ。
「……スゴイデスネ」
「未熟者ですみません」
それほどのチャクラを一日中使い続けて、疲れた様子も見せない。
……君、ナニモノ?
next
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折角カカシさんと絡んでるのに、甘さの欠片もない。(苦笑)
いや、おいおい、ね。