本日も晴天。

絶好の洗濯日和。










れた日に











「うっし! しゅーりょー!」


高らかな宣言と共に額を拭う仕草をするの目の前には、物干し竿を一杯
に埋める洗濯物たち。
青空を背景にぱたぱたと風にはためくその光景に満足して、一つ頷いた。

……と、背後でクスクス忍び笑う声が聞こえた。


「満足そうだねぇ。背中に達成感が溢れてるよ?」
「そりゃあ、実際に満足してますから」


からかう様に言われても、は頓着せずに満面の笑顔で応じる。


さんて洗濯好きなんだ?」
「というより、やっと洗濯できたからですね。こんなにいい天気は久し振りで
すもん」
「…ああ、確かに」


いい天気だねぇ。
ベランダから顔だけを突き出したカカシは、貴重な休みの為かそれとも人目を
意識する必要のない自宅だからか、Tシャツにジーンズというラフな恰好で空
を一瞥するとその眩しさに目を細めた。

…と思ったらすぐに引っ込んだ。

どうやら眩し過ぎたらしい。


さんも早く戻っておいでよ。コーヒー煎れたから一緒に飲も?」
「はーい」


すぐに聞こえてきた誘いに応じながらも、はくすくす笑いを止めること
ができなかった。




応えを返しながら、それでもクスクス笑いが止められないでいたら、「そんな
に笑わなくったっていいでしょーよ」と睨まれてしまった。










外の陽光に慣れた目には少し薄暗く感じる居間で、差し出されたマグの中身を
そっと傾ける。牛乳をたっぷり注がれたカフェオレは猫舌気味のに程よ
い温度で、ほぅっと溜息と一緒に笑みが零れる。


「美味し」
「そ? 良かった」


ニッコリ微笑んで、カカシはこちらは打って変わって熱く湯気を上げる混ざり
ものなしのコーヒーを啜った。


「で、今日の予定はどうする?」
「そうですねぇ…」


カカシが休みの日は、午前中に済ますべき家事を一通り終えた後、こんな風に
一服しながらその日一日の予定を二人で決める。特にそうしようと取り決めた
訳ではないのに、何時の間にかそれが当たり前になっていた。


「折角いい天気だから散歩でもする? その辺ブラブラと」
「良いですね。カカシさんもたまには日に当らないと光合成できませんしね」
「いや、しないから」
「しないんですか?」
「しません」
「それは残念。…でも、木の葉の忍者さんたちって光合成出来そうですよね、
なんかこう…見た目的に」
「忍服緑だし?」
「そうそう。ガイさんなんか特に」
「いや、あれは光合成なんかしなくても自家発電で充分イケるデショ」
「あぁ、そうかも」


他愛のない会話はどんどん本筋から外れて行く。
気が付けば1日の大半をこんな会話で過ごしてしまっていた、なんてことも一
度や二度ではなかった。


「あ、そういえば」
「なに?」
「カカシさんってあんまりコットンのシャツとか着ないんですか?」


カカシが溜めに溜め込んだ洗濯物の内容を思い出しても、Tシャツやトレーナ
やニット類ばかりだったように思う。
案の定、カカシの返事は


「ん〜。あんまり着ないねぇ」


だった。


「どうしてです? 嫌いなんですか?」
「いや、嫌いって程じゃないけど」
「?」
「だって、アイロン掛けるの面倒デショ」


告げられた言葉にはキョトン、と目を見開く。


「え? だってカカシさん掃除とか炊事とかすごくきっちりしてるのに」
「掃除はね、元々物が少ないから掃除機掛けるだけだし。自炊してるのだって
体調管理の為だから特に手間とか思わないんだよね」


でも洗濯は面倒臭い。
どうせ普段はほとんど忍服で過ごしているのだし、最悪使い捨てれば良いのだ
から、優先順位は低いのだとはっきり言ってのけるわりに、その表情はどこか
照れ臭げで、きっと家事に手を抜いていることに僅かなりとも後ろめたさを感
じているのだろう。彼がその不精で洗濯物をに洗わせているのだから、
尚更。

そんな必要ないのに。

洗濯だって炊事だって、が勝手にやっていることだ。
特に自分が世話好きという自覚はない。
が、多忙なカカシには家事は負担だろうし、洗濯物を溜め込んだり外食ばかり
の食生活は端で見ていて心配になる。
だから時間があるときにカカシ宅を訪れてはそれらを片しているだけのこと。
だって忙しいときにはカカシの世話どころか自分の家事を放棄すること
だってあるというのに。

飄々としているくせに根は妙に生真面目な恋人に笑みが漏れる。


「私、やったげますよ?」
「え?」
「アイロン掛け」
「…いーの?」
「ついでですしね。…まぁ、そんなに上手なわけじゃないんですけど」


時々アイロン皺を作ることもあるけれど、それでよければと照れ笑いすれば、
カカシはなにやら思案顔になって。


「じゃ、いこーか」


かと思ったら、いきなり満面の笑みで腕を取られて引っ張りあげられた。


「は? え?」
「今日の予定は散歩から買い物に変更ね」
「え? え? いや、買い物はいいんですけど……」


何を、と問いかけて気が付いた。


「あ、もしかしてシャツを買いに行くんですか?」
「ご名答〜」
「そうですね、最近すっかり涼しくなってきたし、秋物の服を買いに行くには
丁度いい時期かも」
「今日はいっぱい買うから覚悟しててね?」
「あはははは。了解です」


軽く請け負っただったが、続く言葉に声を失った。


「俺、これからずっとシャツしか着ないつもりだから」
「……………………………は?」


冗談を、と見上げた顔は笑ってはいるけれども本気と知れるそれで。


「だってさんがアイロン掛けてくれるんデショ?」
「いや、それはそうですけど…」
「俺はこれから毎日コットンのシャツ着るんだし、そうするとさんはア
イロン掛けの為に毎日俺の家に来ないといけないねぇ」
「え……?」


それは、つまり…

思わず見上げた顔はとても嬉しそうに笑っていて、まるで子供のようなその様
子と要望の可愛らしさにも呆気に取られるよりも先に笑ってしまって。

それでも一言釘を差すことを忘れずに。


「カカシさん、アイロン掛けしてる間は相手してあげられませんけど良いです
よね?」
「えぇっ!」


本気で固まったカカシにお腹を抱えて笑いころげた。












ん〜、と両腕を大きく振り上げて伸びをする。
肺いっぱいに吸い込んだ空気までお日様の匂いがするようで嬉しくなる。

と、部屋の方からクスクス笑う声が聞こえた。


「嬉しそうだねぇ。背中に満足感が溢れてるよ」
「だっていいお天気なんですもん」


なぜか振り返ったはえへんと胸を張る。
「ほんとだねぇ」とベランダから顔だけを突き出して空を見上げたカカシは眩
しそうに目を細めた。

と思ったら、すぐに部屋の中に引っ込んでしまう。
……少しばかり眩し過ぎたらしい。


「早く入っておいで。コーヒーが冷めないうちに一緒に飲も」
「はーい」


一年前も今も代わり映えのしない会話を繰り返して、それでもやっぱり少しず
つ変わるものもあって。

あの日から時折洗濯物の中に混ざるようになったそれは、変化の最たるものか
もしれない。


外の陽光に比べれば幾分か薄暗く感じる部屋の中に戻ると、はもう一度
さっきまで自分が立ち働いていた場所を振り返った。


さん? どーかしたの?」
「んん、なんでもないでーす」


答えた言葉は含み笑いが見事に裏切っていたけれど、はそれをカカシに
教えるつもりはなかった。

わざわざ誰かに教えるほど、大したことではない。
寧ろ取るに足りない、些細な偶然でしかない。
でも自分にはとても幸せな一瞬の風景。


「お布団も干しといたから、今晩はふっかふかで寝れますよ」
「そりゃいーねぇ」









高い高い青空の下で、風に煽られた白いシャツがそれより一回り小さいけれど
こちらもやっぱり真っ白のシャツをそっと抱きしめていた。










fin.

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<あとがき>
ああ!
誕生日ぜんっぜん関係ないことに今気がつきました。(←抜け作)