「いや、ダメじゃないけど・・。」
よく聞く言葉。
ダメじゃないなら、何で断るの?
ただ恋をしてるだけ
陵南高校の図書館の下は、絶好の告白ポイントで。その中でも使用回数1番は、あの仙道彰だ。
「今日も仙道君が告白されてた。で、断ってた。」
図書委員女子のみの日誌には、そういった類の書き込みがある。は日誌をめくりながら、前の告白はいつだったかな?と思っていた。2週間前だ。
「この時も断ってる・・。っていうか、図書委員は悪趣味だなぁ。」
ま、聞こえるんだから仕方ないよね、とはカーテンが少し動く窓を苦笑しながら見た。声が上に上がるのだ、静かな放課後の図書室、声は音楽のように響く。仙道とは2年生になって同じクラスになった。もちろん人気者だったから知っていたし、人懐こい性格にはクラス全体が和んでいる・・といった感じだった。3年生のお姉さんたちにも可愛がられている仙道は、にとっては手の届かない存在のように思えた。最近、その仙道の口癖には気が付いた。
「いや、ダメじゃないけど・・。」
仙道はよくこの言葉を使う。困ったような、でも優しい感じで、そして決定的な言葉。「ダメじゃない」わけではないのだ。その子じゃ「ダメ」なのだ。はそう思っていた。優しいのか、そうでもないのか・・は考えている。
は仙道が好きなのだ。
ずっと、好きでいた。
だから、声を聞いただけで分かる。
下にいるのは。
仙道だ、と。
初めて仙道を見たのも、やはり図書室のこの窓だった。告白されて、言葉を濁してやんわりと断る仙道の、去ってゆく後ろ姿を見た。高校に入学したてで、初めて図書室の当番をしていた。越境入学の仙道をは眩しく見ていた。今までに感じた事のない感情、ただ好きなんだと思っていた。
「好きでいるだけなら、いいよね。」
誰に言うわけでもない、そう自分に言い聞かせる。そして1年が過ぎて、2年生で同じクラスになったのだ。仙道を益々好きになったし、仙道は相変わらずもてる。でもやんわり断りの台詞はいつの頃からか「ダメじゃないけど・・。」に変わっていた。
ダメじゃないけど・・。
じゃあ。
ダメじゃない人って誰?
は窓辺に頭を乗せていた。
「聞いてくれただけで、嬉しかった。」
「うん。」
足の上に置いてある本がバタンを音を立てて落ちる。うたた寝をしていたはその音で目が覚めた。慌てて拾って、ゆっくりと息をする。
「。」
仙道がの名前を呼んだ。は驚いたが、窓から顔を出そうとはしなかった。
「あれ?間違えたかな?だろ?そこにいるの。図書委員のさん。」
はそぉっと窓から顔を出した。
「あ、やっぱり、じゃん。何?昼寝??」
いつものように人懐っこい笑みを浮かべて、図書室を見上げている。
「仙道君・・。」
「ん?」
そんなに遠い距離ではない。2階と1階、今日は随分遠く感じると、は思った。
「聞いてたんだろ?今日の日誌にも書くの?」
「え?」
「いいよ、別に、書いても。俺、気にしないし。」
「ダメじゃないけど・・。」
同じだ、とは思った。優しいけど、心に刺さるように言葉を紡ぐ。仙道はそう言うと、昇降口の方へ行ってしまった。後ろ手にひらひら手をなびかせて、仙道が遠くなる。はぼぉっと眺めていた。ちょっと悲しそうな背中、は仙道の告白の事を日誌に書いた事はない、下世話な他の委員や先輩が面白半分で書くのだ。
「私は・・。」
そう呟いて、黙った。その日誌を眺めているも同罪だと、感じた。仙道は何でも知っている、それが仙道を悲しくさせているのだと思った。
「仙道君・・。」
その日、は日誌を書かなかった。次の日、いつもと同じように学校が始まり、いつもと同じ仙道がいた。もいつもと同じように過ごす、そこへ他のクラスの図書委員がやって来た。
「今日の当番、代わって貰えるかな?次のの当番の時、代わるから・・。」
「いいよ。」
は快諾した。やっぱり、日誌を書かないのはよくない、と思ったからだった。何もなかったと書けばいい、はそう考え、図書室に続く廊下を急いだ。生徒の図書業務を終えて、もう少しで閉館の時間。司書の先生は会議があるとかで、に鍵を渡していた。図書室にはが1人、カウンターに座っている。昨日の日誌にはいつもと同じように日誌を書き足した。
図書室の扉が開く、廊下からの風で日誌のページがめくられた。
は顔を上げる。そこには仙道が立っていた。
「もう、閉館?」
「ううん。あと30分。」
部活中だったのか、Tシャツ姿の仙道は図書室の中に入ってくる。
「あの・・。」
「成る程、構造上、よく聞こえるわけだ。」
窓辺に手をついて、仙道は窓の下を見た。仙道はを見た。
「そうでしょ?」
「・・そんなには・・。」
「いいよ、ウソつかなくても。」
仙道は窓枠に腰掛けた。は無防備に投げ出された仙道の脚を見た。は思い切って顔を上げた。
「昨日はごめんなさい。うっかり、そこでうたた寝してて・・。あの、こんな事言っても、何もならないかもしれないけど・・わざとじゃないの・・。」
泣きそうだと、は思った。初めて仙道と2人きりで話す会話がこれじゃあ・・、は目の奥がつんと痛んだ。
「俺さぁ、好きな子、いるんだよ。」
仙道は穏やかにそう言った。はゆっくりと顔を上げた。
「あぁ・・。そんな泣きそうな顔、するなよ。」
困ったな・・と仙道は頭を掻いた。それでこっちにおいで、とを手招きした。は仙道に少し近づいた。
「昨日は・・ちょっと意地悪した・・。が当番だって知ってたから・・つい、な。意地悪したんだよ。」
「ごめんなさい。」
「俺の方こそ、ごめんな。」
仙道はに近づいた。は少し身体を硬直させた。仙道は少し笑った。
「私じゃ、ダメなの?ってよく言われるから・・。」
は仙道を見上げた。
「ダメじゃないけど・・って言うんだけど。やっぱり、女の子としていや?」
仙道は穏やかに笑っていた。はゆっくりと頭を縦に動かした。
「そっか・・じゃあ、やっぱりちゃんと言わないとな。」
仙道はカウンターの前の椅子に座った。もう1つの椅子を引っ張って、そこにを座らせるように向きを変えた。も黙って座った。
「今度はちゃんと言うよ。」
は仙道を見た。
「好きな子の事、言うの?」
「そう。その方がいいだろ?」
「・・分からないけど・・今よりは、いいかも。」
仙道は笑っていた。はちょっと安心した気分になった、いつも仙道の笑顔だった。が好きな仙道の笑顔。
「やばっ!監督に怒られる。」
「?」
「腹痛いって言って、抜けてきたんだよ。」
は笑った。仙道はいつもそうやって、部活をさぼると聞いた事があったからだ。
「監督も分かってるんじゃないの?」
「そう?そうかぁ?うまく騙してるつもり、なんだけど。」
大またで図書室を横切り、仙道は入り口で振り返った。
「じゃあな。気を付けて帰れよ、。」
「うん。仙道君も部活、頑張ってね。」
失恋、したのだとは思った。
仙道には好きな人がいる。
でも、勝手に片思いをしているだけ。
好きな子かぁ・・。
はちょっと、何だか嬉しい気分になった。
ダメじゃないけど・・。
もう、この台詞を聞く事もないだろうと。
全国大会の予選が近づき、仙道に告白するなんて隙がないまま夏休みが始まり、2学期が始まった。冷房のない図書室は今日も誰もいない。は窓を大きく開けていた。
「仙道君・・。」
また、声が聞こえてくる。
「付き合って下さい。」
「ごめん。」
「私じゃ・・ダメって事?」
はぎゅっと目を瞑った。
「ダメとか、そういうんじゃなくて・・。俺、好きな子、いるんだ。」
「仙道君が片思い?」
は開いていた本をパタンと閉じた。カウンターから立ち上がる。
「図書委員。」
「え?」
「俺、今日の図書委員が好きなんだよ。」
音を立てずに窓を閉めようとしていたの手が止まった。
「そっか・・。」
「うん・・。」
「実るといいね。」
「願っててね。」
いつものように笑顔でその相手を覗き込む。
「知らない!私、失恋したんだから。人の応援なんてしないわよ!」
明るく笑って、去って行く。は思わずその後ろ姿を見つめていた。
「!」
名前を呼ばれてはびくっとした。
「今からそこ、行くから。逃げるなよ。」
は凍りついたようにその場に立っていた。がらっと大きな音を立てて、扉が開く。は振り返った。そこには肩で息をしている仙道がいる。
「・・仙道君・・。」
ゆっくり歩いて来る仙道には恐る恐る声を掛けた。
「今日の当番は私だよ?」
困ったように自分を指差し、後ろに1歩下がった。
「知ってるよ。名前、呼んだだろ?」
いつの間にか近くによって、仙道はの前で止まった。
「って、呼んだだろ?」
は仙道を見上げた。
「聞こえただろ?」
は頷いた。仙道は少し屈んでを下から見つめた。
「で?返事は?」
「・・・。」
「驚いた?」
穏やかな笑みでを見つめる仙道の視線は、優しくて、は思わず仙道を見た。
「うん・・。」
「だろうな、本当は夏休み前に言いたかったんだけど。何か言い難くて・・。」
仙道は困ったように笑った。
「返事、今、貰える?」
仙道は背を伸ばして、を見下ろした。長い髪の毛が風に揺れている。
「俺としては、告白をに聞かれているのが、1番痛い。」
は笑って仙道を見上げた。
「色々、考えてるだろうなぁって。」
「でも、今日、仙道君の真意が分かった。」
「そ?じゃあ、よかった。」
は仙道の腕にそっと触れた。
「私も、仙道君が好きだよ。」
「そっか・・。じゃ、一緒だ。」
「そうだね。」
もうすぐ秋なのか、緩やかな風が図書室を通り抜ける。
「一緒なら、今日、一緒に帰る?」
「うん、いいよ。」
「じゃ、部活終わるまで待っててくれる?」
「私、鍵持ってるから。ここで待ってるね。」
仙道はの手をそっと握った。
「迎えに来るよ。」
「待ってるね。」
2人は、ただ恋をしてるだけ。
END
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お婿企画で頂きました!
も、この仙道とヒロインさん大好きです!!しあわせ〜〜〜vv