料理が得意らしいはよく中華を作る。

和食も洋食も作れるらしいのに、カカシは未だに食べたことがない。

一度、何故かと訊いたら、返ってきた答えは



「中華だったらお肉と一緒に野菜が一杯食べられるから」



彼女の料理は野菜嫌いの彼の部下のために作られている。






君の一番








の一番はナルト。
それは当然。だって彼は彼女の家族だから。

なら自分は?
カカシは自問する。そして答える。
「ナルトの上司」それだけだと。

多分、異性としては一番親しいだろう。
けれどそれはあくまでも彼女の家族であるナルトの上役として、何度も彼女の家に
招かれ食事を供されたりしているだけ。
そんなことはカカシが一番良く解ってる。

の一番の親友は紅だが、それも当然だろうし、それはそれで構わない。
カカシはの友達になりたいわけじゃないから。

カカシがなりたいのは、の恋人。
今はナルトが一番でもいい、ただ、その次に自分が居たい。


「……なーんて、意外と一途だったのね、俺って」
「自分で言うな」


冷たいアスマの突っ込みにぶすくれたカカシは、だが次の瞬間、ふわりとその目元
を和らげた。
その急な変化にアスマもまたカカシの視線を追ってその人影を見つけた。


「あー、そういや三代目が呼んでるとかなんとか受付の奴が言ってたっけな」
「またあの爺さんは…」


趣味は若い娘さんとのおしゃべりと公言して憚らない里長の顔を思い浮かべて、カ
カシは憮然とした表情で溜息をつく。
通常の出自ではない彼女を気に掛けているのだということは解る。
だが、それでも週に3日は呼び出して小一時間ほど話し相手を勤めさせているという
のは明らかに職権乱用ではないのか。


「油断も隙もないよねー?」


低い呟きにアスマが振り返ったときには、既にカカシの姿はそこにはなかった。















「は? 写真モデル、ですか?」


いつものように呼ばれて訪れた火影の執務室で、は眼を見開いた。
忍者登録のときによく世話になる写真屋からの依頼で、ウィンドウに飾る用の写真
のモデルになって貰えないかというのである。
それも何故か指定で。


「どうも街で其方の事を見かけて気に入ったらしいのぅ。イメージにぴったりだと
か言っておったわ」
「はぁ…」



そう言われても、と言うのがの本音である。
寝耳に水、と言うか、そもそも忍者ではないに何故依頼が来るのか。
そこからして間違っている。
その疑問が顔にでも出ていたのか、三代目はばつが悪そうに明後日の方向を向いて
煙草の煙を吐き出した。


「すまんのぅ、本来ならば断るところなんじゃが、あそこのオヤジとは昔馴染みと
いうやつでな。勿論バイト代は弾ませてもらうし、相手も好きな奴を指名して貰っ
て構わんよ。任務で里を留守にしているのでなければなんとしても予定を空けさせ
るでの」
「いや、まぁそれはいいんですけど…」


は「困った」と言いたげに眉間に皺を寄せつつ笑みを浮かべる。
何が問題か。
それは決まってる。
撮る写真の種類だ。
勿論いかがわしいものではない。が、ある意味それと同じくらい羞恥心を刺激され
るものではある。


「やはり、気が進まんか?」
「え?」
「まぁな…嫁入り前に花嫁衣裳を着ると婚期が遠退くと言うしのぅ」
「え? あ、いえいえ、そんなことはどうだっていいんですけどねー。どうせ相手
もいないことですし。ただ、私が良くても相手の方が嫌なのでは、と」


そう。
今回の依頼は『幸せそうな新郎新婦の写真モデル』。
の一存で相手  勿論、ただのモデルなのだが、その写真は宣伝材料として
少なくともある程度の期間衆目に曝されることになるわけで  を決めるのはどう
にも気が退ける。
それに勿論、恥ずかしいというのもある。


「いやいや、其方の相手なら皆喜んで勤めるだろうよ」
「それはまぁ、任務ですしねぇ」
「……そういう意味ではないんじゃがな」
「んー、じゃあ」
「おお、受けてくれるか! …で、相手は誰にする?」
「そうですねぇ、それじゃあ……イルカ先生で」
「イルカ?」


ポロッと落ちかけた煙管をすんでのところで捕まえて、何事もなかったかのように
また口に咥えたのは流石と言うべきか。


「はい。  だめですか?」
「いやいやいや、悪いとは言っておらんよ。じゃが、他に一緒に写真を撮りたい相
手とかはおらんのか?」
「まぁ、別に。特にはいないですから」
「そ、そうか」
「ええ、そうです」
「……なら、イルカには儂から言っておこう。撮影は来週の火曜じゃ。色々と支度
があるようじゃから朝9時に店の方へ行ってくれるか」
「わかりました」


ではこれで失礼します、と頭を下げたが退出していった扉を眺めて、三代目
は長く煙を吐き出した。
と、その眉が不意に顰められる。


「  言いたいことがあるならさっさと言わんか、カカシ」
「………」
「仕方なかろう、がイルカを指名したんじゃから! 儂とててっきり
はお主を指名すると思っておったわ!」
「………」


カカシの無言の抗議に気圧されたかのように三代目はまくし立てた。


「大体な、木の葉隠れ里きっての忍が惚れた女一人満足に口説けんとはどういうこ
とじゃ!」
「うっ…!」
「カカシ、イルカを脅したり怪我させて交代するよう迫ったりしたら、撮影当日に
Sランク任務1ヶ月間立て続けにやらせるからの! わかったな?」
「………ハーイ」


どう聞いても不貞腐れてるとしか思えない返事と同時に木の葉が舞い、カカシの姿
は掻き消えていた。
後に残るのは必要以上に部屋の彼方此方に散らばった大量の木の葉。
「嫌がらせか!」と三代目が煙管を握りつぶしたとか…















それでも三代目の脅しは有効だったのか、イルカが不慮の事故に遭うこともなく、
無事に撮影の日を迎えて。


「はい、じゃそのまま視線はこっちで〜」


最初は緊張しまくっていたイルカもようやく硬さが取れてきて、何とか順調に予定
が消化されてゆく。

ただし、


「あ、イルカ先生笑顔が硬いよ〜? りらっくすりらっくす」
「は、はははは…」


何故かカカシがカメラマンの助手を勤めてはいるが。


「もー、カカシさんってばイルカ先生で遊ばないでくださいよ」


イルカの笑顔が引き攣るのを間近で見上げて、は溜息をつく。
それでなくてもいい加減疲れているのに、と。

朝から準備して先ず白無垢に角隠し、イルカは紋付袴での撮影。
それが終われば色打掛に『お色直し』をしてまた撮影。
それがようやく終わって、これで終わりかとほっと息をついたのも束の間、今度は
ウェディングドレスに着替えてまだ撮影は続くと言う。
しかも和服とドレスでは化粧も髪型も一からやり直さなくてはならず、それも
にはストレスになって、しっかりメイクで隠れて判り辛いものの、はかなり
疲労していた。
正直、忍者の体力に合わせた撮影スケジュールなど立てるな! と怒鳴りたい気分
だ。

おまけに、用意されたドレス用のハイヒールのサイズが微妙に小さく、さっきから
ずっと爪先に痛みを感じている。

だが、それもこれももう少しで終わると思えばこそ疲れた顔も見せずに頑張ってい
られるというのに。


「ハハハ、ゴメ〜ンね?」
「もう…」


悪びれないカカシに八つ当たりしてしまいそうで、は気持ちを落ち着けよう
と細く長く息を吐いた。


「…先生?」
「イルカ先生、もう少しですから頑張りましょう?」


それに反応して怪訝そうな表情になったイルカに慌てて愛想笑いを向けて。


「そ、そうですね!」


カカシからのプレッシャーから早く逃れたかったのか、力強く頷いたイルカ。
そして、その言葉どおり。
それからものの30分ほどで無事に任務完了と相成ったのである。


先生、お疲れ様でした」
「イルカ先生こそ、お疲れ様でした。…やっぱり、着慣れない衣装を着ると肩が凝
りますね〜」
「あはは、そうですね。早く着替えましょうか」
「はい」


ほっとして笑顔を返しただったが。

スタジオの奥に設置された更衣室へ向かおうとした足は突然空を切った。


「へ?!」


ついでに視界がぐりん、と45°程回転する。

ふわり、と体が浮く感覚と締め付けから開放された足。

そして。

目の前に迫ったカカシの口布と額宛で8割方隠された、それでも端正な顔立ち。


「か、カカシさん?!」
「任務は終了でしょ? 報告書は慣れてるイルカが出してくれるってハナシになっ
てるし。家まで送ってくよ」
「いや、でも!」
「あ、着替えは先にさんちに運んであるから。ドレスも明日返せばいいって
ことだから、問題はないよね?」
「着替え運んだっていつの間に?! って、それより問題ありますって!」


むしろ大有りだ!
じたばたと足をばたつかせたら「落ちるからやめなさいって」と窘められた。
流石に落とされるのは嫌なので、はぴたっと大人しくなる。
カカシは満足そうに頷いた。


「…で、何が問題なの?」
「いや、だから私ウェディングドレス着てるんですけど」
「うん、そーね」
「でもってカカシさんに抱えられてるって言うか、横抱きにされてるわけで」
「そうだけど?」


それが何か?
首を傾げるカカシはこのままの状態で家まで送る気満々なのだろう。

だが、そんなことをしたら。


「目立つじゃないですか! それもものすごく!!」


きっと、傍目から見たら『花嫁を結婚式場から強奪してきた忍者』そのもので。


「カカシさん誤解されちゃいますよ!!」
「俺は別にいーけど」
「でも!」
「だって、さん今無茶苦茶疲れてるデショ?」
「!!」


さらりと。
口にされた事実にの眼が見開かれる。


「それに、足」
「あ、足が、何か?」


そらっとぼけようとしたら、カカシが目の前で大げさに溜息をついた。


「痛いんデショ? 意地張るんじゃな〜いの」
「……うぅ」


折角隠してたのに、と恨みがましい眼でカカシを見上げたら、「そうだったんです
か?!」全く気付いていなかったらしいイルカが視界の端で驚いているのが見えた。


「……なんで分かったんですか?」
「なんでって、そりゃーワカリマスよ」
「だからどうしてですか?」
「だって、さんカメラが向いてないときずーっと眉間に皺が寄ってたし。何
度も溜息ついてたし?」
「……あぅ」
「ってことで、大人しくしててね」
「へ? …うきゃ!!」


いきなりグン、と身体に軽い負荷が掛かったと思ったら、カカシはを抱えた
まま屋根の上に立っていた。

いつの間に、と驚いている暇などない。

後ろに流れていく景色には硬直したままカカシにしがみ付いているしかなく
なる。


…後に呆然としたままのイルカと依頼人を残して。












「ねぇ、さん」
「は、はひ?」


ジェットコースターの苦手なは急なスピードと不安定な体制、不意に訪れる
落差にすっかり怯えて答える声も上ずってしまっている。

そんな様子も可愛いと思いつつ、カカシはずっと気になっていたことを訊ねた。


「どーしてイルカ先生を指名したの?」
「へ?」
「今回の依頼の相手、どーしてイルカ先生だったの?」
「ど、どーしてと言われても…ぅひゃ!」


がくん、と突然襲ってきた落下感にはしがみ付く腕に力を篭めた。
いきおい、カカシの肩口に顔を埋める形になる。


「ね、どーして?」
「えーっと……」


カカシの足が止まった。
どうやら、今立っているのは背の高い木の枝らしい。

ジェットコースターよりも心臓の悪い乗り物が止まってくれたことで、ようやく
の脳も思考能力を取り戻す。


「……もしかして、カカシさんやりたかったんですか? 新郎役」
「………悪い?」


唇を尖らせて腕の中のを睨むその表情はまさしく拗ねた子供のそれだった。
本人は自覚していなかったけれど。


「いや、悪くはないですけど、でも大丈夫なんですか?」
「……何が?」
「だってほら、写真撮るってことは顔曝すわけでしょう? カカシさんいつも隠し
てるから、やっぱマズいのかな〜って」
「いや、それは別に……っていうか、さんもしかしてそれで俺指名しなかっ
たの?」
「えと、まぁ…それだけじゃないんですけどね」
「何?」
「あ〜…」


言い辛そうに言葉を濁すを、カカシは無言でじっと覗き込む。
と、根負けしたのか、は「絶対に誰にも言わないでくださいよ?」と念を押
してから。


「カカシさんとかゲンマさんとかも考えなかったわけじゃないんですけど……皆さ
んカッコ良すぎるんですよね」


最後の方は低い声でボソッと呟いて、困ったように微笑った。


「え?」
「いや、だからってイルカ先生がカッコ良くないとか言ってないですよ?! そん
なことは決してないんですけど!! …でも、ほら、イルカ先生は親しみやすいと
言うか何と言うか……だって隣に並ぶのが私なんですよ?! 余りにも不釣合い
だと悲しくなるじゃないですか!!」


必死で言い訳するの顔は耳どころか首まで赤く染まっていて。


「……そんな、理由?」
「そんなって! 女として気にせずにはいられないんですよ!」


カッコ良過ぎると惚れた女に評されたカカシとしては。
呆れるべきか喜ぶべきか。

たっぷり30秒ほど反応に迷った後、結局両方ごちゃ混ぜにして声を上げて笑った
のだった。



「だから言いたくなかったのに〜」



すっかり拗ねてしまったの機嫌をとるのに後でかなり苦労することになるの
だけれど。













の一番はナルト。

それは誰の眼にも明らか。
だってナルトはの家族だから。



だけど、「じゃあ自分は彼女の何番目?」なんてもう気にしない。

だって彼女はちゃんと自分のことも気に掛けてくれてるって分かったから。
……それが自分だけじゃないのはやっぱり不満だけど。



でも、いつか必ずさんの一番になってみせるからね?



さんと俺なら、すっごくお似合いだと思うけどね〜?」
「……カカシさん、そんなに新郎役やりたかったんですか?」
「そりゃね」


だって「さんの新郎」なんだからね。
冗談めかして本音を口にすれば、はにっこり微笑んで。


「まぁ、いつか本番で撮れますよ」
「ホント、さん?!」
「ええ。だってカカシさん本当にカッコイイですから。女の人のほうが放っておき
ませんって」
「え……」


………とりあえず。

先は長そうだ。











fin.
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9999HITリク内容は「NARUTOの連載ヒロインで、お相手はカカシ氏。
くっつく前のカカシ→ヒロインなお話。
カカシ氏のアプローチに気づかないヒロイン」
でした。

代理リクして下さったこ〜やん様に捧げます。