初めの頃は気にも留めてなかった。
単なるクラスメイトの1人、そう思ってた。



今考えると、何て勿体無いことをしてたんだろうと本気で思うよ。









のバクダン(製造編)










朝練を終えていつもの通り教室へ戻ってきてみれば。


「バスケ部の部長さんの所に連れて行って」


つかつかと、顔を見るなり仏頂面で寄って来ての一言に、


「……は?」


流石に神も反応が遅れた。
が、は気にすることなく同じ台詞をもう一度、今度はゆっくり一語一語
はっきりと発音して繰り返す。


「えーっと……理由を聞いてもいいかな?」


実を言えば「牧を紹介しろ」というような要請を女子から受けるのはこれが初
めてではなかったが、それは大抵  ミーハーなものから真剣なものまで程度
の差はあれど  恋愛の色を含んでいたので、そういった用件なら必ず断れと
牧自身から部長命令を下されている神は常に『お断り』をしている。

が、彼女の表情と口調からしてどうもそういうわけでもなさそうで。

対応に困って訪ねてみれば、「1年の清田信長って神クンと同じ男バスよね?」
と予想外の名前が飛び出してきた。……それもかなり忌々しそうに。


「そうだけど…ノブが何かやったの?」


神にしてみれば、至極当然の質問。しかしこれは彼女の怒りのスイッチを押す
まさにNGワードだったらしく、キッと睨み上げてくるその眼差しは『コート
の上の格闘技』とまで言われるバスケットで慣れているはずの神でも怯んでし
まうほどの迫力だった。


「何か、じゃないわよ! あの子一体何様のつもりなの?!」
「は?」
「委員会!! 四月から一度たりとも出てこないのよ?! 毎回毎回、女子の
岸田さんに押し付けて、自分はサボリ倒し!! 捕まえて理由を問い質したら
何て言ったと思う?!」
「…何となく想像はつくけど、何て言ったの?」
「自分はバスケ部のレギュラーでエースだから委員会なんかに出てる暇なんか
ないって!! おまけに、岸田さんは部活やってなくて暇だから、暇な奴がや
ればいいだろって言うのよ?!」
「うわー……」


「なんてこと言うんだ、あのサルは」と頭を抱えたのも仕方のないことだろう。
つまりはその発言のせいで責任はバスケ部にあると考えたに違いなく、
そのクレームの為に牧に会わせろ、ということらしい。


「あ、あのさ、さん。別にバスケ部が委員会サボれって言ったわけじゃ
ないんだけど…」


多少びくつきつつも誤解は解いておかねばと口を開いたのだが、


「分かってるわよ、そんなこと」


帰ってきたのはそんなあっさりとした一言。


「え? でも」
「別にバスケ部がそんなこと指示してる、なんて思ってないよ。でもね、清田
クンがそういうことを言ってる以上、部長さんから『指導』してもらわないと
いけないでしょ? 清田クンが委員会の仕事ちゃんとしてくれないと、岸田さ
ん可哀相だもん」
「あ…そういうこと?」
「そういうこと」
「……なんだ」


あからさまにほっと息をついて肩を落とした神に、


「部長さんの所に怒鳴り込むとでも思った?」


は愉快そうににっこりと微笑んだ。


「えっ?」


途端に高鳴った鼓動と上昇した体温の理由は、心の内を見透かされたせいだと
思い込むことにした。
笑った顔がやけに可愛く見えたなんて、そんなこと。










バスケ部部長の牧紳一は見かけの通り、責任感が強い。
その彼に一連の事情を伝えれば、


「分かった。俺からも清田にはしっかり言っておく」


一も二もなく肯定の返事が返ってくるのは当然の事だ。


「よろしくお願いします」
「ああ。もしそれでもサボるようなら、俺に直接言ってくれ。場合によっては
レギュラーから外すことも考える」
「……牧さん、それは流石にやりすぎなんじゃないですか?」


まさか、さんにいいところ見せようとか思って言っているんじゃないで
しょうね? という意味をたっぷり込めた目でじとっと見つめれば、牧は少し
だけ慌てたように「そんなことはない」と首を横に振った。


「例え望まない役割でも、一旦任された以上は責任をまっとうするのが生徒の
義務であり、義務を果たさずして権利の行使はない。況して、サボリの口実に
バスケを使うなど言語道断だ」
「…まぁ、その点は俺も同感です」


かすかに頬が赤いのは、この際触れないでおくことにしたけれど。


  ……全くもう、油断も隙もない。


内心で溜息を吐きかけて、気付く。


  油断って、何だ? 隙を見せたら、何だって言うんだ?


「油断」も「隙」も当然のことを言っているわけで。
そこに付け込まれたら困ると言うか嫌だと言うか、とにかく自分にとって愉快
なことではなくて。

で、どうしてそう思うのかと自分に問うてみればそれは考えるまでもなく  


  嘘だろう?」


だって、殆ど今まで話したこともないのに。
単なる同じクラスの女の子だとしか思っていなかったのに。


「…どうしたの?」
「え? あ、いや、何でも…っ」


首を傾げて見上げられて、真っ直ぐ見つめてくるその瞳に自分が映っているの
を意識した途端に、かぁっと。


顔が熱い。


心臓が煩い。


手の平に掻いた汗が気になって。


「神クン? 顔赤いよ?」


熱でもあるの? と額に手を伸ばそうとしてくるものだから、神の心臓は壊れ
そうなくらいに飛び跳ねる。


「なっ何でもない! 大丈夫、何でもないからっ」


慌ててばたばたと顔の前で手を振ると、は「そう?」と納得していない
ながらも視線を前に戻したから、神はこっそり息を吐いて、でも彼女の視界に
自分が入っていないことがやけに淋しく感じて。
それでもこっそりと上から見ると意外と睫毛が長いだとか、化粧はしてなさそ
うなのに唇はツヤツヤしてるからリップクリームでも塗ってるのかなとか、気
がついたら観察している自分がいる。


  嘘、だろう…?


初めてまともに見た顔がすごい迫力の怒り顔だなんて、出会いとしては多分、
最悪の部類に入る筈。なのに。


  だけど、その怒ってる理由は主に委員の仕事を押し付けられてる後輩の女
の子が可哀相だっていう同情と正義感から、だし。


牧に状況を説明している間も、は決して信長に委員の仕事を部活に優先
させろとは言わなかった。委員の仕事が出来ないほど本当に練習が忙しいので
あれば、ただサボるのではなく、誰か代わりの人間を寄越すとか配慮するよう
に指導してくれと訴えただけだ。


  頭が良いんだな。それに、度胸もあるし。


『常勝 海南』の看板を掲げるバスケ部員の事情をは彼女なりに理解し
て、その上で冷静に妥協案を提示している。
3年の教室に(神が立ち会っているとはいえ)乗り込んで、臆する様子もない。
その堂々とした、それでも礼儀を忘れない態度は潔くて好感が持てた。

それよりなにより。




笑顔が可愛くて。




さっき一度向けられただけのそれを思い出すだけで顔の表面温度が3度位上が
りそうで、慌てて意識を逸らそうとした途端に牧の視線と真正面からぶつかっ
た。

途端、見透かしたようにプッと吹き出されて。
しかも笑いを噛み殺そうとして殺しきれずに牧が変に唇を歪めるものだから。


「…っ!」


折角逸らした意識も無駄な足掻きと言うしかない程紅潮した頬に、今度こそ
に訝しげな視線を向けられてしまった。










「なぁに? 1人でニヤニヤしちゃって」


やらしいなぁと揶揄いながらも、は肩越しに神の手元を覗き込む。


「ん? 懐かしいなぁって思って」


振り返らずに応える神の手元には、制服姿のとバスケ部のジャージ姿の神が
間に牧を挟み、その前には信長がしゃがみこんでのWピースをしている写真。


「あ! これって広島大会のときの?」
「そう。『が遥々広島まで応援に来てくれた記念』で撮ったやつ」
「なつかし〜。宮さんが撮ってくれたんだよね」
「そうそう、この時結局部員全員と交代で撮ってたよね」


その頃には既に神はの隣に立つ権利を手に入れていたが、それでも女の子が
応援に来てくれた事実に浮かれた部員達が調子に乗ってと肩を組んだり、腰
に手を回したりするものだから、嫉妬するやら、いつ彼女が怒り出すかとひやひや
するやらで、試合後より疲れたのを覚えている。


「信長もいつの間にかに懐いてるし」


出会いの原因を考えれば、忌避して避けてもいいところなのに、信長はがまる
で実の姉かのように不思議と懐いていて。もそんな信長を可愛がっていた。


「元々、悪い子じゃないもの」
「結局、甘えてたんだよなぁ、あいつ」
「可愛いじゃない」


神の手元には他にも文化祭やら卒業式やら、とにかく高校時代の写真が散らばって
いて。


「急に写真の整理する気になったの?」


それにしては時代が偏っていると首を傾げるに神はどこか照れくさそうに小
さく笑みを零して。


「違うよ。これはね、ちょっと再確認しようかなって思って」
「再確認? 何の?」


首を傾げつつ、座っている神におんぶをせがむ子供のように覆い被さってくる彼女
の耳元にそっと唇を寄せて。





「コノ頃カラズット、俺ハ君ニ夢中デス」





真っ赤になったは、それでも直ぐに笑顔で言った。


「私モ、デス」


神を一瞬で虜にした、あの笑顔で。













fin.


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10,001HIT代理リクは「白神夢で、ヒロインは
クラスメートまたは、彼女」でした。
白い神……頑張って漂白してみたんですが、
どうでしょう?(汗)
お待たせしてしまってすみません。


代理リクして下さったあきさか永夏様に捧げます。