どのくらい、そうしていたのか分からない。


もう、あれから何日経ったのか。
最初はちゃんと数えていたはずなのに、頭の中がぼんやりと霞がかっているようで
はっきりと思い出せない。

腕も足も力が入らなくて。




……弦ちゃん、心配してるだろうなぁ。



ふと。
厳しい顔つきの幼馴染の顔を思い出す。

そして、その彼の友人の、穏やかな優しい笑顔を。


彼にも、心配を掛けてしまっているのだろうか?


あの、落ち着いた柔らかな声を思い出すといつも、胸の奥がぎゅっと絞られるよう
な、何故か泣きたい気持ちになる。
そして無性に会いたくなる。
傍にいて、顔を見て、声を直接自分の耳で聴いていたくて。


……だけど、実際に顔を合わせてしまうと何故か言葉がうまく出てこなくなる。


彼には、心配を掛けたくないのに。
そうでなくても彼は病気で、テニス部のこともあるし、自分のことだけでも手一杯
のはずで。

それでも会いに行けば彼はにいつも気を使ってくれた。

とても優しい人。



もっともっとお見舞いに行きたかったけれど、もう行けないかもしれない。


「ごめんね…」


久し振りに出した声は自分の耳でも聞き取れないほど小さく、掠れていた。


そしてそれを最後に意識は途切れた。










SHALIMAR










しばらく姿を見ていないな、そう思い出していた頃だった。

部活をしているはずの時間帯にレギュラー全員が幸村の病室に現れたのは。
しかも、そろいも揃って顔が強張っている。


「どうしたんだ? 何かあったのか?」


訝しく思いながら発した問いには、思いがけない返答が返ってきた。


が学校に来ていない」


こちらには来ていないのかと問い合わせがてら報告されたその内容に、幸村は真田
の顔をまじまじと見返してしまった。


「……家には?」
「何度か担任が電話を掛けてみたようだが、母親が「風邪だ」と繰り返すばかりで
詳しいことは何も判っていないらしい」
「携帯は?」
「電源が切られてる」


その不審さは真田も充分に承知しているのだろう、いつになく硬い表情は病室に辿
り着くまでにすれ違った看護婦たちが怯えるほどの迫力だった。


「もちろん、それだけで何かあったと言うわけにはいきません。まがりなりにも、
さんの親御さんから担任に連絡されているのですし、本当に彼女はただ季節
外れの風邪を拗らせて寝込んでいるだけなのかもしれません。携帯も、充電するの
を忘れているだけなのかも。……しかし」
が休み始めてもう今日で10日だぜ? いくらなんでも長引きすぎだろ」
「一遍ブン太と外からそれとなく家ン中窺ってみたんじゃが、人がいるとは思えん
くらい静まりかえっとったな」
「ありゃ絶対おかしいって!」
「どう変なんスか?」
「家中閉め切っとんの。カーテンもぴっちり引いとって、まったく中が覗けんかっ
た」
「……一度、様子を見に行くべきだと思うのだが、幸村」


柳の視線が意味ありげに幸村に向けられた。


「ああ……そうだな」


それがわかっているのかいないのか、幸村はやや呆然と頷く。
柳の目がうっすらと開いて、そんな彼を見つめた。


「状況によっては、ある程度の行動が必要になると思われるが…」
「蓮二、わかっている」


その視線を真正面から受け止め、幸村は苦笑する。


「本当は俺が行きたいところだけどね。……誰が行く?」
「俺が行きマス」


真っ先に志願したのは二年生エース。
自分なら元々問題児だし、多少の騒ぎがあっても「ああ、またか」と思われる可能
性も高いと主張する。


「それに、年下の方が「委員会代表して先輩のお見舞いに来ました」つって
も先輩の親に警戒されなさそうでしょ?」
「それもそうだな。…なら、俺はお前の道案内を頼まれたことにするか。俺はおば
さんとも面識があるからな」
「よろしくお願いします」
「ああ」


普通なら、真田が同行すると言い出した時点で「げっ」とでも叫んで嫌な顔をする
筈の赤也だが、このときばかりは真剣な表情で頭を下げた。
そしてそれに頷きを返した真田も、顔色をこころなし蒼くしていて。

けれど、


「頼んだよ、二人とも」


残るメンバーには二人のフォローを命じた幸村こそが。
誰よりも真剣な表情で部員達を送り出したのだった。













そうして。


ただ、待つしか出来なかった数時間の後。











大量の精神安定剤の投与により意識不明となったが、幸村の入院する病院に
担ぎ込まれたのだった。










next.


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多分、次で終わるかと…