10月。

それは氷帝学園男子テニス部にとって試練の月だ。









PURE CEDRAT










実際のところ、試練は9月から始まっている。

試練の原因bPの跡部景吾の誕生日が10月の4日なんていう、月開け早々に控えているからだ。
当然ながら女の子たちは前月から跡部の欲しているモノ、気に入りそうなモノのリサーチに余念がない   ということはつまり、テニスコートや部員たちの周辺に彼女たちが『より以上に』集まることになる。

ただでさえ煩いのに、他校の生徒まで押し掛けて来ていて当社比1.5割り増し。

こんな状況で集中できる筈もなく、一部を除いてみんな苛々している。



そして、そんな狂乱と共に4日を何とかやり過ごしてこれで少しは静かになるかと
思いきや。




今度は、試練の原因bQ忍足侑士の誕生日である。

これがまた凄い。

何故なら跡部にぶつかっていって思いっきり玉砕した、もしくは跡部の周りを取り
囲む女子生徒たちの勢いに負けて近付くことも出来なかった等の理由を抱えた子達
が、今度は忍足狙いで押し掛けるからだ。

ある意味、跡部の時よりも殺気立っている。
「いつか死人が出るんじゃねーか?」とは宍戸の意見。
ちなみに、怪我人なら毎年一人か二人、既に出ている。


しかも、だ。


その、とんでもない騒動の中心人物が今年はいきなり爆弾を落としてくれやがった。


「悪いけど、今年は好きな女からのん以外、誰からのも受け取るつもりあらへんか
ら。」


その一言が起こした爆風はまさに記録的だった。
今思い出しても眩暈を覚えるほどに。

そして、その幸運な女とは誰なのかという問いに彼、忍足はあっさりと答えてくれ
やがったのだ。


「ん? そんなんに決まっとるやん」


……その後のことは思い出したくもない。











「はぁ……」
、7回目〜」
「……慈郎」


嬉しそうに私の溜息をカウントする金色頭を睨みつけてやる。
……なんでそんなに嬉しそうなのよ。


「何悩んでんの、?」


教師達にどれだけ嫌味を言われても居眠りし続けられる神経の持ち主の慈郎がそれ
で怯むはずもなく。
その好奇心に満ちた瞳は私から満足する答えを引き出すまで諦めないだろう。


「誕生日プレゼント、何が良いのか思いつかなくて」


私は正直に口を割った。


「それって忍足の?」
「他に誰がいるっての」
「だよねー」


にっこり笑う慈郎。一体何がそんなに楽しいんだろう?
……あれか。私が悩んでるのが珍しいのか。


「だけど、忍足は今年は誰からのも受け取らないんでしょ?」
「例外がなければ私も悩まなかったんだけどね」
「ということはさ、忍足の『好きなコ』が自分だっては認めるんだ」


にこにこにこ。
無邪気な笑顔を見せられたら冷たく突っぱねることもできない。

……この笑顔が曲者なのよねぇ……

分かってても逆らえないって言うか、さぁ。


「流石に、何ヶ月も言われ続けてきたのを嘘だと言うほど根性悪じゃないよ」
「うん。知ってるC〜」


分かってても。

にぱっと笑う慈郎はやっぱり可愛い。


「でもさ、それなら忍足が欲しいのは簡単なんじゃない?」
「そんなベタなネタは許せん」


慈郎の言いたいことを即座に察して否定した。

プレゼントは私、なんて恥ずかしくて出来るか。
そう言うと、「わがままだなぁ」と笑われた。


その通りだと私も笑っていた。……ら。


「なんや楽しそうやな」


とても不機嫌な声が割り込んできた。


「何話しとんの? 俺もまぜてぇや」


……いや、顔は笑ってる。
そりゃもう綺麗な、何も知らない女の子が見たら一発でぐらっと来るような、慈郎
とはまた違った魅力的で威力的な笑顔。

だけれども、微妙に声が尖ってる。
目が笑ってない。


「ん〜、だめ」


この状況で、笑顔で拒否できる慈郎は本当にすごい。


「なんで?」


忍足の笑顔が一瞬引き攣った。
けれどすぐに戻る。
いつも思うけど、本当に器用な男だ。


「だって、話はもう終わっちゃったC。忍足が来た時点で俺はお役御免なのさっ」
「は?」
「じゃあ、あとは忍足にばとんたっち〜」
「は? おい、ジロー?!」


忍足の困惑もどこ吹く風、とっとと行ってしまった慈郎はやっぱりいい性格してる。
皆あの笑顔で騙されてるんだけどね。


「…なんやねん、わけわからへんわ」
「誕生日プレゼントが決まらないって、話をしてたのよ」
「……へ?」


あんまりにも苛ついてるようだったからさっさと種を明かしたら、とても間の抜け
た顔が私を振り返った。


「へ、じゃなくて。どこかの馬鹿がろくでもないこと言ってくれたお陰で、とんで
もなく周りからのプレッシャーが凄いのよ」
「え、あー…」
「誰のせいかしらねぇ?」


ここ数日、嫉妬と好奇の視線に曝され続けた恨みを込めて睨みつけると、忍足はす
ぐさま思い当たったのだろう、気まずげに視線を逸らした。


「忍足?」
「あー……スマン。けど、もういい加減俺も限界なんや」


苦く笑ったその表情は、とても男っぽくて。

心臓が跳ねた。


「なぁ、


忍足の左手が私の頬に触れる。
親指が輪郭を確かめるように何度も上下する。


「そろそろ、俺のモンになってくれへん?」
「忍足…」
「もう友達でいるのは嫌やねん。それも結構楽しかったけどな、でももういい加減
はっきりさせたいんや」
「忍足」


危うい均衡の上に成り立っていたのはわかっていた。
いつかそれを忍足が崩すだろうということも。
そして、私がそれにどう答えるかも。

それは考えるまでもなかった。

けれど。


「誕生日プレゼントに私をあげるなんてベタなネタ、関西人として許せるの?」


残念ながらここでうんと頷く可愛さは持ち合わせていないのだ。

それは忍足も充分認識していたようで。


「たまには、な」


ゆっくり近づいてくる顔は、男の癖に本当に綺麗。

……ちょっとむかついた。

ので、ぺしっとその額をはたいてみたり。


「……


お預け食らった犬みたいな表情がちょっと笑える。


「誕生日おめでとう、忍足」
「……おおきに」


珍しく照れた顔をした忍足に抱き締められながら、とりあえず、今日は帰りに誕生日
プレゼントを一緒に買いに行こうかと考えた。











fin.
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間に合いませんでした!
しかし、このおっしー本気で気が長すぎ(^^;