誕生日プレゼントは何が欲しい?


ごくごく普通の質問は、


「別に、何も欲しくなか」


あっさりと切って捨てられてしまいました。
一瞬は怯んでしまったけれど、だからといって引き下がるわけには勿論いかな
くて。
そこを何とか、と食い下がった果てに得られた答えは、


「んじゃあ、の時間をちょーだい?」


という、なんとも不思議なものでした。











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「仁王くん、おはよう」


まだうっすらと空の端が暗い早朝、吐く息を白くしながらドアの向こうに
が立っていた。
普段ならまだ寝ているはずの時間だが、今日は違った。
そもそも、学校を挟んで正反対の方向に家のあるがこの時間に仁王の部屋
の前にいること自体、異例の出来事だ。


「おはようさん、


チャイムが鳴らされてからほんの数十秒でドアを開けた仁王もまた、いつもとは
違ってすでに身支度を終え、薄い鞄を手にしている。
あの、朝に弱い仁王が!
あの遅刻常習者の仁王先輩が!
とブン太や赤也あたりがこの姿を見たらさぞかし素晴らしいリアクション付きで
驚いてくれたことだろう。
が、残念ながら美術部所属・ごくごく普通の一般人なは仁王が朝はとても
とても弱いことも、そのせいで週に3日は朝練に遅刻しているいうことも、その
くせどうやってか真田の目をかいくぐり柳を様々な情報で買収し幸村と怪しげな
取引をしてお咎めなしにしてしまっているのだということも、一切知らなかった。

  否。

ここは、仁王が知らせていないと言ったほうが正しい。
長年の片思いを漸く実らせてからほぼ9ヶ月、正確には8ヶ月と20日、
を甘やかし、溺愛しているといっても過言ではない仁王は自分自身の都合の悪い
事柄をできる限りの耳に入れないよう、ひた隠しに隠している。
一度、それはなぜなのかと柳生に訊かれたことがあった。
そのときの仁王の答えは、


「もしバレたらに怒られるじゃろ? 怒られて、そんで嫌われでもしたら
俺この先生きていけん」


だった。
どこまで馬鹿なんだ、と呆れるのは仁王を良く知らない者だけで、親しい
友人達はむしろ世界のすべてを小ばかにして褪めた目で生きていた仁王の変わり
様を微笑ましく温かく見守っている。……時々、物事には限度がある、と説教し
たくなることはあるとしても。


「仁王くん、いつもこんなに早いんだね。大変だね」
「そうじゃの。まぁ、慣れとるし、そんなに大変でもなかよ?」
「そう? 私だったら寝過ごしそう」


だってほら、向こうの空、まだちょっと暗いよ?
無邪気に空を指差して笑うにちょっと胸が痛むが、それをおくびにも出さ
ないのが仁王だ。


「慣れじゃよ、慣れ」
「習慣になったら体が覚えるのかなぁ?」
「たぶんの」


話す度に目の前が白く煙るけれど、それもなんだか楽しくて。
仲良く手を繋いで無駄に立派な母校の門をくぐった。










その後も普段と違うの行動は続く。
いつもは遠慮して近づかないテニスコート近くのベンチでテニス部の朝練を見
学し、授業の合間の短い休憩時間には席を立って仁王のそばに来る。移動教室
の際も友人のに断りを入れて仁王を誘い、昼休みは二人分の弁当箱を手
に仁王と連れ立って邪魔の入らないどこかへと。


の時間が欲しい


仁王は、誕生日プレゼントに『が一日傍にいること』を望んだ。
だからは仁王が望むまま、一日べったりくっついていることにしたのだ。


も大変だなー」


仁王のわがままに付き合わされて。
放課後の本練習にもベンチにちょこんと座っているに気がついたブン太
が寄ってきた。


「そうでもないよ? 練習見てるの、面白いし」
「そぉかぁ?」
「うん」
「寒くありませんか、さん?」
「ありがとう柳生君。大丈夫だよ」
「…そうは見えないぜぃ」


確かにコートとマフラーに包まれた上半身は温かそうだが、スカートからはみ
出た足は寒さに赤くなっている。


「あ…」
「しゃーねぇなぁ。これでも膝に掛けとけよ」


言って渡されたのはブン太のジャージ。
それも、3年が引退した直後に2年を差し置いて勝ち取られた、貴重なレギュ
ラージャージだ。


「や、だ、だめだよっ。そんなの借りれない!」
「いーから掛けとけ。見てる方が寒ぃんだからよ」
「でもっ」
「俺はこれから汗まみれになるくらい運動すんだからいいんだよ」
「丸井君のだけではまだ寒いでしょう。私のも使ってください」
「柳生君まで?!」
「おー、借りとけ借りとけ」
「なんだ? 何騒いでんだよ?」
「どうした、練習が始まるぞ。さっさとコートに戻らんか」
「いや、が寒そうだからさぁ」
「あぁ」
「…成程。女性が身体を冷やしてはいかんな」


ではこれも、との膝の上にジャッカルと真田の分まで重ねられ、防寒の
為というよりもレギュラー・ジャージ置き場といった方が良さそうな様相を呈
してしまっている。


「ふふっ。は人気者だね」
「仁王のわがままでに風邪を引かせるわけにはいかないからな」
「……ふん」


その光景が仁王にとって面白くないのは当然のことで。
からかう様な幸村や柳の視線もまた拍車を掛ける。
そんな仁王が我慢の限界、とばかりに向かう先など、柳でなくとも100%の確信
をもって予言できるというものだ。


「いやぁ、微笑ましいなぁ」
「あまりからかってやるなよ、精市」
「わかってるよ」


多分ね、と堂々と付け足す立海大付属の魔王様だった。











「……ったく、どいつもこいつも油断ならんぜよ」


部活が終わった後、面白がってついて回ろうとする悪友達を蹴散らした帰り道。


「皆心配してくれただけよ?」
「いーや、あいつ等は信用できん!」


困った人だなぁ。
口に出さなくとも口の端に滲んだ苦笑で判ったのか、仁王はますます眉間の皺
を深くしてを睨んだ。
が、繋いだ手を離そうとはしないところをみると本気で不機嫌なわけでも無さ
そうで、だとするとこれは照れ隠しのポーズというところか。


「仁王くん」
「…なんじゃ?」


ぎゅっと繋いだ手に力が入ってしまうのは許して欲しい。


「誕生日おめでとう」
「ありがとさん」
「大好き、です。雅治くん」
「!!!」


赤くなった顔を見られなくて良かったと、冬の日の短さにより深く感謝したの
は一体どちらの方だろう。
吐く息で目の前は白く霞むけれど、


繋いだ手はずっと暖かだった。






















「……そういえば、今日はずっと一緒にいるっちゅう約束じゃったよな?」
「え? うん」
「てことは、今日はこのまま俺んちへ直行決定、じゃの」
「えええ?!」






fin. 写真提供:Soft Color
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お持ち帰りはしても手は出せないへたれなウチの仁王クンです。
別名、『仁王くんの幸せな一日』(笑)

HAPPY BIRTH DAY NIO!!2007.12.4