が永四郎と『お付き合い』なるものを始めたらしい。
それも昨日から。


「じゅんにか?!」
「おう。から直接聞いたあんに、間違いないさー」
「マジかよー!」


裕次郎と凛に教えると、二人とも目をいっぱいに見開いて驚いたのがちょっと面白
かった。



けど、



すぐに後悔した。



無言で頷きあった二人がすごい勢いで走り去った(やったー忘れてるみたいだけど
これから部活さー)と思ったら、10分もしない内に同じ勢いで戻ってきたの、その
肩に担がれてるを見た瞬間に。

がっくりと落とした肩を、ぽん、と慧クンに叩かれた。


「あにひゃーたちにそんな美味しいネタ振ったらこうなるって、やーもいい加減学
習しろやぁ。木手が委員会で遅れててラッキーやっし」
「慧クン…」
「ん?」
「……わん、ゴーヤー決定?」
「諦めろ」


即答した慧クンの足も、既に部室に向いている。
どことなく軽やかなのが恨めしかった。

永四郎が怒るんだろうなぁ、とアンダーリムの向こうの般若顔を想像したら、本気
で怖くなったからわんも慌てて皆の後を追った。


(だってやっぱり興味あるし!!)











Splender









「そんで、木手はぬー言ってやーを口説き落としたんばー?」


裕次郎は直球だった。
前フリとか婉曲、なんて言葉、存在してることすら知らないかもしれない。
皆こんなときだけ気が回るらしく、いつも場所を取っているミーティング用の長机
は下手をするとここに持ち込まれてから初めて畳まれて壁際に立てかけられ、椅子
だけが歪な円を描いている。
もちろん、が座ってるベンチに向かって。


「やっぱりあにひゃーはやまとぐちで「好きです」とか言ったあんに?」
「え、えと…」
「いやいやいや、やーは読みが浅いやっし裕次郎。永四郎は興奮すっとうちなーが
出るからよー、「やーのことがしちゅんどー」あたりだろー」
「あい! それ言ったときのあにひゃ―の顔想像すっとしに笑える!!」


げらげら腹を抱えて笑ってる二人を放置(これはいちんことやし)して、


「…で、本当のとこはどうなんさ?」
「あ、……えと、ね」


慧クンの問いかけに対するの答えは、かなり予想外だった。











「あい?! ぬーも言われてない?!」
「じゅんに?!」
「うん」
「「好きだ」とか」
「「付き合ってくれ」とか」
「「しちゅっさー」とか!」
「「かなさんどー」とかも?!」
「ない」


爆弾発現をあっさり肯定して、はさんぴん茶のペットボトルをぐいっと煽っ
た。自身のポケットマネーで購入されてるものだけど、何故かウチの部室の
冷蔵庫に一定の本数が常備されてる。あの、規律に煩い永四郎が「さんは暑
さに弱いからね。熱中症で倒れられたら困るでしょ」なんてもっともらしく言いな
がら、でも部外者のにそれを許可(というかむしろ推奨)した時点で、永四
郎の気持ちなんてバレバレだったわけなんだけど……だからって。


「あいえなー…」
「しにあふぁー」
「それはあらんだろぉ」


流石の凛達も驚きすぎて二の句が告げないみたいだった。
それぞれ頭を抱えたり、天を仰いだりしてる。
……っていうか、それよりも。


「それでどうやってやったー付き合うことになったんばー?」


そっちのほうが不思議で仕方なかった。


「おぅ、そうやっしー」
「告白も何にもなしか?」
「あ! もしかして!!」


わんの疑問に凛と裕次郎が乗ってきたところで、慧クンがいきなり立ち上がったと
おもったらを指差して叫んだ。


「やーのほうから告ったんばー?!!」
「…へ?」
「ええええええ?!」
「しんけん?!」


あぁ、なるほど。
確かにそれなら話が分かる。
裕次郎と凛がものすごい勢いでに詰め寄るのを眺めながら、わんはぽん、と
心の中で手を打っていた。

あんまり永四郎の気持ちがあからさま過ぎてたから、あの性格からしてもてっきり
告ったんだとばかり思いこんでた。けど、そうだよな。から告るってのも、
アリなんだよなぁ。だって口数は少ないけど、自分の意見ははっきり意思表
示するコだし。


「やー、結構積極的なんだなー」
「いや、だから」
ってもっとおとなしい奴かと思ってたさー」
「違うって」
「して? ぬー言って永四郎を落としたんだばー?」
「だーかーらー」


はぁ、と額を手で覆ってため息をついたは、


「今から30秒」


指を3本立てて俺達の目の前に突きつけた。


「30秒間黙っていられなかった奴はゴーヤ食わすよ!」


分かった? 分かったね?
半眼でねめつけられた俺達は、こくこくと頷いて意思表示。さすがに永四郎程じゃ
ないにしても、中々の迫力だ。(けど、「ゴーヤ」じゃなくて「ゴーヤー」さー)


「さっきも言ったけど、木手からは告白めいた言葉も「付き合おう」とかそういう
類のことも一切貰わなかった。ここまでは良いね?」


こくこく。


「で、私の方から告ったのかという質問だけど……答えはNOです。私も何も言って
ないから」
「ええええええええええええ?!?!?!」
「ぬーがやそれぇ?!?!?!」


……凛、裕次郎、まだ30秒経ってないさー。
「堪え性無さ過ぎやっし」慧クンの目がそう言っている。


「けど! お付き合いは…してます。多分。……うん」
「なんで?!」
「どーやったらそーなる?!」
「何でって言われても……空気?」
「は?!」
「何やっし、それ!」
「ん〜、説明するのは難しいけど、木手と私の雰囲気がそう言ってたというか…」


が説明すればするだけ、二人の頭の上に「?」マークが増えてくみたいだ。
しまいにはとうとう「あがーっ分からんっ!」と叫んで頭を抱えてうずくまってし
まった。(普段使わない頭使ったから…)


「知念と田仁志も、わかんない…かな?」


二人のあまりの混乱ぶりに困りきってしまったらしいが助けを求めるみたい
な目でこっちを見た。
慧クンはちらっと壁時計に目をやってから、「いや、分からんこともない」ちょっ
と恥ずかしそうにそう答えた。


「そういう……場の空気、とか、流れ、とか」
「うん」
「その場にいた人間にだけ感じ取れることって、ある、と、わんは思う」
「わんも、同じ」


やっぱりちょっと恥ずかしかったから、わんも慧クンに便乗してそれだけ言う。
したらは「…うん、ありがとう」はにかみながら笑った。
赤くなった頬が可愛いかった。


「何でよー?!」
「何で知念と慧クンは分かるさー?!」
「彼等の方が君達より大人だってことでしょうね」


叫んだ二人に答えたのはわんでも慧クンでもでもなくて。


「木手、委員会はもう終わったの? 意外と早かったね」
「まぁ、定例の報告会でしたからね。こんなものでしょ」


それよりも。
笑顔で振り返ったに言葉だけはそっけなく、でも随分と優しい声で応じた我
らが部長様は、の頭にぽんと手を置いてその顔を覗き込んだ。


「怪我はしてませんか?」
「ん?」
「……ある親切な人から、君が教室から拉致られたと聞いたものでしてね」


ビシィッと、テレビでしか見たことが無い流氷が割れる音が聞こえた。
絶対に空耳じゃない。その証拠に、ほら、凛と裕次郎が完璧に凍ってる。


「あ…うん。大丈夫」
「それは良かった。もしかすり傷一つ付いていようものなら……」
「ものなら?」
「その馬鹿者共は明日の朝日を拝めなかったでしょうからね、永久に」


「馬鹿者共」の辺りで凛達を振り返った永四郎の目が……しに怖い。レクター博士
も裸足で逃げ出すに違いない。


「おや?」


永四郎の右の眉がわざとらしく上げられる。


「どうしたんですか、甲斐クン、平古場クン。随分と顔色が悪いようですが」
「え、えいしろー」
「や、あの」


絶対零度の微笑みに二人の顔色がどんどん青くなっていく。


「体調が悪いのに部活に出てくるなんて無茶をしますね。なんなら俺が今から寝か
しつけてあげましょうか、3日程熟睡できますよ」
「それ熟睡じゃなくて昏睡やし!」
「暴力反対!!」
「遠慮は要りませんよ」


不気味な含み笑いを漏らす永四郎と、逃げ惑……えずに早々捕まってしまってる凛
達に巻き込まれないよう、慧クンと示し合わせてそっと席を立った。のこと
も忘れずに(と、いうより、がいれば巻き込まれない確立が飛躍的に跳ね上
がるので)一緒に非難する。


「放っといていいの?」
「いいさー」
「いちんことだばー」


そっか、と一言で納得してしまうを見て、彼女も結構わったー達に馴染んで
きたなぁと実感するなんて、凛や裕次郎に悪いだろうか。


「……けどよー、


部室から聞こえる断末魔をBGMにコートへ向かう道すがら、慧クンが言う。


「ホントにいいのか?」
「何が?」
「木手のことさー」


振り向いた慧クンは予想以上に真剣な表情だった。


「こういうのって、けじめが必要だとわんは思う。だって今は良くても、
後になって不安になったりするかもしれんあんに?」
「……それは、ないとは言えない、かな」
が言いづらいんなら、わんから木手に言ってやるばーよ?」


慧クンの申し出に、足元に視線を落として少しだけ考える素振り。
だけど、「大丈夫」はあっさりと首を横に振った。


「…本当にいいあんに?」
「うん。ありがとうね、田仁志」
「いや……」
「あのね」


内緒話をする子供みたいに口元に手を当てて、がわったー達に顔を寄せる。
わったーもつられて背を屈めて耳を寄せた。


「言葉なんかいらないんだ」


赤い頬のままで、でも嬉しそうに。


「だって、木手は目や指先のほうがずっと正直だから」


ふと顔を上げたときに合う視線の、こっちが照れてしまうほど優しさだとか。
通りすがりに意味もなく頭を撫でていく大きな手だとか。


「そういうのから、充分に気持ちを貰ってるから、無理に言葉を貰わなくても平気
なの」


にっこりと笑んだを遅れてコートに出てきた永四郎が呼んで、はそれ
に応えてそっちへ走っていってしまった。


「……えー、知念よー」
「なんだば、慧クン」
「わんはいらん心配したんかねー?」
「ん? んー…」


唸りながら、ちらりと永四郎たちを見る。
永四郎はの頭に手を置いて、何かを言ってる。多分、またそっけなく冷静に
言わなくてもいい事実を指摘したかしたのだろう、はそれに怒ったらしく、
むきになって頭を振って永四郎の手を外そうとしてたけど、永四郎がそう簡単に振
り払わせるはずもなくて、可哀想には永四郎の恰好のオモチャになっている。

じゃれあう二人を見ていれば、さっきの慧クンは確かに余計な心配、といえば言え
るかもしれないけれど。


「まぁ、仲が良いのはいいことさー」
「だーるなー」


友達とその彼女には幸せでいて欲しいし、そう心から思える程度にはわったーも仲
良しなのだ。結局のところ。












ところで、凛と裕次郎はいつになったらコートに出てこれるんかねー?









fin.
写真提供:Coco
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『DAZZLING GOLD』の後日談。
相変わらず言葉が足りてない木手様。
だけど行動はメロメロでラブラブな無自覚木手様。