6.氷帝ALL ああ、神様。 一体これは何の試練ですか。 「……ふん、狭い部屋だな」 「そっか? 普通だろ」 「ウス」 「ねー、喉かわいたんだけど、ジュース飲んでE?」 「芥川先輩、勝手に人様の家の冷蔵庫を開けるのは礼儀違反です」 「なんだよ、まだ荷物全然片付いてねーじゃん」 「それはしゃーないで岳人、昨日引っ越してきたばっかりやねんから」 「結構可愛い部屋だよね。やるねー」 「すいません先輩、突然お邪魔しちゃって…」 何故引越し2日目に悪魔どもの訪問を受けねばならんのか。 「……これはあれか。何にも信仰してないことに対する嫌がらせか」 だとしたらどいつだ。 ヤーウェか。 仏陀か。 アッラーか。 それともアフラ・マズダか。 ……神様へ喧嘩売るのってどうしたら良いのかしら。 「青学の不二君か、立海の幸村君辺りに訊いたら判るかな…?」 「物騒な名前を二つも出すんじゃねぇ」 「二人とも私には優しいもの……って、そもそも何しに来たのよ、跡部」 下から睨みつければ、フン、と尊大に鼻で笑われた。 「お前が初めて手に入れた“城”を見てやろうと思ってな」 無駄に偉そうな態度は中高大と都合10年間嫌って程見てきて慣れてるか ら今更腹は立たない。 けど、慣れてるというそのこと自体に腹が立つ。 「で、わざわざメンバー集めて押し掛けてきたって訳ね」 「そういうことだな」 「暇人どもめ」 んで、わざわざ見に来ての感想がさっきのあれか。 ムカツクな、くそぅ。 ただの憎まれ口だって判ってるけどさ。 「どうせなら昨日来て引越し手伝うくらいの気の利かせ方見せなさいよね」 「だよなー。俺もそう思ったんだけど、宍戸と侑士が都合つかなくてさぁ」 「悪かったっつってんだろ、仕事だったんだよ!」 「あー、俺も病院の方抜けられんくてなぁ。堪忍な」 「いや、まぁ良いんだけどさ。1人分の引越しなんて高が知れてるし、引 越しのお兄さんたちが手際よく運んでくれちゃったから」 それに、下手にこいつ等に手伝わしたら何を壊されるかわかったもんじゃ ないしね。 その呟きは内心だけに留めてにへら、と笑う。 が。 「おい」 「ん?」 …振り向いた先には、どういうわけか眉間の皺の数が増えたお坊ちゃまが いた。 「今、なんてった?」 「へ?」 「惚けんなよ、引越しのお兄さんっつってただろ、お前」 「え、えーと、ウン、言ったよ?」 しかも、跡部だけでなく宍戸まで、若い頃のヤンチャっぷりを彷彿とさせ る不機嫌面をしてました。 「ふーん、俺たちより先にそいつ等が先にここに入ったんだ?」 「先にって……だって、引越し屋さんだもん。当然でしょ?」 「うん、当然だよね。……で?」 「で? って?」 「そいつ等、そんなに頼りになったんだ?」 「あ、まぁ…そりゃ……サクサク家具運んでくれて、さすがプロだなーっ て感心したりして」 ジローと滝は跡部達と違って笑顔だけど……なんでそんなに怖い笑顔なん でしょーか。 私、何かしたか?! 「引越しのお兄さん…ですか?」 「当然、警戒して叱るべきでしたね」 「ウス」 いつもは(それなりに)可愛い後輩たちもなんかオーラがどす黒いし! 怖いよキミタチ! 「これだから1人暮らしさせるのは反対だったんだよ、俺!」 「そんなん今更言うてもしゃーないやん、岳人」 「でもさ! コイツお人よしだし抜けてるとこあるし、変なヤツに付けこ まれでもしたらどーすんだよ!」 「俺も心配で眠れないC」 「いやいやいやいや」 あのね、貴方たちは一体私のことを何だと。 っていうか、引越し屋さんに家具を運んでもらったぐらいのことでなんで こんなに物議を醸してるのか誰か説明して欲しいんですが。 「ッチ、仕方ねーな。…おい」 小さな舌打ちとともに腕を引っ張るなんて偉そうな真似をするのは当然跡 部で。 「この部屋の合鍵寄越せ」 ……………はい?! 「あ、勿論俺たち全員にだからね」 「それから当然、この部屋に男上げんじゃねーぞ」 「仕事以外での朝帰りも禁止ですから」 「俺も電話するから、ちゃんと出てねー?」 「もしも言いつけ破ってこの部屋から男出てくんの見てもーたら、えらい ことになるやろうなぁ?」 「ハンッ、その野郎の将来はその瞬間に消してやるぜ」 な、ななななななななななっ。 「なんなのよっ、それーーーっ?!」 人権侵害反対! プライバシーの侵害断固反対! 「なんであんたたちにそんなこと言われなくちゃならないのよ?!」 冗談じゃないっつーの! アタシはもういい大人だー!! 「ハッ、「なんで」なんてそんなの決まってるだろうが」 跡部は高らかに宣った。 「どこの馬の骨とも知れない奴にお前を渡してたまるかよ」 「…ウス」 ==================== 引越し (どうやら私にはお父さんが一杯居たようです) |
7.跡部景吾 それは、時が止まったのかと思う程の衝撃だった。 夜の闇に溶け込む髪の漆黒、月の光に映える肌の青白さ。そうして何より、抗うことを許さず自分を誘う唇の紅さと裏腹に、何も映さない鏡のような 瞳が。 美しさが力だと言うのなら、自分は確かに捕らわれてしまった。 ただこの一瞬で。 「君は、誰?」 抑揚の乏しい声が問う。 「…俺を、知らねぇのか?」 氷帝の制服を着ているくせに? ありえないだろう。 そんな意味を篭めて問い返せば、そいつは初めて瞳に感情の彩を載せてく すりと笑った。 「知らなくはない。生徒会長とテニス部部長を務める跡部景吾君。君は女 の子達の夢によく出てくるからね」 「アン? 夢?」 「そう、夢」 それが私の糧だからね。 平坦なのに、どうしてか歌っているように聞こえる。 その声を聴いていると、くらくらと眩暈さえ覚えて。 「君はどんな夢がお望み? テニスで頂点に立つ? それとも世界中の人 を足元にひれ伏させる? どんな夢でも君の望むままに差し出してあげる」 「はっ。俺の望みはそんなもんじゃねぇよ」 「…そっか」 つ、とそいつは音もなく俺のすぐ目の前まで近づいてきた。 じぃっと目を覗き込まれると、その漆黒の中に吸い込まれそうな気がして くる。 眩暈がひどくなった。 「じゃあ、どんなこと?」 「……それは……」 「教えて。跡部景吾君の望みを。君の夢を。君の全てを」 「それは…俺、は……」 その時何と答えたのか。 眩いばかりの光の中で目を覚ました俺は覚えていなかった。 ただの、夢。 そう笑い飛ばしたはず。 なのに。 闇に溶け込む漆黒はただの重たげな黒に、月に映える肌の白さは血色の悪 さを思わせる青白さに、日の光の中では可もなく不可もないただの冴えな い女でしかない、けれど。 「お前……っ」 「おはよう、跡部景吾君。良い夢は見れた?」 誘う唇の紅はそのままに、昼の光にも艶を失わない瞳に笑みを煌かせた。 『夢魔−succubus−』Case:K.Atobe |
8.仁王雅治 みゃおう。 その声が自分を呼んでいるような気がしたので振り向いた。 いつもは気にも留めずに通り過ぎているというのに、これは一体どうした 気紛れだろう。 「……呼んだのは、お前さん、かの?」 内心の自嘲をおくびにも出さずに表面はあくまでも飄々と。 ポーカーフェイスを保つのに今更努力も必要ない。 口元にはうっすら人好きのする笑みすら浮かべて、確信してるのに敢えて 問いかけるのはその声で答えさせたいから。 みゃおん。 仔猫というには低く、成猫にしては澄んだ声で、彼女は応える。 暗い路地から街灯の古ぼけた明かりの中へ、そのしなやかな姿をゆっくり と現した。大きな瞳は真っ直ぐに彼の瞳を見返している。 どこか得意げだと思うのは独りよがりな解釈だろうか。 「これはまた、魅力的な猫ちゃんじゃの」 みゃあ。 これは、「当然よ」の意味だろう。 それとも「お世辞が上手いのね」? 誘うように艶やかな毛並みが揺れた。 「…もう、誰かに飼われちょるんか?」 にゃあ。 否定。 「そうじゃろうな。お前さんはそこらの奴の手に負えるとは思えん」 にゃあ。 今度は肯定。 「俺なら……どうじゃ?」 返事はない。 「ウチに来るか?」 差し出したその手を、彼女は長い間じっと見つめていた。 「ウチのコになりんしゃい。大事に大事にしてやるぜよ」 仁王はさらに言い募る。 彼女は瞳を仁王の手の平から彼の目に戻す。 そうして、微笑った。 「後悔しても知らないよ。猫は嫉妬深いから」 手の平を重ねると、すぐさま強い力で引き寄せられた。 「上等じゃ」 やっと捕まえた。 もう逃がさんよ。 古ぼけた灯りの下で、銀色の尻尾が揺れた。 『人猫−werecat−』Case:M.Nio |
9.跡部景吾 「どうしてお前がここにいる」 ……およそ、1ヶ月ぶりに会えた恋人に言う言葉じゃないと思う。 気がつけばもう結構な年数を勤めている会社のオフィス。 昨日までに終わらなかった書類の仕上げを、とパソコンのキーを連打して いた私の耳にも普段より圧倒的に少ない他の社員達が出張帰りの副社長を 迎える声が遠くから届いたから、立ち上がって頭を下げた。 ――私がしたのはそれだけだ。 なのに、冒頭の台詞である。 しかも心臓を刺し貫きそうに不機嫌で鋭い氷の睨みつき。 このフロアに他の休出仲間がいないのがせめてもの救いか。同情と好奇心 に満ちた視線にチクチク刺されるなんていたたまれなさ過ぎる。 「答えろ。お前は今日休みのはずだろうが」 「月曜に提出する予定の報告書の仕上げをしておりました」 「報告書…?」 これです、とチェック用の出力紙を見せる。「○×社のヤツか…」と呟い たところを見ると、忘れていなかったらしい。 当然だ。 なにしろ金曜にプレゼンを終えたばかりのこの件に関して月曜に報告書を 提出しろと私の上司に命じたのは誰あろう、この俺様何様跡部景吾様なの だから。普通は提出まで中一日くらい貰えるものなのに。 「俺はお前のトコの課長に出せと言ったはずだがな」 「だから詳しく事情を知っている担当の私が作成して、上長承認を頂いて 提出することになっております」 ようするに、あのボンクラは私に仕事を押し付けやがったのだ。 景吾もそれが判ったのだろう、「楽しやがって」と舌打ちしている。 「これはまだ時間が掛かるのか?」 「いえ、あとはタイプミスをチェックして終わりです」 「だろうな。なら、終わったらとっとと家に帰れよ」 「え…」 本当は、帰りにお気に入りの喫茶店でのんびりお茶して、その後映画でも 観に行こうかなぁ、と計画していたのだけれど。 「文句があるのか?」 「……いえ」 こんな目で睨まれちゃ、大人しく頷くしかない。 しかもあの目は絶対に「嘘付くんじゃねぇぞ。後で電話して確かめてやる からな」と脅してる。……まったく、目線一つで景吾の意を汲み取る技術 を短くはない付き合いの中から獲得した私だが、こういうときは考え物だ と思う。しみじみと。 しょうがない。 ここは言われたとおり、家で大人しく不貞寝でもしよう。 短い時間だけど景吾の顔も見れたし会話も出来た。……まぁ、交わした内 容はアレだったにしても。そんなことでいちいち凹んでちゃ彼の恋人なん て早々やってられない。 ……それにしても、何て空しい誕生日なんだか。 内心でこっそりと溜息をついた私だったが、それが顔に出ていたのかそれ とも彼の人間離れした眼力が見抜いたのか。 つい、と顎を指で救われた。 「け、景吾?」 「どうせ、プレゼンの準備で今週は殆ど寝てねぇんだろうが。ゆっくり休 んどけ。今の内に、な」 「そ、の通りだけどっ、ちょっ、顔近い! ここ、会社だって!」 「お前だって名前で呼んだじゃねぇか、今」 そういえば、と言葉に詰まった私の隙を突いて、ちゅっと景吾の薄い唇が 私のそれに重なった。 信じらんない、会社なのに!! 怒鳴りたい衝動を必死で押しとどめている私に綺麗な顔をにやりと歪めて、 「どうせお前以外いねぇだろ」耳元で囁いた景吾は、完璧に悪役顔だった。 「ホントに、皆が休みで良かった…」 さっさと帰れよ、そう言い残して副社長室に入っていった彼の背を見送り ながら呟くと、どっと疲れが押し寄せてきた。 ああ、これじゃあ映画は無理だわ。 大好きな紅茶もケーキも楽しむ気になれそうもない。 これは言われた通りさっさと帰宅するしかない。 すっかりやる気をなくしてしまい、おざなリに仕上げた書類と、ついでに 月曜の有給休暇申請――これで、書類に不備があっても私がやり直させら れることはない。ボンクラ課長へのささやかな嫌がらせだ――も一緒にク リアファイルに挟んで課長の机の上に放り投げると、バッグを掴んでそこ を後にした。 ちなみに、景吾が思わせぶりに放った「今の内に」と言う言葉の意味を私 が悟るのは夜になってから。 いきなり訊ねてきた景吾は爆睡をかましていた私の寝起きを襲い、そのま ま明け方までさんざん破廉恥な運動をさせられて尚更疲れてしまった。 そんな私が景吾から突然の訪問の目的(の、一つ)を渡されたのは日付が変 わる直前だった。 感激して抱きついた私にこれ幸いと景吾の不埒な手があちこちに伸びてき て…………とりあえず、月曜の有給申請を出した私の慧眼に本気で感謝し た。 =============== 休日出勤 |
10.榊太郎 「私の連れに何をしている?」 「え…」 いや、確かに。 ナンパ男が予想以上にしつこくて強引で苛つきつつちょっと怖かったりもしてたけど。 無理矢理引っ張られて揺れたせいで頭痛が酷くなって、眩暈も酷くなってこれはさすがにヤバイかなって冷や汗かいてたけど。 「随分待たせてしまったな。すまない」 「え、えぇ……」 丁寧に優しく引き寄せられた腕は、だけど逆らうことを許さない力強さで私の腰に回される。 そうしてチラリとナンパ男へと視線を向ければ、すっかり迫力負けしてしまったらしく彼はすごすごと立ち去っていった。 助かった、と正直な感想が口をついて出る。 それが面白かったのか、と息だけで笑う気配を感じたと思ったら、大きな手が私の顎を捉えて上を向かせた。 間近に迫る端正な顔立ちにほんの一瞬、息を呑んだ。 それが一瞬で済んだのは、さっきから私の足を止めている酷い頭痛と眩暈のお陰……かもしれない。少しでも気を抜けば又座り込んでしまいそうな根性ナシの足を叱咤するのに気を取られていたら、腰に回された腕に力が篭もった。 「あ、あの…」 「酷い顔色をしている。無理をせずに私に寄り掛かって。少しは楽な筈です」 「でも……見ず知らずの貴方にそこまでしていただくわけにはいきません」 そう口にした途端、彼の眉間にすっと一本皺が寄ったのを、「ああ、人間くさい表情もするんだな、この人」なんて的外れなことを暢気に考えていた私は、やはり常態ではなかったのだろう。 辞退したというのに、何故か言いくるめられ押し切られた挙句に「送っていく」と乗せられたのは見るからに高級そうな車(車種なんて、全然知らない)で、シートの感触は程よく、走り出しも滑らかでエンジン音も煩くない。 要するに乗り心地は最高で、おまけに運転も丁寧なものだから頭痛に響くこともなく、むしろ最適な状況にほぅ、と安堵の溜息まで出てきてしまう。 と、それを聞きつけたのか彼の口元がほんの少し、くっと上がった。 「少しは、良くなったようですね」 「はぁ……あの…」 「ん?」 「ありがとうございます」 とりあえず、ここはお礼を言っておくべきだろうと軽く頭を下げる。 と、それは予想外だったのか軽く目を見開いて一瞬だけこちらに視線を向けた後、くつくつと声を殺してのどの奥で笑われてしまった。 ……なんでよ? 何か的外れなことを言っただろうかと首を捻るが、何も思い当たらない。 と、 「いや、すまない。…しかし、君は少々無防備が過ぎるようだな」 「は?」 「『見ず知らずの』男の車に押し込められているというのに、気を緩めている」 「…あぁ」 そういうことか、と納得したけど、ちょっとだけその言い方にムカついた。 だって、結構傲慢だと思うの、この物言い。 それにさっきの私の言葉への仕返しするなんて、結構大人気ないな、この人。 見た目はすごく渋くてカッコイイのに。 ……ちょっとだけ、インテリヤ○ザっぽいけどさ。 そこは、まぁ…見ない方向で。 「確かに見ず知らずですけど、貴方はおかしなことはしないと思います」 「…ほぅ、何故?」 実はかなり負けん気の強い私。 余裕たっぷりの笑みを崩してやりたくなって、わざとにっこりと無邪気そうに微笑んでみせた。 「初対面の私に手を出すほど、貴方が女に不自由するとは思えませんから」 だってこんなに素敵なんだもの。 言ってやると、本日二度目のキョトン、とした表情。それから、くつくつという笑い。 「…成程。だが、それは君も同じ様だ」 「へ?」 首を傾げた私に、彼は指先で後部座席を示す。 そこには私の今日の戦果である紙袋が数個放り込んであるだけ。 「年末のこの時期に体調が悪いのを押して買いに来るほどだ。さしずめ、恋人と一緒に出席するカウントダウン・パーティの為のドレスかな?」 「は?」 「……違ったか?」 「いや、違うも何も……そもそもあれはドレスなんかじゃなくって、単に歳末バーゲンで買い込んだ仕事用のスーツとかですが」 「スーツ?」 「ええ。営業なので数が必要なんですよね。それに私、残念ながら彼氏なんていませんが」 仮にいたとしたって、ドレスが必要なパーティに連れてってくれるような甲斐性なんて望めないだろう。 胸の前で小さく手を振って否定すると、彼は「ふむ…」と軽く唸ったまま。 「あの……?」 「榊、だ」 「え?」 「榊太郎という」 短いとは言えない時間続いた沈黙に耐え切れなくなった私の言葉を遮って告げられたのは、彼の名前。 それとほぼ同時に止まった車。 窓からは私の住むマンションの見慣れた外観が見えていた。 「では明日、私が君をエスコートしても良いだろうか」 紳士的にドアを開けてくれた彼が発したのはそんな誘い文句だった。 突然のことに呆気にとられた私の手を取り、ゆっくりと立たせてくれる。 「知り合いの家でパーティがあるのだが……嫌かな?」 「い、嫌っていうか、あの」 「うん?」 「そんなところに着て行けるドレスなんて、私……」 「ああ、それなら」 さっきの発言からすれば、絶対皆で食べ物持ち寄ってのアットホームなパー ティとかじゃなくて、ハイソサエティな本格的なそういうのに決まってる。 いきなりそんなところに連れて行かれても、ドレスなんてないし、マナーだって、いや、そこは勤め人だから最低限取り繕えるにしてもっ。 驚きと焦りと頭痛でぐるぐる状態の私に、榊さんは 「私から贈らせて貰おう。ドレスも靴もバッグも、全てを私の色に塗り替えるのも一興というものだ」 やっぱり余裕たっぷり、魅力たっぷりの微笑で私の右手にキスを。 ====================== 頭痛 ……まさか、拍手御礼とはいえ太郎を書くとは思わなかったよ、私。(笑) 途中まで、マジックパパとどっちにしようか真剣に悩みました。 |