あ〜あ、可哀相にね。
同じ男として同情してやるよ、オチビ。
だけど相手が悪すぎるから仕方ないにゃあ。
BOUDOIR
先にそれを発見したのは俺だった。
俺たちのクラスから二つ隣のクラスのちゃんとは、中学んときか
らの友達で、最近はちょくちょく一緒に昼飯を食べる程の仲だったりするから、
今日も弁当持参で彼女たちの教室にやってきたわけなんだけど。
「ありゃ、オチビ?」
ちゃんの身体に半分隠れてるけど、あの退屈そうな顔は間違いなく。
「うん、越前だね」
「なんでアイツ等と一緒にいるんだ?」
「さぁ?」
そんな会話を不二と交わしながらも、足はさっさか動いていて。
あっという間に三人の前に到着した。
「あ、来た来た」
こっちに顔を向けていたが気付いて嬉しそうに手を振った。
が、こっちが手を振り返す間もなく、いそいそと鞄から弁当を出して広げ始め
る。……いつものことだけど、嬉しいのはそっちかよ。
「英二、拗ねない拗ねない」
「拗ねてなんかねーよ、呆れてんの」
遅れてちゃんがこっちを振り向く。
いつもだったら軽く手を挙げて「こっちこっち」って手招きしてくれるのに、
今日はそれがない。代わりに彼女が手にしてるのは男物の学ランと、針と糸。
「ボタンつけ?」
「うん」
「アンタんトコのクソ生意気な1年がわざわざ付けてくれって持ち込んできた
んですけどー?」
あんまり上手くないんだけど、とはにかむちゃんとは対照的に、ぶすっ
たれた表情のは、「テニス部ってどういう下級生教育してんのよ?」と
不二に詰め寄る。
「うーん、ごめんね?」
「疑問系で謝るな」
他の女子なら「キャーッ」って黄色い声上げて騒ぎそうな、首をちょこんと傾
げて謝る不二をズビシっと斬って捨てる。
……ホンット、怖いもの知らずだよなーって。知ってたけど。
「大体、アンタんトコの後輩がにこんな風に持ち込んでくるの、何回目
だと思ってんのよ」
「えっ? オチビ、そんにゃにちゃんと仲良かったの?!」
「……別に」
「中学のときから、同じ図書委員だったから……たまに顔合わせると挨拶する
くらい?」
そっけないオチビの代わりに、丁寧に説明してくれるちゃん。
「それなのに、わざわざボタン外れたの持って来んの? クラスの女子に頼め
ばいいじゃん?」
「クラスのヤツに頼むと、後が面倒だし」
「あー、まぁねぇ」
それは分からなくもない。
自分で言うのもなんだけど、テニス部レギュラー陣は何だかんだ言って結構女
子には人気あるし。特定の誰かにボタン付けとかちょっとしたこと頼もうもん
なら、後で何言われるかわかんないってのは、俺達もコイツも同じってことか。
け、ど。
わざわざそんだけの理由で遥々3年の教室まで来ないよなぁ?
同じ1年には女テニの桜乃ちゃんとかいるんだし、そっちに頼んだ方が楽だし
普通はそうする。
それをわざわざ……ってことは。
ニンマリと笑んだ俺の視線を受けて、オチビは不機嫌そうにそっぽ向いた。
が、その頬はしっかり赤い。
「好敵手出現?」
「どうかな」
肘をつついて囁いても、不二は動じることもなしに持参した弁当を広げ始めた。
俺も慌ててそれに倣う。
……けど。
「不二ー?」
「何?」
「食べにゃいの?」
弁当を広げたくせに、箸を取り上げる素振りも見せない不二に首を傾げると、
「ああ、うんまぁね」なんて曖昧な答え。その視線の先を辿ると、行き当たる
のはちゃんで。
彼女がボタンを付け終わるのを待ってるんだってすぐに分かった。
「よし、出来たっ」
数分も待たないうちに終わったそれを満足げに眺めるちゃんにちょっと
笑ってしまった。
だってさ、あんまりにも達成感で一杯の顔してるから。
その顔だけ見てたら、ボタン一個付け直したんじゃなくて学ラン一着仕立て上
げたのかって勘違いしそうだよ。
「……ども」
「こら、オチビ。わざわざ付けてもらったのにその言い方はないでしょ。ちゃ
んとありがとうございますって言いな!」
「アンタに付けてもらったんじゃないし」
「そーいうことを言ってるんじゃないでしょ!」
「ちゃん、いいよ別に。大したことじゃないし」
「は黙ってなさい! あんたは甘すぎんの!」
「……お節介焼き」
「なんだと?!」
「 越前」
パン、と不二が指先で机を叩いた。
それはそんなに大きい音じゃないはずなのに、妙に教室に響いた気がした。
ガチっとオチビの身体が固まる。
「僕の言いたいことは分かるね?」
「…っス」
「じゃあどうぞ」
「…アリガトウゴザイマス」
「心が篭ってないようだけど……」
その言葉にびくっとオチビの肩が跳ねた。
「ふ、不二くん、ほんとに良いよ」
「そう?」
「うん、ありがとう。リョーマくんも、遠慮せずにまたいつでも言ってね?」
「っス」
「じゃ、食べよっか」
ちゃんはちっちゃい弁当箱を出してにっこりと笑んだ。
不二に。
「ん。そうだね、頂きます」
「いただきます」
二人して手を合わせて。
ああ、そうか。
ちゃんは不二が待ってたことちゃんと分かってたんだなーって納得して
動きの止まってたフォークを持ち直して……
また止まった。
本日の不二の弁当の中身:
ふりかけお結び4個
ほうれん草のキッシュ(アルミカップで焼いたやつ)1個
焼きソーセージ3個
温野菜のチーズ焼き
プチトマト3個
おろしわさび
本日のちゃんのお弁当:
ふりかけお結び2個
ほうれん草のキッシュ(アルミカップで焼いたやつ)1個
ソーセージと温野菜のチーズ焼き
プチトマト2個
……わさび以外ほとんど一緒のメニュー、だ。
ってゆーか、こんな洋風メニューにもわさびが別で添えられてる辺り…さすが
は不二だにゃ〜。
「な、なななななな、何でっ?!」
真っ先に過剰に反応したのはで、俺も驚いたけどそのせいでちょっとだ
け冷静になれたのか、そうっとオチビの反応を見てみると……やっぱり、見事
に固まってる。
「あ、ああああんたたち、いつの間に?! っていうか不二!! アンタよく
も私の大事なに手ぇ出したわね!!」
この魔王め!!
不二に向かって堂々真正面からそう叫べるは正真正銘、青学の勇者だ。
このとき、教室にいた全員がそう思ったに違いない。
「うわぁぁん、アタシのが魔王なんかに汚された〜!」
魔王「なんか」。
「なんか」ときましたか。
「あはははは。ひどいなぁ」
「ご、ごめんね不二くん。…ほら、ちゃんも誤解だから。全然そういう
のじゃないんだって」
「え?」
「へ?」
「あのね…」
ちゃんの説明によると、昨日、たまたま帰りに不二を車で迎えに来た由
美子さんと鉢合わせて、何故か話の流れで彼女に料理を教わることになったら
しく、その第一回目の内容が今日の弁当作りだったそうな。
「だから、私が作ったのはお弁当のおかずだけで、不二くんのお握りは由美子
さんが作ったの」
「なんだ…そうなの」
「うん」
「でも、さんが作ってくれたおかず、本当に美味しいよ」
「え? そ、そうかな?」
「うん、このキッシュなんか特にね。また作って欲しいくらい」
「由美子さんの教え方が上手なんだと思うんだけど…」
「でも、姉さんの作ったのよりさんの味付けの方が好きだな、僕」
「あ……そんなに、気に入ってくれたなら…」
「本当? 嬉しいな。じゃあ、約束」
「うん、約束」
………あー、うん。
これは、アレだよね。
『二人のために世界はあるの』ってヤツ?
「あぁぁあぁ、ってばあんなに顔赤くしちゃって……不二の奴ぅ、呪っ
てやるぅ」
はいソコ、物騒だからそういうことはもっと小声で言えー?
じゃないととばっちり食うのはこっちなんだぞー。
で、オチビは……と。
あぁあぁ、こっちもすっかり顔色失くしちゃってるよ。
あ〜あ、可哀相にね。
同じ男として同情してやるよ、オチビ。
だけど相手が悪すぎるから仕方ないにゃあ。
なんたって、敵は魔王・不二 周助なんだからさ。
放課後、勇者になり損ねたオチビは魔王・不二とやけに気合の入ったラリーを
展開していた。
そして負けていた。
ご愁傷様。
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BOUDOIR=「女性のプライベ−トル−ム」転じて、秘密の空間