「ねぇ、キミ」


少し低めの、それでいて柔らかな声に振り向くと、その人は俺の後ろ、数メートル離
れた場所で木漏れ日の中に立っていた。








BEL AMI









第一印象は、綺麗な人。
とても、とても。
思わず見蕩れてしまうくらい。

男なのに、こんなに綺麗な人がいるのかと。

顔の綺麗な人なら、跡部部長とか忍足先輩とか滝先輩とかで見慣れてると思ったのに、
あの人たちとはまた違う。

何と言うのか、雰囲気自体が綺麗な、深い森の奥の澄んだ湖のような、そんな印象を
受けた。


「キミ、テニス部の人でしょう?」


ぼうっとした俺を訝しんだのか、首を傾げて、確認するようにもう一度問われた。


「あ、はい。そうです」


一瞬、どうして分かったのかと思ったけど、自分の恰好を思い出して納得した。
部の名前入りのジャージを着ているんだから、一目瞭然だった。


「跡部景吾、知ってる?」
「はい勿論。部長ですから」
「そっか。部長やってるんだっけ」


その人は一人で納得してクスクス笑った。
そんな仕草さえ、穏やかで静か。


「じゃあ、今はコート? 案内してもらえる?」
「はい」


一瞬、部外者を連れて行くのはまずいだろうか、とか、何処かの学校の偵察だったり
したら俺は間違いなく先輩達にどやされるだろうなとか、躊躇したけれど。

その人は穏やかで優しい雰囲気なのに、有無を言わせない何かがあって逆らえない。

でもそれはちっとも嫌な感じがしなかったから、俺は素直に彼を案内する事にした。


「悪いね、休憩中だったんでしょう?」
「いえ、すぐに戻るつもりでしたから」


ふるふると首を振って否定する。
どうせ顔を洗いに行ってただけだったし。


「お伺いしてもいいですか?」
「答えられることなら」
「あの……どこの学校の方ですか?」


さっきからずっと気になっていたんだ。
薄手の、でも高価そうな少し変わったデザインのコートはともかく、その下にチラチ
ラ見える服はどう見ても私服っぽい。
でもこの辺に私服の学校ってあったかな…?

同じ学校だったらこれだけの人、有名にならないはずがないから、氷帝じゃないこと
だけはすぐに分かったけど。


「今日は用があって学校は早退したんだ」


そんなにじろじろ見てたつもりはないんだけど、その人は俺の質問だけで疑問の元を
察したのだろう。
軽く首を傾げて俺を見る。
見上げる、までいかないことに今更ながら気付いた。

そりゃ、俺の方が高いんだけど。
でもそんなに差がない。


「……180くらいあります?」
「何が? ああ、身長? そうだね、それくらい」
「背、高いですね」
「キミのほうが高いくせに何言ってるの」


笑われてしまった。
そんなに変なこと言ったかな?
確かに俺の方が高いけど、一般的な話をしたつもりなのに。


「面白いね、キミ」


にっこりと微笑んだ。
……まさか自分が男相手に顔を赤らめる事になるとは思わなかったな……


「ルドルフ」
「え?」


恥ずかしさと悔しさとその他色々複雑な思いに戸惑っている時に唐突に言われたから、
一瞬何のことか判らなかった。

俺が聞いてなかったと思ったのだろう、その人はもう一度、今度はゆっくりはっきり
発音した。


「聖ルドルフ学院」


それは俺の質問の答えだった。





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