だからね、

ただ黙って待つのは苦手なのです。










j’adore













ご馳走なんて用意したところでかの人が食べ慣れているものに叶うはずもない。だからここは
ノーマルに、伝統に則ってお重は3段、味付けを薄く食べやすくしている以外は奇を衒わない
おせち料理を詰め込んで、お雑煮も準備完了。

お屠蘇と称して用意した日本酒は、お餅と同じ米どころ新潟産。
でも有名な『越の寒梅』は彼曰く、「大したことない」らしいので、敢えて別の銘柄を用意し
てみた。(だけどお互い未成年だから、気持ちだけ)

玄関に注連飾り、テレビの上には鏡餅が子振りながらも鎮座ましましていて、お正月ムードは
文句なし。
1週間掛けてお掃除した甲斐があると言うものだ。

おっといけない、忘れちゃいけない最後の仕上げ。



Pi!
電子音を小さく鳴らして携帯の電源をOFFにする。
家の電話も留守番電話をセットしてあるから、これで彼は私に連絡が取れなくなった。


これで良し。

どうやっても私に連絡がつかないと解った彼は、一体どんな表情をするのだろう。
焦るだろうか?
それとも怒るだろうか?

きっとその両方だろう。
想像して私はにんまりと笑う。
このくらいの意趣返しは可愛いものだ。
大晦日から正月三箇日、『お家の用事』とかで彼の身は空かず、それでも僅かに取れた自由時
間はテニス部の面々と初詣へと繰り出されて、その間私はずっと放ったらかし。そのくせ、久
しぶりにお正月は実家に帰ると言った途端に不機嫌な表情をされて睨まれた。

……もっとも、そんなものものともせずに昨日まで実家で懐かしい友人達に囲まれていたのだ
けれど。
幼馴染が所属する部活の先輩が、相変わらず格好良くってうっとり鑑賞させてもらっていたな
んて、彼には絶対に秘密だ。


もう一度、抜かりがないかをざっとチェックして、昨夜までの睡眠不足を補う為に私は寝室へ
と足を向けた。













「おい」


ふ…と。
いい匂いがして目が覚めた。
コーヒーの、いい匂い。美味しそうな。


「ん……私も飲む」
「ほらよ」


ぼけた頭で要求すると、当然のごとく両腕が引っ張り上げられ、ベッドの上に座る体勢にさせ
られた。それから目の前に愛用の大きなマグカップが差し出される。
ミルクたっぷりのカフェ・オ・レは私の好きなチョコスティックが添えられていた。
程よく冷めたそれは猫舌の私にはとても飲み易く、喉が渇いていたこともあってごくごくと、
喉を鳴らす勢いで飲み干す。


「目が覚めたか」
「ん……」


チョコスティックを齧っていると、仏頂面した彼の顔が目の前に迫ってきた。


「なに?」


相変わらず綺麗な顔だなぁ……。

うん。
例の先輩も格好良かったけど、やっぱり私はこっちの方が好きかも。


「なんで携帯切ってたんだよ」
「眠かったから」


メールとか来たら気になって眠れないでしょう。
白々しいなと我ながら思いつつもさらりと言い切れば、跡部はそれが嘘だと断言できなくなる
筈で。


「連絡つかねぇから何かあったんじゃないかと思っただろう」


案の定、それ以上突っ込んでこない。
それでもその口調と、僅かに乱れた前髪から、相当焦ってここに駆けつけてくれたのだろうな
と予想がついて、気付かれないように胸の内で微笑った。

「ごめんごめん」と口先だけで謝って、カーディガンを羽織った。
とりあえず、着替えなくては。
いつまでもベッドの上にいたら何をされるかわからない……というか、されることが目に見え
ているのだけど、真昼間からそれは御免だ。

空になったマグを渡すと、心得たように跡部は何も言わずにキッチンへ向かう。
すぐに水音が聞こえてきたのは、彼がマグを洗ってくれているから。


「跡部」
「何だ」


着替えながらちょっと声を張り上げると、すぐに返事が返ってきた。
その声にはもう不機嫌さの欠片も見当たらない。


「お茶淹れて。緑茶じゃなくって、五福茶。テーブルの上に出してるから」
「日本茶ならお前が淹れた方が美味いだろうが」
「跡部が淹れたお茶が飲みたいの!」
「……わかった」


あ、今舌打ちしたわね?
ちゃんと聞こえたわよ。

そろそろ、私が携帯の電源を切っていた本当の理由に気が付いた頃だろうか?
私の我侭を文句も言わずに聞き入れてくれたのがその証拠かな。

寝乱れた髪をさっとブラシで整えて、私もキッチンへ向かう。


「跡部」


広い背中に腕を回して抱きつくと、跡部愛用のコロンが微かに香った。
久し振りに嗅ぐ、慣れた匂いが心地いい。


「なに甘えてやがるんだ?」


そのまま背中の感触を楽しんでいたかったのだけれど、ふっと鼻先で笑われる気配がして、前
に回した腕を解かれた。





そのまま跡部は向きを変えて、正面から抱き締め直される。
ぎゅっと私の背中を抱く腕が、何だかやけに嬉しい。


「それはこっちの台詞。甘えてるのはどっち?」
「抱きついてきたのはの方だろうが」
「抱き締め直したのは誰でしょう? 顔が見えないと嫌だったの?」
「放っておかれて拗ねて不貞寝してたのは誰だよ?」


お互いに可愛げのない応酬を続けながらも、いつしかそれがクスクス笑いに変わっていって。


「何で笑ってんだよ?」
「跡部こそ」
「笑ってんのはこの口か?」
「そうよ」


ゆっくりと重ねられるお互いの唇の感触に、乾いた心が潤っていく。


「跡部…」
「ん?」


見下ろしてくる彼のこんなに優しい表情を知ってるのは私だけ。
あの自他共に認める俺様の跡部が、実はこんなに優しいなんて中学からの付き合いの忍足や宍
戸ですら知らないだろう。少し以前に、跡部が寝起きの悪い私の為に必ずカフェ・オ・レを淹
れてくれるのだとテニス部の面々に教えたら、「嘘だ!!」と0.1秒で否定された位だから。


「明けまして、おめでとう」
「明けましておめでとう。今年も宜しくな」
「こちらこそ」




跡部がいないと始まらない私のお正月は、毎年4日から始まる。






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05年初の夢小説にして初跡部夢!
念願の跡部夢が書けて本望です。(出来は……にしても)
高校か大学設定です。

皆様、明けましておめでとうございます。