「跡部、佐伯は来ていないのか?」
「そう言えば六角の皆さんの顔が見当たりませんね」
「アイツらは欠席だ。今日は六角の連中だけで佐伯の婚約パーティだそうだ」
直接電話をかけてきたやけに爽やかな声を思い出す。
浮かれてるのを隠し切れてねぇのが笑えたな。
「婚約……そうか、良かった」
「手塚君? 何かあったのですか?」
「そういや、お前が他人のごたごたに口出すなんざ珍しいじゃねぇか、手塚」
「いや、何かというか……その、不二が」
「不二君、ですか?」
「そういや、仲が良かったんだったな」
少しばかり青い顔をして奴の名前を出した手塚に納得する。
……つーか、不二がらみだったのかよ。それを先に言えよ。佐伯の話が拗れてたらとばっちりがこっちに来るじゃねーか。
いや……アイツのことだ、それはそれで高みの見物決め込んでそうだが……な。
「そうそう、手塚君、ご婚約おめでとうございます」
「あぁ、ありがとう。…その件では跡部に世話になったな」
「跡部が?」
「感謝しろよ、手塚。お前のためにアイツの見合いを何度邪魔したと思う?」
「見合い……やはりそういう話はあったのか」
「そりゃな」
幾ら本人達は一般人だと言い張ってても、『跡部』と縁続きというだけで付加価値は勝手についてくる。望みもしねぇのに二人の気持ちを知ることになった俺としては、出来るだけ手を貸してやるつもりではあったが…
「一体、何を今までぐずぐずしてやがったんだ? お陰で俺の苦労が倍増しだ」
「その点には感謝している。今までプロポーズを待ったのは、彼女がお前の従妹だからだ」
「アーン?」
「彼女自身は一般の中流家庭で育ったとしても、跡部の跡継ぎの従妹だ。胸を張れる成績も残さないうちに貰い受けたのでは、周囲が納得しなかっただろう」
「……それが、お前なりのけじめってわけか」
「そうだ」
そこまで考えてたなら、これ以上は言えねぇな。
仕方ねぇ。
「俺の従妹を泣かせんなよ」
「無論、そのつもりだ」
重々しく手塚が頷いたところで、見知った顔が奴の後ろからヒラヒラと手を振ってやがった。
「なんだ、忍足」
「なんだやないで跡部。あ、久し振りやんなぁ手塚」
「ああ、久し振りだな忍足」
「トーナメント優勝おめでとうさん。って、それはええとして跡部、お前の姫さんがテラスで厳ついオッサンに絡まれとんで。はよ行ったり」
「アン?」
厳ついオッサンだと?
見渡してみれば、確かにの姿は見当たらない。
「ッチ、仕方ねぇな」
「すぐ行って差し上げてください、跡部君」
「油断するな」
「悪ぃな」
人込みを掻き分けて忍足が言ったテラスへと辿り着けば、何故か腹を抱えて爆笑すると顔を真っ赤にさせて怒鳴る……父の従兄弟の嫁の……とにかく遠く縁が続いてるらしい壮年の男。
「随分と話が弾んでいるようですね」
とりあえずいつもの外面を装ってそう声をかけてみれば、ぎくりとカラダを震わせた男に話の内容を推し量ることが出来た。
ッチ、俗物め。
「俺の恋人とどんな話をされていたのか、伺っても?」
「い、いや景吾君、その」
「私が貴方と別れたら、小父様は私の年収の倍額を下さるそうよ」
「き、君!」
「アーン?」
年収の倍額だと? ハン。
「随分と景気のいいお話ですが、失礼ながら貴方にそれほどの資産があるとは存じませんでしたよ、叔父上」
「な、なんだと? バカにするな、私だってそれ位…」
「その様子では、彼女の職業も何もご存じないようだ。彼女の昨年の収入をご存知なら、買収など一言も口に出せなかったでしょうからね」
よりにもよって、に金の話とは、な。
ツメが甘いにも程があるぜ。
この様子じゃ、コイツが経営する会社も先はねぇな。親父に言っとくか。
「な、なら、25億というのは…」
「去年は新刊が2冊出ましてね。メインのシリーズの方はハリウッドが映画化してくれることが決定したので全巻重版がかかりましたし……世界中で」
勿論、映画化権を条件付で売ったその収入もある。
下手をすれば俺の個人名義の資産を超える財産持ちなんだから参るぜ。
呆然として立ち尽くすオッサンを残してフロアに戻ると、丁度いい具合の時間になっていた。
「おい、そろそろ行くぜ?」
「はい?」
「こんな茶番も流石に今夜で終るだろうよ」
つーか、俺が終らせてやるよ。
首をかしげているの腕を掴んでスタンドマイクの方へ引っ張っていく。
心得た司会からマイクを受け取り、楽団には暫く演奏を中止させた。
途端にしん、と静まった客達に向けて、俺は口を開いた。
さあ、よく聞いとけよ。
今夜、お前達が俺との婚約の証人になるんだからな。
fin.
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お誕生日おめでとうございました(…)、帝王跡部様。
まさか木手様の誕生日にUPする羽目になるとは……。
木手様のはまた後日・・・
2008.11.30 加筆修正