ろくに舗装もされてない狭い道をひた走る。
現金即払いで値切り倒した中古のファミリーワゴンの車内はガタガタ大地震だ。
「だぁ! もうちょっと丁寧に運転しろよ!」
「喧しい! 車出して貰ってる身分で文句言うな!」
あまりの揺れっぷりに耐え兼ねた野間君が怒鳴って来たから怒鳴り返してやった。
「野間!! さんに失礼な口きくな!!」
「花道君は相変わらず紳士ねっ」
バックミラー越しににっこり笑って。
これくらいじゃなきゃ、こいつらと10年以上も付き合ってられません。
It's not a dream
花道&桜木軍団で毎年恒例の『初日の出を拝もうツアー』に私が参加するように
なったのはいつからだったか。
少なくとも高校は卒業していたから大学に通っていた4年間のどれかだったのだろ
う。
何かの拍子に偶然街で洋平君と高宮君に再会(二人は新装開店のパチンコ屋さんの
前で開店待ちしていた。私は相変わらずだと笑った)して、ついでだからと野間
君と大楠君にも召集かけて、みんなで飲んでる内に年末近かったこともあって初
詣の話になって、私も一緒にどうだと誘われたのだった。
飲み会での話しだったし、その場の流れって感じだったから私も本気だと思って
なかったのに、大晦日の日、コタツにもぐりこんで紅白を眺めていたらこいつらが
押し掛けてきて。
……有無を言わせず拉致られた。
それ以来、大晦日の夜から元旦の私の予定は固定のものとなった。
「〜、まだ着かねーのかよ?」
「道に迷ったんじゃねーかぁ?」
揶揄いの声が耳に届いた途端、私の足はブレーキを思いっきり踏み込んでいた。
キィッ
「だっ!」
「ぃて!」
「うぉっ!」
「ぐっ」
急ブレーキの軋みと4人分のうめき声に満足を覚えて。
「! てめっ」
「はーい、とうちゃ〜く」
文句を言われる前にさっさとキーを外して外に飛び出た。
崖のように張り出したそこには背の低いガードレールが巡らされているだけで、僅
かに身を乗り出せば、眼下に広がる淡い金とオレンジと藍の入り混じった不可思議
な色の雲の海。
その切れ間から今まさに昇らんとする朱金の輝きが見え隠れしていて。
「おおっ」
「すっげー」
「…ほぉ」
「おー」
「へぇ、こりゃまた」
それぞれに意味のない声を漏らす彼らに笑いが零れる。
毎年来ているというのに、見飽きることのない景色。
『札付き』だったくせに、こんなに綺麗なものを大事に大事に隠していた彼らの繊
細さを改めて思い知る。
「なぁ〜に笑ってんだよ?」
「洋平君」
いつの間に隣に来たのか。
スッと、それを悟らせない動きは相変わらず。
「知ってるか? 思い出し笑いする奴はスケベなんだと」
「なによ、それ」
「花道が言ってた」
「失礼ね」
言葉ほどには気分を害さなかったその軽口に顰め面を作ろうとして失敗して、結局
笑ってしまった。
吐く息が断続的に白い靄を作る。
儚く消えては生まれるそれに目を向けていると、
「 なぁ」
どことなく遠慮がちなその声に振り向くと、彼は言葉を切ってどことなく決まり悪
げに髪を掻き雑ぜた。
洋平君のそんな煮え切らない態度はとても珍しい。
思わずじっと見ていると、突然、
「ああ、くそっ!」
叫んだ。
びくっと肩が跳ね上がった。
私は昔っからこういう脅かしに弱いのだ。
それを彼も知っているはずなのに…と恨めしく睨みつけると、洋平君もすぐに気が
付いたのか少し慌てたように謝った。
「怖がらせるつもりじゃなくて、その…何だ。つまり」
「つまり?」
「あー……な、。お前毎年この日は俺らと一緒だろ?」
「うん、そうね」
「その…、彼氏とか文句言ったり…」
「は?」
「いやだから、男ばっかの中で一晩過ごしてるわけだから、彼氏としちゃ面白くねぇ
だろ?」
幾ら理解あるっつってもさ。
言い募る彼に私はすっかり呆れた視線を返した。
「何を今更」
まぁ、確かに。
私にオトコがいるかどうか、なんて話はこの面子でしたことないけれど。
「そもそも、彼氏がいるんなら此処に来てないっつの」
それ位言わなくても察しろと、見上げる視線がキツくなる。
それとも、あれか。
遠まわしの嫌味か。
皮肉なのか。
だったらただではおかないとこっそり握り拳を固めた。
……の、だけど。
「そっか。いないのか」
いきなりすっきりと爽やかな笑顔を見せた彼に毒気が抜かれてしまった。
「いやー、そっか。そうか。ってことは今お前はフリーなんだよな?」
「……まぁ」
そりゃそうだ。
彼氏がいないって言ってるんだから。
これでフリーじゃなかったら何だ? 私には彼氏でなくて彼女がいるってことにな
るじゃないか。流石にそれはないぞ。
「ってことは、俺がお前に告っても何の問題もないよな?」
「は?!」
ナニ?!
今、何て言ったのこの人!!
どさくさに紛れて告白したりしやがりませんでした?!
「、俺と付き合ってくれ」
「…………はい?」
「つまりな、俺はお前に惚れてんだよ」
「………それはそれは」
「……お前、俺の言ったこと解ってないだろ?」
「………だって、あまりにも突然で何がなにやら」
首を傾げれば、洋平君は困ったように眉間に皺を寄せながら笑って。
私はそれを見ながら、「あ、私の好きな顔だ」とぼんやり考える。
思えば高校のときからこの妙に老成したと言うか、まるで花道君達のお父さんみた
いな「馬鹿な子ほど可愛い」と言わんばかりの苦笑が好きだった。
だって本当に仲間を大事にしてるのが解る笑顔だったから。
「………あれ?」
「…何だよ?」
あの優しい笑顔は今私に向けられている。
と言うことは……
「へ? え? ……ええ?!」
「な、何だぁ?」
こんなにも空気は冷たいと言うのに。
突然の奇声に驚く洋平君を見上げる私の首から上は、湯気を噴き出しそうなくらい
一気に熱が上がった。
だって。
だってこんなの反則だ。
「…おーい、?」
「……」
「ちゃん? おーい…大丈夫かぁ?」
すっかり俯いてしまった私の顔を覗き込む洋平君の顔も赤くなっていて。
それはきっと寒さのせいなんかじゃなく。
そのすぐ後。
「コイツ、高校のときからずっとさんに片思いしてたんスよ」
「そーそー。卒業してバラバラになったときに一回諦めたんだけど、再会したらま
た熱がぶり返しちまって」
「さっさと告りゃいいのに、自分のことになるとてんで意気地がねぇっつーかよぉ」
「ずーっとうじうじしやがって、飲むたびに絡まれんの大変だったんだ」
『初日の出ツアー』に誘ってくれたのも、私に告白するチャンスを狙っていたから
だとか、なのに毎年目的が達せられなくてその度に私と別れた後にヤケ酒飲んで落
ち込むのに付き合わされて、元旦は結構みんな大変だったのだとか、その他諸々、
花道君と軍団のみんながこぞって教えてくれた。
「てめーらっ! 後で覚えてろよ!!」
……洋平君は、珍しく真っ赤になって照れてたけど。
男同士って羨ましいなぁと、的外れなことを考えつつ、私はひたすら運転に専念し
ていた。
fin.
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『冬祭り』に投稿……させていただくために書いたんだけど時間切れ作品です。(泣)