平日は毎日朝早くからお弁当や朝食作りに頑張ってくれている奥様。

だから週末だけは、旦那様がモーニング・コーヒーを淹れる決まりなのです。








ハピネス











ガーッ

電動ミルが豆を粉に変身させ、更に一体型のコーヒーメーカーがそれをコー
ヒーへと変身させている間に、香ばしく焼きあがったトーストとバターの香
りも香ばしいふわふわのオムレツ、それに新鮮野菜のサラダをワンディッシュ
プレートに盛り付けていく。

次第に立ち上る香りにつられたのか、それとも花形の動き回る音に目が覚めた
のか、ぺたぺたとフローリングの床を裸足で歩く音が近付いてきた。
それに気付いた花形は、僅かにずり落ちた眼鏡のブリッジを押し上げてこみ上
げてくる笑みを隠した。


「おはよう、
「おあよー」


むー、と眩しそうに拳で目を擦るはまるで頑是無い幼子のよう。
全く頭が働いていないのが丸分かりで、何度見ても苦笑を誘う。


「ほら、目を擦らない。眼球に傷がつくだろ」
「んー」
「もうすぐ朝飯出来上がるから、先に顔洗ってこいよ」
「んー」
「…何、まだ寝てても良いかって?」
「んー」
「駄目。もう9時だよ、今日は買い物に行くんだろ」
「んー」


同じ「んー」でも僅かな抑揚でそこに篭められた意思を汲み取れるようになっ
たのは結婚してどれくらい経ってからだっただろうと花形はふと考える。
付き合っていた頃はお互いの仕事が忙しい上に休みが合わなかったせいで、こ
んなにのんびりした朝を迎えられた記憶がないから、これは結婚してから会得
した技術のはずなのだけれど。

どうしても答えを見つけ出せない花形の目の前を、やっと二度目を諦めたらし
がやっぱりぺたぺたと足音をさせながら横切っていく。
その背中が洗面所に入っていくのを見届けると、花形はテレビの電源を入れた。
途端に映し出されたどこかの交響楽団と聞こえてくるクラシック音楽。
結構好きだし、聞き覚えだってあるのにどうしてもタイトルが覚えられないか
らCDが買えないと嘆く彼女のお気に入りの番組は、今日もクラシック音楽か
らオペレッタ、大ヒットしたミュージカル音楽まで幅広く、ある意味無節操に
演奏している。


「あー、もう始まっちゃった?」
「いや、今始まったトコ」


顔を洗ってやっと目が覚めた彼女が慌てて洗面所から飛び出してくるのも、い
つものことで。今日の特集はガーシュインだとか、良く喋る指揮者は今日も出
演ているのかとか、他愛もないことを確認しながらテーブルにつく。


「わ、今日はオムレツ?」
「今日のは結構良い出来だと思うんだけど」
「うん、美味しそう!」


目の前に置かれたプレートに目を輝かせるに、花形も心持ち胸を張る。
スプーンですくってぱくっと一口。


「おいしー!」


租借して飲み込んですぐに飛び出す賛辞が、来週も頑張ろうと夫にやる気を出
させている等とは彼女は知るはずもないのだろうけれど。


「透のオムレツはどうしてこんなに美味しいのかなぁ?」
「そうか? が作った方が上手いだろ」
「いや! 絶対透のほうが美味しいって!……やっぱりバターの量?」
「でも俺はお前が教えてくれたレシピで作ってるだけだぞ?」
「む〜〜」
「それよりもさ、今日の買い物、どこに行く?」
「あ、ベッドカバー変えたいんだけど」
「…北欧風?」
「ばれた?」
「最近ののお気に入りだもんな。……まぁいいけど」


わざと呆れたように溜息を漏らせば、はへへへっと照れ笑いを零して誤
魔化すようにマグカップに口をつけた。


「あ、紅茶がもうなかったような」
「そういえば、コーヒーもそろそろヤバかったな。帰りにいつもの店に寄って
買ってくるか」
「ついでにお茶してこようね」
「はいはい」


一週間ぶりのデートプランが決まったところで






後片付けは二人のお仕事です。








fin.
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甘々第2弾。