平日は毎日朝早くからお弁当や朝食作りに頑張ってくれている奥様。

だから週末だけは、旦那様がモーニング・コーヒーを淹れる決まりなのです。








ハピネス











休みの日の朝の日差しはどうしてこんなにも穏やかだと感じるのか。


「おい、
「……」
「って、おい」


布団の上から肩の辺りを掴んで揺らしても、一向に目を覚ます気配のない
藤真は毎度のことながら溜息を漏らす。


「起きろって」
「…んー」


低く呻いて、漸く目が覚めたかと思いきや、そのままずりずりと鼻先まで布団の中
に潜り込んで。


「ったく、平日は目覚ましが鳴る前に起きるくせに、休みとなるとこれだ」


呆れつつも放りだしておくわけにはいかない。
放っておけばそれこそ、いつまでもいつまでもいつまでも寝てるのだから。


「おらっ、起きろ!」


がばっ!!
勢いよく毛布をひっぺがすと、「ひぁっ?!」妙な声を上げてが跳ね起きた。


「…起きたか?」
「んー…」


それでもまだどこかボーっとした表情で。
確認するように顔を覗きこんだ藤真に、はくん、と鼻を鳴らす。


「健司、コーヒー」
「…起きた途端それかよ」


おはようの挨拶よりも先に催促されて思わず苦笑を漏らせば、は大きく口を
開けて欠伸をしてから、


「だって、健司コーヒーの匂いがする」


そんな答えもどこか舌足らずで。


「犬か、オマエは」
「コーヒーの匂いくらい犬じゃなくても判るもん」


寝惚けてても気の強い性格は変わらない。
先に降参したのは藤真の方だった。


「ほら。零すなよ」
「うん」


サイドテーブルに一時避難させておいた愛用のマグカップは超特大。
普通サイズのカップ2杯分は余裕で入るそれをは嬉しそうに両手で受け取っ
て、ごくっと喉を鳴らして一口目を飲み込んだ。


「………」
「……な、なんだよ?」


途端に微妙極まりない顔つきになった愛妻に、夫はやけにたじろいだ。
はその表情のまま、無言でまたごくごくっとコーヒーを飲み込む。

その合間にチラリ、と向けられるの視線が不安を煽る。
また何か失敗しただろうかと、藤真はそのコーヒーを淹れた時の手順を思い出し、
一つ一つ脳裏で検証していった。

豆の量はちゃんと測った。
水の量もきっちり目盛に合わせた。
今日はペーパーフィルターに穴を開けたりもしていない。
ブラックだから砂糖やクリームのを大量投入したりもしていない。
味見がてら自分も飲んでみたけれど、おかしいところは何もなかった。


今朝のコーヒーは大丈夫……な筈。多分。


断言できないのはこれまでに積み重ねた失敗の歴史の重みのせいだ。


「なーんてね。美味しいよ、健司」


すっかり目が覚めたらしいはにっこりと悪戯に、けれど満面の笑顔で。
ついでに「ありがとう」なんてお礼まで言われては引っ掛けられた藤真も怒るに怒
れなく、それどころか安堵から来る脱力感にがっくりと肩を落とした。


「オマエなぁ……焦っただろーがっ!」
「きゃ〜っ! 健司っ、こぼれるっこぼれるって!」


仕返しとばかりにがしっとその小さい頭を掴んで左右に揺すると、笑い混じりの悲
鳴が上がった。


「ごめんごめん。健司も成長したなぁって思ったら、つい、ね」


本気でベッドにダークブラウンの染みが出来る前に手を止めると、今度は
手が伸びて藤真のその手を取った。


「最初の頃はコーヒーメーカーの使い方も判んなかったのにね?」
「うっせ。そんなのもう時効だ、時効」
「確かキッチン中にコーヒーの粉をぶちまけたこともあったよねぇ?」
「まだ言うか。もういい加減忘れろって!」


自分の手に重ねられたの手をぶんぶんと振り回す藤真の顔は赤い。
振りほどこうとしているのではなく、ただ照れ隠しに注意を逸らしたいだけなのだ
と判っているは巨大マグカップの向こうで口元を綻ばせた。

空いている片手で残りを全て飲み干すと、それを待っていたとばかりに藤真が
の腕を引っ張りあげる。


「もういいだろ? メシ! 俺腹減ってんだからな」
「はいはい」


それじゃあ、愛しい旦那様のために美味しい朝ごはんを作って差し上げますか。

ニッコリ笑った愛しい愛しい奥様に、旦那様はコーヒー味のキスを一つ。




これも、週末のお約束なのです。









fin.

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某所のチャットで盛り上がったネタだったりします。

ちっとも甘夢が書けない真逆が頑張ってあま〜い雰囲気を
目指したら、砂糖入れすぎた珈琲みたいに始末に困るモノ
が出来上ってしまいました。
何故。
(ちなみに真逆は珈琲はブラックかミルクオンリー。砂糖が
入ると飲めません)

でも楽しかったので他のキャラでも書いてみようかと画策中。