―――AM5:30

の朝は早い。

むくりと起き出したは、腕を伸ばして目覚ましを止めた。


「ん〜っ」


腕を伸ばして背筋を伸ばし、左右に首を数度曲げると、漸く目が覚めてくる。
夜の間に冷えた室温にぶるりと身体を震わせると、慌ててカーディガンを引っ掛けた。








―――AM6:00

キッチンにリズミカルに包丁を動かす音が響く。


「おはよう、
「あ、おじいちゃんおはよう」


味噌汁のいい匂いが漂いだす頃、まず先に祖父の安西が起き出してくる。
パジャマに去年がクリスマスにプレゼントした愛用の綿入り半纏を羽織ってはいるもの
の、洗顔は済ませたと見えて髪には一筋の乱れもない。


「ほう、今日のお味噌汁は、蜆ですか」
「うん。お姉ちゃん昨夜は飲み会だって言ってたから」
「そうですか。は優しい子ですね」
「えー? そんなことないよ、普通だよ」
「ほっほっほっ」


ジジバカ安西のこの程度の褒め言葉は日常茶飯事なのだが、それでも言われる度に頬を赤らめ
て照れまくるがまた可愛らしく、笑みがこぼれる。


「おはよー。朝から楽しそうね?」


ふああぁ…
盛大な欠伸と共に現れたのは長女の彩子。
こちらは起きたばかりらしく、髪はぐしゃぐしゃ、瞼はともすれば再びくっつきそうだ。

「おや、彩子クン。おはよう」
「おはよ、お姉ちゃん。もうすぐご飯できるから、今の内に顔洗ってきて。お父さん起きてき
ちゃうよ」
「げっ」


最後の一言に彩子は一瞬で目が覚めたらしく、慌てて洗面所のほうへ駆け込んでいった。


「なんだ、彩子の奴は。挨拶もせずに走っていったぞ?」


の予言どおり。
丁度入れ替わりに、茂一が顔を出した。


「家の中で走り回るとはけしからん。あいつは一体幾つになったら落ち着くんだ、全く…」
「…おはよ、お父さん」
「お早う茂一君」
「お早うございます、お義父さん。おはよう、今朝も美味そうな匂いだ」


朝からしかつめらしい顔を見せる茂一に、も安西もこっそり肩を竦めるのだが、気付か
ないのは本人ばかり……







―――AM7:00

順次出勤していく家族を見送るのも、の日課だ。


「じゃ、行ってくるわね。戸締りヨロシク」


ビシッとスーツを着こなした彩子が片手を上げる。
唇を彩る赤い口紅が艶っぽい。


「うん、行ってらっしゃい。お姉ちゃん」
「行ってくるぞ、
「うん、行ってらっしゃい、お父さん」
「いいか、戸締りと元栓はしっかり確認するんだぞ。最近は変な奴が多いから通勤の行き帰りは
十分に気をつけるようにな。それから、変な男に誘われても付いていくんじゃないぞ、特にお前
の会社の……」
「ハイハイ、オトーサン。いい加減にしなさい」


放っておけばいつまでも続きそうな説教(?)に、彩子が茂一のコートの襟首を掴んだ右手を容
赦なく後ろへ引いた。
「ぐっ」と異声を発して茂一の顔が一瞬で赤から青へと変化したが、彩子は手を緩めない。


「お…お姉ちゃん、お父さん死んじゃうよ?」
「あ、そうそう。今晩夕食いらないから」
「え?」


虚を突かれたようにきょとんとしたの視線の先で、彩子は苦い笑みを浮かべた。


「今日さぁ、大事な得意先のお偉いさんが来んのよ。で、夜は接待ってわけ」
「そう……なんだ?」
「そうなのよ〜。でね、父さんも一緒だから」
「……父さんも?」
「あ……ああ」


バツが悪そうに視線を逸らした茂一にが訝しげに首をかしげたとき、


「では、行って来ますよ」


安西が玄関に現れた。


「あ、うん。行ってらっしゃい、おじいちゃん。今日も頑張ってね」
「ええ。……ああ、そうだ。私も今晩遅くなりますから」
「え?! おじいちゃんも?」
「部員の自主練を見てあげる約束をしたんですよ。食事も済ませてきますから」
「……そっか。うん。わかった」
「なあに? 今日何かあったの?」
「え?」


ほんの一瞬寂しげに表情を曇らせたに彩子が気付いた。

が、


「ううん。ただ、皆がいないなんて珍しいなぁって」
「寂しい?」
「……ちょっとね」
「んもうっ、ったら」


ぎゅむっ。
語尾にハートを飛ばしまくって彩子が抱きついてきた。
勢いがありすぎてが受け止めきれずによろける。


「わっ、お姉ちゃん! こけるよ!」
「こら彩子! 離れんか!!」
「お姉ちゃん仕事が終わったらすぐ帰ってくるからねvv」
「うん、わかった」
「彩子! 離れろと言うに!」
「じゃ、行ってくるわね」
「行ってきますよ」
「行ってらっしゃい」


茂一の襟首を掴んで引きずったまま彩子が、続いて安西が出て行く。


「今夜は一人……かぁ」


小さな呟き声は、溜息と共に床に落ちて消えた。







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夢的SD妄想家族『朝』。
『昼』『夜』と続く予定。