誤解は、禁物。









世界と引き換えにしても欲しいモノ









、アンタやっぱり…?」
「ん?」


思いっきりよくバクダン発言をかましたは全然判っていないようで、か
くん、と首を横に倒した。


「ん? じゃなくて! やっぱりアンタ、カカシのことが好きだったのね?!」
「はぁ?」


きゃ〜っと目を輝かせたアンコには怪訝そうに眉間に皺を寄せて、さっ
きとは逆の側に首を倒す。


「何でそうなるかな、アンコちゃんはもう」
こそ何言ってんのよ。あの状況で、救助班が編成されて向かうことは
予想できてもそれにカカシが入ってるかどうかなんてわかんないでしょうが!
実際、ゲンマとかガイとか髭とかだっていたんだしさ」
「ん〜、そう言われてみればそうだけど」
「なのにアンタはカカシが! 助けに来てくれる、とそう思ってたんでしょ」
「うん」


こっくりと頷いたに、ずびしっと人差し指が突きつけられる。


「それを恋と言わずして何と言う!」
「人を指差すのは失礼になるからやめた方がいいよ」


冷静に返したらそうじゃないっしょ! と怒られた。


「カカシの奴も、アンタが攫われたって知ったときには血相変えてさぁ。あの
いつも18禁本恥ずかしげもなく広げて何考えてるかわかんないような奴がよ?
それが必死な顔して追いかけてって…あのときの顔をアンタにも見せてあげた
かったわよ」


愛よね、愛。
うんうんと1人頷く彼女に、は苦笑を漏らすしかない。

だっては知っているから。
どうしてカカシがそんなに必死になってくれたのか、その理由を。

けれどそれをアンコに話すことはできないのだ。


「あのね、そんなんじゃないよ」
「何がよー」
「カカシさんはね、優しいから」


だからだよ、きっと。
そんな曖昧な言葉でしか言えない。
だからアンコが納得しないのも予想済みで、怪訝そうな彼女の表情に
苦笑するしかない。
これ以上追求されると困るなーと半ば他人事のように困っていると、「
さん」と遠くからカカシに呼ばれた。振り向くとカカシが右手の先だけでおい
でおいでをしている。一緒に話していたはずのイビキの姿はない。


「じゃね、アンコちゃん」
「あ、!」


これ幸いとカカシに駆け寄ろうとしたが、寸前で腕を掴まれた。


「今夜酒酒屋で飲み会やるからね!」
「は?」
「アンタが無事で帰ってきたお祝い! 主役なんだからちゃんと来んのよっ」


本人の了承なしで話が決まっている辺りがアンコらしい。
は苦笑しつつも「了解」とだけ答えて、アンコと分かれた。












川沿いの小道を、二人で歩く。
カカシが歩調を合わせてくれるのをいいことに、は穏やかな景色を楽し
みながら殊更にのんびりと歩いている。

駆け寄ったにカカシは「帰ろ?」とにこやかに告げた。
けれど今歩いている道はのアパートへ向かう道ではない。
かといって、どこへ向かっているのかはには分からない。さり気なくカ
カシが誘導するので、それに従っているだけだ。


「どこへ行くんですか?」


訪ねてみても、


「どこに行こうか?」


とはぐらかされる。
それならそれで良いか、とカカシならそう変な所へ連れて行かれることもない
だろうと判断して、は周囲の景色に目を向けた。

川面に光がキラキラと踊っている。

綺麗だなぁ、とぼんやり考える。
元の世界でも見られない景色ではなかったが、住んでる町から電車や車を乗り
継いで何時間も移動しなければならないだろう。この世界にも電線が張り巡ら
され、テレビや家電製品だってあるのにこの違いはなんだろう。

やっぱり人の違いだろうかと考えて、今度は前を歩くカカシの背に目を遣る。

心持ち丸められた、細身の、でもの腕が回りきらない意外と広くてそし
て誰よりも頼もしい背中。昨日もを守ってくれた。


『カカシの奴も、アンタが攫われたって知ったときには血相変えてさぁ。必死
な顔して追いかけてって…あのときの顔をアンタにも見せてあげたかったわよ』


アンコの声が脳裏に蘇る。
そんなに必死になってくれたのか、と思うと申し訳なくて、でも少しだけ嬉し
いとも思ってしまう。


『愛よね、愛』


アンコは一人合点していたけれど、そうではないことはが一番よく分かっ
ている。

自分が『生きるメガトン級爆弾』だということをカカシは知っているから。

だから血相も変えるし、必死にもなるのだ。
木の葉の里を守るために。
決してアンコや紅がほのめかすような甘やかな感情ではない。
それを思うと悲しかったけれど、仕方のないことだと自分に言い聞かせる。


「…さん? さん?」
「あ、はい」


カカシの声に思考の海に沈んでいた意識が一瞬で引き上げられる。
肩越しにこちらを振り向いた彼はキョトンとした顔をしていた。


「考え事?」
「ええまぁ」


曖昧に笑うと、カカシは足を止めてが追いついて彼の隣に並ぶのを待っ
て、「だいじょーぶ」と軽く肩を叩いた。


「さっきのことは、イビキがちゃーんと調べてくれるから」
「え?」
「え? そのことじゃないの?」
「あ、いや、まぁそうなんですけど…でもあんな曖昧な印象だから…」


ごにょごにょと言い訳がましく呟いて誤魔化すと、カカシはもう一度大丈夫だ
と請合った。


「曖昧でも重要な手がかりだからね。イビキも感謝してたよ。全員死亡したと
思って警戒を解くところだったって」
「…そうですか」


イビキに促されて、気が進まないながらもが報告したのは誘拐グループ
にもう一人仲間がいる可能性だった。
証拠があるわけではなかったが、最初に毒霧に巻かれて倒れこんだ瞬間、
を受け止めた腕の感触が、後に森の中で意識を取り戻した時に彼女を抱えてい
た腕とは違っていたような気がしてならないのだ。
それに、意識を失う直前に嗅いだ犯人の体臭にはの馴染み深い匂い  
病院と同じ、クスリっぽいような、どこか粉っぽいような匂い  が混じって
いたのだが、死亡した犯人達にはそれはなかった。

誘拐され移動していた間に何度か担ぎ手が交代したので、は全員の腕の
感触と匂いを知っているが、誰とも当てはまらずに違和感がずっと頭の片隅に
くすぶっていたのだ。

それに、思い出してみれば彼らの会話の端々に第3者の存在が見え隠れしてい
たいたように思える。

ただこのことは機密扱いのはずで、見渡した限り周囲には誰も居ないようだが、
だからといってこんな往来で話題にしても良いのかと訝ったのだが、よくよく
考えるとカカシは具体的な単語は一切口にしていない。成程そうすれば良いの
かともカカシに合わせることにした。


「でもさ、ビックリしたよ」
「え?」
「普通、ただの民間人ならあんな目にあったら暫くはパニックになって何も覚
えてなかったりするものなんだけどね、さんは奴らの隙をついて逃げ出
したデショ」
「あぁ…」
「おまけに、冷静に奴らの特徴と会話を記憶に刻み付けてるし、もう一人の存
在を指摘できるほど頭もキレる」
「…いやいや、それはホメ過ぎですって」


手放しの賛辞に顔が熱くなった。
胸の前で振る手と同じくらい、声も小さくなってしまう。


「カカシさんは、いきなり隣を歩いてる人が躓いて転びそうになったらどうし
ます?」
「え?」


唐突な質問にカカシが振り返る。
が、直ぐに「手を出して支えるだろうね」と答えた。
もそれに頷く。


「普通はそうですよね。間に合っても間に合わなくても身体は反射的に動くで
しょう?」
「ま、そうだね」
「私は体が固まっちゃうんですよ」


恥ずかしそうにはにかんで、足元に視線を移す。


「危ないって思うんですけど、驚きが先に立つって言うか……情けないハナシ
なんですけども」
「や、そんな…」
「でも、その分思考は異常に早く回るらしいんですよ」


カカシの慰めの言葉を予想していたのか、それを遮ってはにっこりと微
笑んだ。


「あの時も多分、同じ状態だったんだと思うんですけどね。そのときはもうと
にかくいっぱいいっぱいで何を考えてたのかもよくわからないんだけど、後に
なって思い返してみると、色んなことを覚えてることに気付いたりするんです
よね」
「成程ね〜」
「これで体が動いてくれれば言うことないんですけど」


は深々と、本当に情け無さそうに溜息をついた。
カカシはくくっと喉の奥で低く笑う。


「だいじょーぶ」


慰めるように、ぽんぽんと肩の高さにある頭を軽く叩いた。


さんが転びそうになったら、俺が支えてあげるから」
「…ありがとうございます」


苦笑しながらも嬉しそうなその笑顔に、カカシもまた顔の温度が上がるのを感
じながら笑顔を返した。



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……もどかしさに、イライラしていただけました?(笑)