世の中には、記念日とイベントを気にする人間と気にしない人間がいる。
かくいう俺も、気にしないうちの一人なんだけど。


でも、ね。


流石に恋人の誕生日くらいは……とか思ってたりするんだけどねぇ?










遅刻魔のお祝い計画










「は?! 先週?!」
「ええ、まぁ」


それは本当に、本当に、ほんっとうに何気ない会話の中で判明した。


「ちょっと待って、ホントに? ホントに先週の木曜日だったの?」
「本当の本当で先週の木曜日ですね」
「そんな…」


とっておきのプレゼントを用意して、

ちょっとおめかしして人気のレストランで二人っきりで食事して、

静かでムード満点のバーで軽く2・3杯。

その後は勿論ホテルの部屋で朝までずっとイチャイチャ満喫。

……俺としてはこってり系の洋食よりもどこかの高級料亭の個室で刺身な
んかをつつき合いながら、実はこっそり隣の続き部屋に二組の布団がぴっ
たりくっつけて延べられてる、なんて方が好みなんだけど、そこはやっぱ
り二人で祝う始めての誕生日なんだし、女の子は和食よりも洋食の方を好
む傾向にあるから、それはまた来年……って、そこまで考えてたのに!

「そういえば、そろそろの誕生日なんじゃなかった?」と待機所で
いきなり紅に話を振られて、慌てて彼女を捕まえて問い質してみれば、実
は先週だった、なんてそんなの。


アンマリダ。


表情には出ないものの動揺しまくる俺と違って冷静に頷いてる彼女は更に、
「まぁ、この歳だと流石にお目出度くもないですしねぇ」なんて、俺の計
画(妄想?)をばっさり切り捨てるようなことまで付け足してくれた。


「でも意外」
「なにが?」


応じる声が尖ってしまうのはこの際大目に見て欲しい。
けれどさんは気にした風もなく、ちょっとだけ眉根を寄せて微笑む。


「カカシさんがそういうの気にする人だとは思いませんでした」
「ん……そりゃーまーね」


何せ忍者という職業柄、いつ呼び出されるか分からない。
予測された日数が延びることも珍しくない。
最悪、戻ってこれない可能性だってある。
仲間の中には逆にそういうのに拘って  で、結局約束を守れないで落ち
込んでる奴も結構いるけど、俺は守れないと分かってる約束はする気には
なれないから。
だから記念日とかイベントとか、そういうのには興味を持たないで来た。

だけど、ことは恋人の誕生日である。
しかも付き合って始めて迎える誕生日なのだ。

俺だって人の子、お祝いしたいって気持ちは誰よりもある!
……いや、あった!……なんだけどさ。


「よりにもよって先週なんてさぁ」


これがもっと前だったりしたら、例えば2ヶ月前とかだったら、俺も諦め
がついたのに。
妙に近々なせいで悔しさも一入だ。

先週。
先週の木曜日…って、俺、何してたっけ?
確か、日数は掛からないけどランクの高い任務が立て続けてて…


「カカシさん、お忙しそうだったから」
「って、ああ!」


彼女の「忙しい」の一言で思い出した。
徹夜仕事だった7班の任務が終わった後でAランク任務が入って、それで
も23時過ぎには帰還できたから報告書提出した後真っ直ぐにさん
のアパートに向かった日だ。
こんな遅い時間だと迷惑かな〜ってチラッと考えたりもしたけど、でも少
しでいいから顔が見たいって、そう思って。

でも、さんは嫌な顔一つせずに俺を迎え入れてくれて、それが嬉し
くてイチャパラしようとベッドまで照れるさんを運んで……って、
  あれ?


ちょっと待て。


あの後、どうしたんだっけ?


……確か……服を脱がしてる途中で寝ちゃった日なんじゃないか?!
翌朝、さんは気にしてないって笑ってくれて、逆に俺の疲労を心配
してくれてたけど。

それが誕生日だったの?!


「さ、最悪……」
「いやいや、本当に気にしないで良いですよ?お祝いはナルト達がしてく
れたし、ね?」
「ナルトがお祝いしたの?!」


がーん!

ショックだ……ナルトに、部下に負けるなんて……


さんは俺の恋人なのに…」
「えーと、あの……カカシさん?」
「あんまりだ、あんまり過ぎる」


俺だっていっぱい考えてたのに。

プレゼントはやっぱりアクセサリーかなって、さんの好みに合い
そうなのを雑誌でチェック入れてみたり。
くの一たちに人気のレストランのリサーチしたり、とか。
同僚達に鉢合わせしないバーを探したり、とか。
ホテルはやっぱり夜景の綺麗なところが良いよね、とか。


なのに。


そんなの全部すっ飛んで、おまけに当日は男の沽券に関わる惨めな夜を過
ごしただけだ、なんてそんなの酷すぎる!
せめてあの夜のやり直しだけでも!
って言うか、あの日の俺を抹殺してやりたい!
俺の馬鹿!!!


「カ、カカシさん…?」
「認めない」
「はい?」


ボソリと呟やいた言葉は確実にさんの耳に届いたようで、彼女はきょ
とん、と首を傾げた。


「あんなので『二人で始めて過ごした誕生日』が確定されるなんて俺は認
めない! 況してやナルトがお祝いして俺が何もしてないなんて、絶対に
嫌だ!! やり直しを要求する!!」
「は、はい? やり直しって…今からですか?」


ちらりと窓の外へ目を向けたさんの視線を追って俺も外のすっかり
暗くなった景色を眺める。

気持ち的には今からでもやり直したい。特にあの日の夜の部分。
だけど、お祝いはそれだけじゃないから。

幸い、立て続いた任務のお陰で明日明後日は休みを貰ってる。
またいつ取り消されるかわかんないけど、そんなこと言ってたんじゃ一生
かかっても誕生日のお祝いなんて出来ないし。


「俺ね、明日休みなの。さんも明日は昼勤で夕方には仕事終わるデ
ショ? だから、やり直しは明日ね」
「明日ですか?」
「そっ、明日。だからなるべく早く帰ってきてね」


おねだりと一緒にちゅっと頬にキスすると、さんは「仕方ないなぁ」
と困ったように微笑んで、


「わかりました」


了解のキスを唇に落としてくれた。











今からじゃきっと、レストランの予約もバーを探すのも間に合わない。

だからきっと、人気のレストランはいつも行ってる居酒屋に、
雰囲気のあるバーは他の忍が顔を出すいつものバーになるんだろう。

それでもきっと彼女は微笑ってくれるに違いない。
……いや、むしろその方が良かったって喜んでくれるかも?
だって、


「プレゼントの予算は3千両までですからね!」
「えー」
「えーじゃなくて!それ以上のものだったら受け取り拒否しますよ」
「何で?」
「だって、そんな高価なもの貰ったら、カカシさんの誕生日のときにプレ
ゼントだけで破産しちゃうじゃないですか」


そんな庶民派で現実的で律儀な彼女だから。


「ねぇ、それは俺の誕生日はちゃんと祝ってくれるってことー?」
「当たり前でしょう!」


その即答が、むしろ俺への最高のプレゼントだったりするんだけど。
全然そんなことに気づいていないらしい彼女には、ご要望どおりの予算ギ
リギリで最高のプレゼントを渡すことにして。


「お誕生日、おめでとう」


遅すぎたその言葉は、そのときにね?







fin.
Photo by Natuyumeiro
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これを連載番外編と言って良いのだろうか・・・?
連載がここまで甘くなるのはいつなんだろう(汗)