いつもはお年寄りの方々の寄り合い所と化している木の葉病院の待合室ですが、


「私はやっぱり不知火特上がいいわ〜」
「えー、猿飛上忍でしょ!」
「アタシははたけ上忍一筋だもん!」


今日は何故か比較的若い娘さんたちの雑談の場になってしまっている模様です。
……しかもどうやら、忍者フリーク。

どことなく居心地悪げなに気付いて、看護士さんが慰めるように微笑んだ。










雪の夜










彼女達の手には何と『週刊はたけカカシ』。



カカシがにっこりと笑顔を振りまく表紙には「カカシ秘伝のレシピ」や袋とじの
「露天風呂特集」等々、思わず興味を惹かれてしまうコピーが並び、全てのカカ
シがイラストではなく写真だったら、本当に売られている雑誌かと思ったことだ
ろう。
彼女達が抱えているそれが気になって、つい「すごいね」と声を掛けたのが運の
尽き。


「他にも隔週刊の『イルカくらぶ』とか、あるんですよ〜」
「毎月満月の日に発刊される『月刊 ハヤテ』とか」
「隔月刊の『ASUMA』もねっ」
「基本は毎月1日発行の『SINOBI』なんですけどぉ」


から始まって、彼女達の止め処ないおしゃべりにあれよあれよと巻き込まれてし
まった。


しかし、彼女たちは別に憧れの忍者達と『どうにかなりたい』とは思っていない
らしい。
曰く、


「忍者は忙しすぎてデートのドタキャンが多すぎる」
「こちらは隠し事をしてもすぐばれるのに、相手は仕事からして秘密だらけで不
公平だ」


なにより、


「忍者は常に死の危険に曝されている。そんな緊張には耐えられない」


だから妄想を織り交ぜた『週刊はたけカカシ』等のファンクラブの会誌は楽しん
で制作するし、読むが、実際に関わるのはご免蒙るのだそうな。


「そんな構えるようなことかなぁ?」


幸い、と言うべきか彼女たちはを単なる木の葉病院の医者としか知らない
らしい。当のはたけカカシに想われている身のは苦笑しながら『週刊はた
けカカシ』をぺらぺらと捲った。










忍者フリークの彼女たちが喋るだけ喋って満足して帰っていくと、漸く
帰り支度を始めた。


「大変でしたね」


意識せず吐いた溜息を聞かれたのだろう、労う看護士にも苦笑を返して。


「忍者の恋人って、そんなに大変なんですかね」
「…まぁ、確かに事実ですから」


自身も忍者の夫を持つ彼女も苦笑する。


先生はそういうこと、意識されたことはないんですか?」
「んー……ないって言えば嘘になりますけど、でも……」
「でも?」
「正直、そんなこといちいち気にしてられないって言うか、考えてたら動けなく
なっちゃいますから」


アバウト過ぎるんですかねぇ。
困ったように笑ったに、看護士も「同感です」と悪戯な笑顔を返した。


一歩建物の外に踏み出すと、外気の冷たさに震えが走った。


「寒っ」


目を凝らすまでもなく、夜の黒をちらちらと白い欠片が彩っている。
寒いはずだと呟いて家へと向かう足を心持速めた。










「―――えっ?」


アパートの外壁を寒そうに見上げたの目が見開かれる。
そうして慌てて階段を駆け上がった。
カンカンと静かな空気の中に足音が響く。


「カカシさん?!」
「―――や」




の部屋のドアにもたれるようにして立っていた人影が、ゆらりと身を起こす。
頬も鼻の頭も赤い。
マフラーに顔を埋めたその凍えきった様子に、の目が更に見開かれる。


「一体いつから此処にいたんですか?!」
さん遅〜いよ。もー、寒くて寒くて」


あっためて〜と言いながら抱きついてくる、その服すら冷え切っている。


「冷たっ」
さんあったか〜い」
「も、どうして部屋に入らずにこんなトコに立ってるんですか?」
「だって合鍵も貰ってない女の人の部屋に勝手に入るわけにはいかないでショ?」


そんな破廉恥な真似できません。
しれっと言われた言葉には首を捻った。


「…鍵なんてなくても、いつも勝手に窓から入ってきてるじゃないですか」
さんが居るときはね。でも、いないときに勝手に入ったことは一度もな〜
いよ?」


言って、さらにぎゅうっと腕が締まる。


「それにしても寒い〜」
「か、カカシさんっ。とりあえず中に入りましょうっ、ね?」
「ん」


早く鍵開けて、と言いながら抱きついてくる腕は解かない。
どうやらこのまま動け、と言うことらしい。
溜息を一つ吐いて、は僅かに緩んだ拘束の下で鞄から鍵を取り出した。

貼りつくカカシをリビングに座らせ、自身はキッチンへ。


「はぁ、あったか〜い」


急いでコーヒーを淹れて渡すと、カカシはマグを両手で抱えてにっこりと笑んだ。
その笑顔はあの『週刊はたけカカシ』のイラストを思い出させて、の口元
には知らず笑みが浮かぶ。

忍者だって普通の人なんだけどね。

あの会誌の中の理想化されたカカシより、こっちの方が好きだとは思う。
……思うだけで口にはなかなか出せないけれど。


「ん? どーしたの?」
「……忍者なのに、そんなに寒さに弱くて良いんですか?」


誤魔化す為にそんな事を問えば、「任務のときは別」と返ってくる。


「気合が違うからね〜」
「今はプライヴェートだから気が抜けてる?」
「そ。今は完全オフ」
「完全?」


その言葉に引っ掛かりを覚えて改めてカカシの全身を眺めて気がついた。


忍服じゃない。


カカシもが気付いたことを察したのだろう。


「明後日の夕方までお休みなんだ〜」


にっこり笑って指を二本立てる。


「明後日」
「そっ。だから泊めてね?」


続いた言葉には困ったように笑って……こくっと小さく頷いた。










30分後、暖かい湯気を立てるの手料理と共に、カカシの前に並んで置か
れた小さな銀色の欠片。長い革紐が付けられている。
カカシの目はそれに釘付けになる。


さん、これ…」
「また部屋の外で凍えられたら困りますから」


カカシさんには必要ないんでしょうけど。
視線を外して続けた言葉は単なる照れ隠しだとカカシもわかっている。
だから、革紐を首に通した。


「ありがとう、大事にする」
「約束ですよ?」
「ん。ぜ〜ったい失くさない!」
「もし失くしたりしたら、次はないですから」


脅し文句は相変わらずそっぽを向いたまま。
寒さのせいじゃなく、首も頬も耳も真っ赤で。


さんかわい〜っ」


『週刊はたけカカシ』も面目を失くすほどの笑顔でカカシはを抱き締めた。











fin.





<あとがき>
いやもう、深雪様のイラストにノックアウトされまくり、『週刊はたけカカシ』に
笑いのツボを押されまくって酸欠状態で書き上げた話だったりします。
他の雑誌名考えるのがとても楽しかったです。
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『カカシ生誕祭&アスマタン2005』にコラボ作品として提出させて頂きました。