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「あ、猫がいる」 「ん?」 きつい、危険、汚い任務明けの帰り道、毛色の変わった猫を見つけた。 もしも猫を拾ったら 「ほら、あれ」 カカシが指差す先には、彼らの背丈とほぼ同じ高さと彼らが腕をいっぱいに伸ばし ても囲めなさそうな容積を誇る巨大な石が。 「あン?」 何もねぇじゃねぇかと言おうと開きかけた口が、中途半端な位置で止まった。 よくよく見ればその上に、なにやらもぞもぞと動く白い物体が見える。 「……何してやがんだ?」 「相変わらず鈍いね、アスマ」 岩の上に登ったはいいが、怖くて降りれなくなったに決まってるでしょ〜よ。 そう呟くや否や、次の瞬間には岩の傍らに立って「どうしたの?」と、『猫』に話 しかけていた。 相変わらずマメな奴だと呆れつつ成り行きを見守っていれば、どうやら『猫』は思 いっきり風貌の怪しげなカカシに警戒心をむき出しにしているようで。 身体を縮めて後ろに引きながらもじろりと睨んでいる。 ……全く迫力はないが。 「だいじょーぶ、怖くないからこっちにおいで?」 「……」 カカシが手を差し伸べてもじっとその手を見つめるだけ。 警戒心でいっぱいの瞳はくりくりとしているが、どうやら立派な成人猫らしい。 首には生花で作った『首輪』付きだ。 「どうしたの? 降りれないんデショ?」 ヒラヒラと指先を誘うように揺らしても、ちっとも反応しそうにない。 「あーもう。めんどくせぇなぁ」 「ひにゃっ?!」 ひょい。 いつの間にか岩の上に立っていたアスマが猫の胴に腕を回して抱えた。 そのままトン、と地面に飛び降りてしまう。 「とっととこうして降ろせばよかっただろうが」 「あー、アスマ、そんな乱暴にしたら暴れ」 「嫌ぁー! はなせー! 人攫いー!」 カカシの注意も途中で猫の叫びにかき消されてしまった。 「誰かーっ!! ヒゲグマに殺されるー!!」 「お、おいっ」 じたばたと暴れる猫に落としそうになってアスマも慌てるが、彼女は一向に耳を貸 す気配すらない。 ぽてっとその頭から緒ちたつばの広い麦藁帽子を、拾ったのはカカシ、ではなく。 「あれ?」 「ん?」 「何やってんだよ、。アスマとはたけ上忍まで…」 呆れ返ったと言わんばかりの表情のその少年。 「あー!! シカ君、シカ君っ、助けてーっ」 「え?」 「あ? 知り合いなのか、シカマル?」 「んー、まぁな」 「五代目のお客人ですよ。一応、失礼のないようにって言われてるんで、そろそろ 放してやってもらえませんかね」 「ん? ああ、悪ぃ」 「なんだ、ゲンマと一緒の任務だったんだ」 「ゲンマさん、一応って何!」 どこからか現れたゲンマに驚いた様子も見せないのは、二人とも既に気配を悟って いたからなのだろう。 それに気付いたシカマルが表情には出さずとも内心で尊敬の念を新たにしている横 で、一般人のはそんなことに気付きもせずにアスマの腕から逃れた途端ゲン マに食って掛かる。 「いい度胸だな」 仮にも特別上忍相手に。そうアスマが感心すると、 「……何にも考えてないだけだろ、どうせ」 彼の部下が溜息混じりに返す。 「で、アレは何者だ?」 「あ、そか。おい、」 「ん? なに〜、シカ君?」 思いっきり力いっぱいゲンマに噛み付いていたはずが。 シカマルが声を掛けた途端に、もう気分が変わったのかのほほんとした笑顔で駆け 寄ってくる。 そのころころと変わる表情も猫っぽいとカカシは口布の下でクスリと笑った。 「なに、じゃねぇよ。紹介がまだだったろうが」 「ん? そやっけ?」 「こっちの髭が俺の指導上官で猿飛アスマ上忍、隣がその同僚で俺のダチの指導上 官のはたけカカシ上忍」 「おい、髭ってな…」 「ヨロシクネ〜」 「で、このぼけぼけしてるのが薬学者の。俺のお袋の方のジイさんの 従妹の娘……まぁ、遠縁ってとこだな。色々と事情があって木の葉に引っ越すこと になったんだ」 「です……って、シカ君!」 「な、なんだよ?」 「今、何てゆぅたん?!」 「あ?」 「指導上官って、シカ君の先生って事やろ?!」 「あ? そりゃ当然…」 「あかんやん、そんなん!!」 いきなり叫んで。 両腕で頭を覆ってしゃがみこんでしまったに忍者4人は首を傾げる。 「…ヤカン?」 ってもこの辺に薬缶はないよねえ、と周りを見回すカカシに、 「オカン、じゃねぇのか?」 「そこで俺を見ないでもらえませんかね」 ゲンマをチラ見するアスマに憮然とするゲンマだったが。 「いや、それ違うんじゃねーの。…どっちもな」 シカマルは違う違う、と胸の前で小さく手を振った。 ![]() しかし。 その手が不意に止まった。 上忍たち3人の表情が突然鋭さを増したからだ。 「……お二方」 「ん」 「…ちっ。シカマル」 アスマの呼びかけにシカマルは頷き一つ返すと音も立てずにの背後に回る。 背を向け、クナイを構えた。 「な、何なん?」 「動くなよ、」 そのまま、頭抱えて小さくなっとけ。 ついでに目を瞑って耳も塞いどけと、聞き慣れない遠縁の少年の緊迫した声音に の表情も強張る。 それでも彼女は「大丈夫」と気丈にも背筋を伸ばし、顔を昂然と上げてみせた。 ほう、と感心したように息を漏らしたのはカカシだったかアスマだったのか。 ゲンマはただ唇の端を僅かに持ち上げ、シカマルは「意地っ張り」と溜息をつく。 ザッと音がして。 その周囲を忍び装束の男たちが囲んだ。 人数は10人程。は無意識に目で確認する。 「その女を渡してもらおうか」 リーダー格らしい男が言う。 ビクリとの肩が揺れた。 「だいじょーぶだよ、ちゃん」 「……え?」 「こんな雑魚相手にやられるとお思われるたぁ、心外だな」 「アスマ、さん」 「そういうこった。高みの見物決め込んどけよ」 「めんどくせぇけど、お前に怪我させたりでもしたらオヤジに何言われっかわかん ねーし」 「ゲンマさん、シカ君」 自身ありげに微笑む彼らにもぎこちないながら笑顔を返す。 「…信用してんで、4人とも。ここは一つ、男前なんは顔だけやないトコ見せてな」 の為に、殊更に余裕を気取っているのが解ったから。 「はっ、上等だ」 「言うねぇ」 「後でご褒美ちょーだいね!」 「めんどくせぇなぁ…ったくよぉ」 4者4様の答えを返す彼らは……実際、強かった。 一般人のの目には全てを捉えることは出来ず、気がつけば倒れている敵の数 が増えていく。 アスマの操る白刃が煌く度。 ![]() カカシの手が印を組む度。 ![]() 敵がどうと音を立てて倒れてゆく。 シカマルはゲンマと流れ飛んでくるクナイや手裏剣からを守りつつも襲い来 る敵の忍を着実に屠って。 僅かな時間が過ぎ去った後には全ての敵が倒れ伏していた。 「無事か? 」 呆然と佇むの肩に、アスマの手の重みがかかった。 「誰が守ってると思ってんです?」 わざとらしく憮然とした表情を作るゲンマの顔を見、それからアスマを見上げる。 「……驚かせちまったな」 「怖かったよね、ゴメンネ?」 「あ、いや。別に」 驚いたには驚いたが。 それは彼らが思っているような理由ではなくて。 「……強いねんなぁ」 流石は木の葉の上忍だと、は感嘆の溜息を零した。 それに上忍二人は目を瞠る。 それはすぐに笑みへと変わっていった。 ![]() 「いい度胸だ」 「変わってるよね、ちゃんって」 カカシの物言いはちょっとひっかからないでもなかったが、二人の表情からして褒 められているのだろうと判断しても笑みを返す。 「さっきは失礼な態度とってすいませんでした。まさかシカ君の先生だとは思いも しなかったので」 丁寧に頭を下げれば、カカシもアスマも困ったような表情で顔を見合わせて。 「いーよ。全然気にしてないし」 「ま、コイツの胡散臭いカッコ見りゃ警戒して当然だしな」 「俺のせい?!」 「当然だろ」 「アスマがいきなりそのムサイ髭面近づけたからデショ?!」 「なんだと?」 「何でもいーから里へ戻ろーぜ」 へのフォローのはずが何故か漫才になってしまった二人をいつでも冷静なシ カマルが止めた。ゲンマはといえば、とっくに先を歩き始めてしまっている。 「それもそーだ」 「……だな」 後を追う二人は何故かの両脇に。 「…そういえば、何であんな岩の上に登ってたんだ?」 「あ、それ俺も聞きたい」 どこか嬉しげに問いかけるアスマとカカシに、の答えはといえば。 「えー? だってあんなデッカイ岩があったら上ってみたくならへん?」 ののほんと微笑まれては二の句も告げない。 「あー、それにしても疲れたな」 「だねー」 無理矢理にでも話題を変えたくもなろうというものだ。 「疲れてんの?」 「そりゃあ、なぁ」 「任務明けだしねぇ」 上忍二人を動員しなければならなかった任務が終わった直後に、先程の戦闘だ。 疲れていないはずがない。 苦笑する二人に、はそれじゃあこれを、と首周りを飾る生花のチョーカーを 外して二つに分けると、ポケットから出した安全ピンに器用に絡めて二人の襟元に 飾った。 「…おい」 「二人とも似合うやん。これはユキハリキキョウゆうて、この花の香りにはリラッ クス効果があんねん。護ってくれた御礼や」 「へぇ。ありがとね」 「…ふん」 女じゃあるまいし、花を飾る趣味なんざねぇよと盛大に渋面を作ったアスマだった が、の笑顔に負けたのか花を外そうとはしなかった。 数時間の後、無事に里に辿り着いたは早速綱手との面談のために招ばれてゆ き、カカシとアスマは任務の報告書を仕上げて受付に提出を済ませてさて我が家に 帰ろうかと踵を返した矢先だった。 報告を直接聞きたいと綱手に呼び止められた。 ……が。 「……どーしてこんなトコで寝てんの?」 「俺に聞くな」 呼び出されて向かった火影の執務室。 そこで見つけたのは、ソファの上で気持ち良さそうに身体を丸めて眠るの姿、 だった。 「疲れて眠いって言うからね、アタシがそこで寝りゃいいって言ったのさ」 「五代目」 「任務ご苦労だった。帰りにこのコのお守も勤めてくれたんだって? 手間かけさ せて悪かったね」 ニヤリと笑う綱手の言う「手間」が「の護衛」ではないことを察して、二人 ともに口元に苦笑が浮かぶ。 「五代目、彼女は何者なんです? 言葉も聞いた事のないイントネーションだし」 「奈良のとこのシカマルから聞いたんじゃなかったのかい?」 「彼の遠縁で薬学者ってことは。だけどどうして狙われてるのかまでは」 最後まで言わずに首を振るカカシに、綱手は納得したように頷いて 「“天仙”を知ってるかい?」 逆に問い返してきた。 「確か、擂り潰せば火傷から切り傷・擦り傷・かぶれにも効く傷薬に、煎じて飲め ば滋養強壮・免疫力を高め・解毒作用もあり、乾燥させて粉末にしてもその薬効が 変わらないという万能の薬草でしたね」 答えたのはアスマ。 「そうだ。しかし、生育条件がかなり限定されているのか滅多に発見されない上に、 やっとの思いで株を手に入れても今まで誰一人として栽培に成功した者がおらず、 それ故に『幻の仙薬』と呼ばれ“天仙”の名の由来ともなっている」 「……それが?」 「はその“天仙”を栽培できるおそらく世界で唯一の人間だよ」 成程、それでか。 やっと得心がいったというようにカカシとアスマの二人が頷いた。 幻といわれるほど希少で効果の高い薬草を栽培することが出来れば、それは即ち巨 万の富を手にしたも同然ということだ。 その金額は間違いなく国家予算レベル。 下種な輩が狙ってこないわけがない。 木の葉に移り住むことになったのも、おそらくそれが理由なのだろう。 「……この、のほほんと寝こけてる奴が、ねぇ」 「とてもそんなすごい人物には見えないよね」 ふに。 カカシは指先でそっとの頬を突付いた。 「うにゅぅ…」意味不明のうめきを漏らして、ぐるりと器用に寝返りを打つ。 「何言ってるんだい。ちゃあんと証拠の品を見てるじゃないか」 「は?」 「へ?」 「襟元の、それ」 綱手は自分の鎖骨辺りを指先で叩いて示した。 綱手のそこには、勿論何もない。が、カカシとアスマのその場所には、から 貰った白い花のブローチが。 「これが何か?」 「何って、それが何だか知らないのかい?」 「がユキハリキキョウだって言ってましたけど?」 カカシが答えれば、綱手は「だーかーら」もどかしげに前髪を掻き上げた。 「ユキハリキキョウが、“天仙”なんだよっ」 「はぁ?」 ![]() 「えぇ?!」 「“天仙”ってのは薬草としての名前であって、花の名前はユキハリキキョウなの さ。その飾り一つで1万両は下らないよ」 「1万?!」 「こんなちっぽけな花が?!」 「そんだけ貴重だってこと。良い物貰ったね。……そういえば、二人とも誕生日が 近かったんじゃなかったかい? 丁度いいバースデープレゼントじゃないか」 にっと笑う綱手には、 「俺はもう過ぎちゃいましたけどね」 「……今更誕生日だからって騒ぐようなトシでもないですがね」 二人とも苦笑うしかない。 ソファでは相変わらずお気楽極楽太平楽に居眠りしている。 「参った」 「ホント」 気紛れな猫を手懐けたつもりでいたのが気がつけば、逆に手懐けられて翻弄されて る自分達がいて。 けれどそれがちっとも嫌だと思わないのはどうしたことか。 「里での暮らしは慣れない内は色々と不便もあるだろう、その花の礼に精々面倒見 てやっとくれ」 普通なら面倒な、とでも言いそうな二人がこのときばかりは 「勿論」 「了解」 渡りに船とばかりに快諾した。 それ以来。 「、仕事が終わったら飲みに行こうぜ」 「この間面白そうな映画が封切りされたんだよ、一緒に行こ、ちゃん」 新参者のにことある毎に付き纏う上忍二人の姿が里の彼方此方で見ら れるようになったとか。 もしも猫を拾ったら。 責任を持って面倒を見てあげましょう。 fin. <あとがき> 挿絵5枚、欲張りました!(胸を張るな) 最初は深雪様の得意げにボケをかます上忍コンビがツボで、この絵をコラボで 使いたいという一念で無理矢理捻り出したお話だったのですが、気がつけば、 「戦闘シーン入れたらお二人のあれとこれも入れられるv」と無謀にもただそ の為だけにヘボい描写が……毎度毎度お目汚しですみません。 『ユキハリキキョウ』は漢字で書いたら『雪玻璃桔梗』……勿論天仙と共にでっち 上げでございます。(^^; =========================================================== 『カカシ生誕祭&アスマタン2005』にコラボ作品として提出させて頂きました。 |