、はい



いや、にこやかに渡されても。

見慣れた濃紺のズボンとアンダーに、ポケットが沢山付いたグリーンのベスト、銀
色は無理だったのだろう、灰色の髪。ビーズの瞳。可動式の手足。
可愛くデフォルメされた顔。





ふに。


とりあえず、手の先を指で押してみる。……柔らかい。


?」


ふにふにふにふに。
手の先から肩にかけて順に押していく。……柔らかい。


「えーっと……ちゃん?」


ふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふにふに。
全身を隈なく押していくが、何の反応もない。

ふむ。

盗聴器の類は仕込まれてない、と。


「……何やってるの?」
「……いや、何ってそれはこっちの台詞なんだけど」


知っていると言えば知っている、と言うかむしろ知り過ぎているそのコスチューム
の、有り得ない位のディティールのこまやかさに目眩さえ覚えてしまう。


「何、これ」
「何って、人形。んー…ぬいぐるみかな?」


誰にともなく発したはずの呟きに応えた相手を見て、は目眩に加えて酷い頭
痛にまで襲われた。









贈物









「んなこたぁわかってるっつの!」


いっそ倒れてしまいたい気持ちを特別上忍の自制心でぐっと堪えて踏みとどまって、
目の前の美女の脳天ににずびしっとチョップを入れた。


「いったぁ〜。、ひど〜い」
「やかましい! グーで殴らないだけマシだと思え」


大体、それほど力は入れてないから痛くはないはずだ。
じろりと睨んだら銀の髪の美女はばれたかと照れ笑い。


その能天気な笑顔に拳をめり込ませてやりたい……っ。


握り固めた拳が震えるが、この美貌を前にするとどうしても実行に移すことができ
ないでいるは、何だかんだ言いつつこの顔に弱かったりする。

だって、嬉しそうに笑うから。

綺麗なだけなら如何ということもなかったのに。
が怒鳴っても喚いても、流石に叱られた時はしゅんと沈んでしまうけれど、
それ以外ならとにかくに相手をしてもらってるのが嬉しいと言わんばかりに
にこにこと、それは幸せそうに笑うから。

その笑顔を見てしまうとは何も言えなくなってしまうのだ。
この笑顔に全て押し切られてしまったと言っても過言ではない。


「もー、これが愛しい恋人に対する仕打ちー?」


そう。
そっけなくされても怒鳴られても殴られてもへこたれず、犬が尻尾振るみたいに懐
かれて纏わりつかれて気がつけば。
何故か、いつの間にやらこの能天気ながらも艶っぽい不思議笑顔に負けてそんな関
係を結んでいる自分が近年一番の驚きだ。

やはり誕生日に押し掛けられてエサを与えてしまったのが間違いだったか。


「恋人なら大事な彼女をぬいぐるみと人形の区別がつかないなんて愚弄するな」


スタートが間違っていたせいか、それともカカシの常識がどこか世間様からズレて
いるのか。
多分両方だと思うが、晴れて恋人同士となった今でもカカシはの家を訪れる
際には律儀に「カカ美さん」に変化してやってくる。
お陰でご近所には「家に男を連れ込むふしだら娘」の評判はたたないのだが、代わり
に「夜な夜な絶世の美女が出没する不思議スポット」と噂になってしまっていて、
それはそれで悩みの種になっている。

苦労が絶えない……と一度アスマに愚痴ったら、


「あんな厄介な奴に好かれたのが運の尽きだと諦めろ」


とてつもなく身も蓋もない一言を頂いた。

友達甲斐がないと睨むと、彼は彼でカカシと顔を合わせる度に、以前は「どうした
をデートに誘えるか」「どう言って口説いたらいいか」と恋愛相談を受け、
付き合い始めた以降は聞きたくもない惚気を聞かされているらしい。
心底げっそりした顔で言われて、平謝りに謝る羽目になった。


「……何笑ってるのよ?」


なにやら嬉しそうに笑っているカカ美を訝しげに見遣れば、可愛らしくしなを作っ
に抱き付いてくる。
女に変化していても身長はそれほど変わらないらしく、はカカ美の腕の中に
すっぽりと収まってしまう。


「だってぇ、ってば最近やっと「恋人」って言っても否定しなくなったんだも
ん。嬉しくってv」
「……だって、事実だし」
「うんうんv事実だよねーvv」


ああ、語尾にハートが飛び交っている。
こんな些細なことでこんなにも喜ぶんだから、相変わらず欲のない人だとこっそり
苦笑しつつも、ちょっとそっけなさ過ぎたかと普段の自分の態度をちょっぴり反省
したりもして。

しかし、そこで話が摩り替わっている事にはたと気付いた。


「…んなことよりも、これ! ぬいぐるみ!」 
「そんなことって……」
「いや、だからこれの説明をしなさいっつの! いきなり何なの?」


ちょっと凹みかけたカカ美の目の前にカカシのぬいぐるみ、略してカカぬいをつき
つける。


「これは、んー…」
「説明は簡潔に。分かりやすく」


何故か頬を染めて照れるカカ美に先を促せば。


「……あんまり一緒にいられないから」
「は?」


そんな一言がポツリと零された。


「お互い特上と上忍で忙しくて、一緒に居られる時間って限られてるデショ? だ
からせめてコイツ置いておけばに忘れられないでいてもらえるかなって」
「………」
?……やっぱり呆れちゃった? こんなのいらない?」


カカ美は反応のないに次第に項垂れてゆく。

だが。


「…………お」
「お?」


乙女だ……っ!!!

乙女がここにいる!!!

そんなこと考えてちくちくと家でこれを縫ったのか、君は!!


「えーっと、……ちゃん?」
「か……っ」
「か?」
「かわいいっ!!!」
「うわっ?!」


不覚にも感動してしまったを、逆に怒っているとでも思ったのか、不安そう
な顔つきで顔を覗きこんでくるカカ美の頭を無理矢理抱きこんで自分の胸に押し付
けてしまった。


「ちょ、タンマっ、っ!」
「やーん、もうかわいすぎる〜。なんでそんな可愛いことするかな、君は」


よしよし。
撫で撫で。
思いっきり腰を曲げて窮屈そうなカカ美に構わず、はその銀色の頭を存分に
かき回したりちゅっと音を立ててキスしたり。

初めは突然のハイテンションに着いていけずに呆然としていたカカ美も、
本気で喜んでいるのがやっと分かったのだろう。


「コイツ、受け取ってくれる?」


胸の間からぷはっと顔を出して赤い顔でにっこりと笑った。


「うん、大事にする!」
、大好き


にっこりと満面の笑顔をみせるの腕から抜け出して、逆にの身体を抱
き締める。

が。


「……?」


近づけた唇を手の平で塞がれて。
不満げに唇を尖らせれば、は笑って「カカ美さんじゃやだ」。
「そーだったね」とカカ美……もとい、変化を解いたカカシも笑って。



近付いたのはどちらの唇だったのか。












翌日の昼から待機命令を受けていたカカシが『人生色々』へ出向くと、皆、流石は
ひとかどの忍といったところか、目敏くそれを見つけてざわめいた。


「どうしたんだよ、それ」


面と向って問い質せずに遠巻きにしている同僚を代表してアスマがしぶしぶ口火を
切れば、カカシはにへらっと人間の顔はここまで緩むのかと思うほど締まりのない
顔で笑う。


「イーデショ? ちゃんの俺への愛のアカシ」


顔の横へ持ってきた左手の薬指には、必要以上に光ることのないよう艶消し加工を
施された銀の指輪が。


「はぁ?」
「それがさ、もー聞いてよ、アスマぁ」


がしっと肩を組まれて、しまったと思ってももう遅い。

結局アスマはカカシがぬいぐるみを作ろうと思い至った原因から、感激した
が「自分も何かカカシに贈りたい!」と言い出して、朝イチで店が開くと同時に二
人で駆け込んで購入したいきさつまで事細かに聞かされる羽目になった。


「……だけど、なんで指輪なのよ?」


興味深々、その一部始終に聞き耳を立てていた紅がこちらはを捕まえて問う。
それに答えるの返答は簡単明瞭。


「だって、裁縫嫌いなんだもん。それに自分の人形作るのはやっぱり恥ずかしいで
しょ? 絶対カカシより下手な出来になる自信あるし」
「そんな自信持って如何するのよ」
「事実なんだから仕方ないって。…あ、お呼びが掛かったみたいだから行くわ」


立ち上がり、通り過ぎようとするの手を、一瞬カカシが捕まえる。


「気をつけてね」
「ん。カカシもね」


ひらひらと振られるの指にも昨日まではなかった指輪が嵌められていた。


「カカシが贈ったのが手作りの人形で、からはペアリング……ねぇ?」
「普通、逆なんじゃねーのか…?」


非常に複雑そうな表情の同僚たちの言葉はカカシの耳には入らないらしい。


「大事にするからね」


幸せな笑みを浮かべて己が左手の鈍い銀の輝きに、そっと唇を寄せた。










fin.






あとがき
どんどんカカシさんのお馬鹿値が上昇しています。
「悪戯」以上にカカ美さんに活躍してもらおうと思ったら、カカシさんがとっても
乙女になってしまいました。そしてその分ヒロインさんがオトコマエに……(汗)
誕生日ネタの後日談、の時点で私はこの企画の本義をすっかり見失っているのが丸
分かりです。……ま、指輪は遅ればせの誕生日プレゼント兼ねて、ってことで。

申し訳ありません。m(_ _)m


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『カカシ生誕祭&アスマタン2005』にコラボ作品として提出させて頂きました。