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トトトトトトトトンッ 軽快な音をさせて大量の葱を小口に切っていく。 食卓には既にほうれん草のお浸しに、生姜おろしを添えた出汁巻き卵、程好く焦げ 目のついたシシャモの皿が並んでいる。 は蜆の出汁が充分に出た味噌汁に刻んだ葱を放り込み、煮立つ前に火を止め た。 それを見計らったように、奥からぺたぺたと裸足で歩いているのだろう足音が聞こ えてきては顔を上げた。 「おあよ〜、」 「はい、おはようアンコ。もうご飯出来てるからさっさと顔洗ってきて」 「ふぁ〜い」 盛大に欠伸をかましながら洗面所へ向うその背中を、はいつものことながら 呆れと感心が入り混じった苦笑で見送った。 悪戯 「助かったわ〜、。またヨロシクね!」 「ヨロシクはいいけど、アンコもいい加減に自分の酒量の限界を知れっつの」 礼を言われながらばしっと背中を叩かれて僅かに前にのめるも、はすぐに身 体を起こしてアンコの頭を叩き返す。お互い、特別上忍のくの一という気安さで、 遠慮なんて全くない。 「いや〜、楽しくってつい飲みすぎちゃうんだよね〜」 「と、言って何度ウチに転がり込んできたと思ってんのよ?」 「あはははは。面目ない」 「ったく…糖尿病になっても知らないよ?」 「なに? アンコってばまたの家に泊めてもらったの?」 ぬっ。 いきなり顔を二人の間に突っ込むようにして割り込んできたカカシにアンコは仰け 反ったがは驚くでもなく「そうなの」と大袈裟なしかめっ面で頷いた。 「今月はこれで何回目?」 「6回」 カカシの問いに指の本数で示して見せれば、「も大変だねぇ」と同情されて しまった。 「立地が良すぎるからねぇ、仕方ないよ」 そもそも里のメインストリートである木の葉茶通りに面した一軒屋、という好立地 に住んでしまっているのだから仕方ない。ただでさえ繁華街から近くて狙われやす いというのに、一人暮らしで部屋が余ってるとなれば、飲んだ後に転がり込んで下 さいと言わんばかりだ。 それが判っているだけに、も苦笑を返すしかない。 「それだけじゃないデショ?」 「え?」 「の手料理、かなり美味いんだって?」 「そーなのよ!」 これに力強く頷いたのは本人ではなくアンコだった。 「今朝の蜆の味噌汁も薄すぎず辛すぎず、丁度良い味噌加減で、しかも大量に入れ た葱で口の中がさっぱりするし生臭さも全く無し! それに出汁巻き卵がこれまたふ わっふわしてて絶品なのよ!」 「こ、こらアンコ! あんなの普通だって!」 「え〜? アタシはあんな美味しいご飯作れないわよ?」 「そんなに美味いの?」 「最高だね! アタシが男だったら即を嫁にしてるね!」 「そんな大袈裟な…」 「い〜な〜。俺も食べたいな〜」 「いーだろー」 カカシは本当に羨ましいらしい。 指を口に咥えて と言っても口布があるのでその上から唇の上に指を置いてい るだけだが しきりに「い〜な〜」と繰り返す。 そして何故か胸を張って勝ち誇るアンコ。 この図は何なんだ、と内心で溜息を漏らしていたら。 「ちゃん」 「はい?」 「俺もちゃんちに泊まりに行ってもい〜い?」 「……は?」 何てことを笑顔で言ってるんだ、この男は。 「駄目」 「えー? なーんでよ?」 途端にぶすくれたカカシに向って「ダメに決まってるでしょ!」びしっと人差し指 を突きつけた。 「カカシは男でしょ!」 「うん」 「女の一人住まいに軽々しく男を泊められますかっつの!」 「えええー? 何にもしないからさー」 「駄目!」 「残念だったわねー、カカシ」 「ちゃ〜ん」 「駄目っつったら駄目!」 何故かアンコの勝ち誇った高笑いが響き渡る中、それぞれに任務要請が出るまでこ の押し問答は続いたのだった。 1週間後、は足を引きずるようにヨタヨタと家路を辿っていた。 別に怪我をしているわけではない。 ただ、この1週間というもの、超がつくほどのVIPの護衛という任務に就いてい たために体力も使ったがそれ以上に気を遣い倒してしまったのだ。 任務を完了し、報告書も提出してしまった今は気力・体力共にempty状態で。 だから。 気付かなかった。 無人の筈の我が家に潜むその微かな気配を。 「ただいまー…って、誰もいないのについ言っちゃうのよねー」 一人暮らしが長いと独り言が増えるなーと、これも独り言を呟いて。 真っ直ぐ向ったキッチンでコップに注いだ水を口につけた時だった。 「お・か・え・り・な・さ〜いv」 ![]() ぴとっv やんわりと絡みついてくる腕。 背中に感じる体温とふくよかな胸の膨らみ。 鼻腔に侵入する甘い香り。 首筋を擽る吐息。 「!!!!!!!!!」 言葉にならない驚きはそれとして、即座にその腕から抜け出し、クナイを手に身構 えたのは日頃の訓練の賜物だろう。 「やーね、そんなの家の中で振り回してたら危ないデショ?」 だが、そのクナイは目の前の人物によってあっさりいなされてしまった。 嫣然とした微笑には今度こそ言葉を失くした。 手にしたクナイがごとりと音を立てて落ちた。 「……」 「あれ? ちゃん? おーい?」 ひらひらと細い指が間の前を往復する。 白い肌。 すらりと伸びた肢体。 滝のように流れる艶やかな銀糸の髪と、それに隠された左目。 隠されていない右の蒼い瞳がの顔を覗き込んで…… 「なにやってんだ、カカシ!!」 「やーね、今はカカシじゃなくって、カ・カ・美v」 …………その綺麗な顔に手裏剣を叩き込んでやりたいと本気で思ったを、誰 が責められるだろう。 「…………それで?」 とりあえず気を落ち着かせようと淹れたての緑茶 ちなみに、淹れたのは何故 かカカ美…もとい、カカシである。結構美味いのがまた腹立たしい を飲み干 し、テーブルの上に湯飲みを置くとはじろり、とねめつけた。 「えー、だって、男は泊めないって言ったから」 『腐っても上忍』を地で行くカカシはと言えば、当然ながらそんなの不機嫌 さに動じることもなく、ニッコリ微笑むその様は正体が男と判っていてもくらりと よろめいてしまいそうな魅力に溢れている。 ちゃんと膝を揃えて座ってるあたりがまた芸が細かい。 もっとも、は別の意味でくらりと眩暈を覚えたのだが。 「……だから、女に変化したっつぅの?」 「うんv」 「………」 「………ダメ?」 肩を竦めて顔を覗きこんでくるその仕草までかわいいってどういうことだろう。 女として負けてる自分がちょっと悲しい。 「………」 「ねー、泊まっちゃダメ?」 「………」 「このカッコなら外聞も悪くならないデショ? 変なことは絶対しないからさー」 「……カカシ」 「なに?」 「なんでそんなにここに泊まることに拘ってるの?」 同僚の家に不法侵入した上に、変化の術で女の格好までして。 同僚の誰かにばれたら一瞬で変態扱いされるのは確実な上に、火影にまで話が知れ たら確実に懲罰は免れないだろうに。 「…………俺、明日誕生日なんだよねー」 「へ?」 「や、俺も今気が付いたんだけど」 ポツリと零された言葉はあまりにも予想外で。 目を見開くにカカシはどこか照れたような笑みを浮かべて人差し指で頬を掻 いた。 「あのね」 「うん」 「んちに泊めてもらうとするでしょ?」 「…うん」 「そしたら朝俺が寝てたらが起こしてくれるわけじゃない」 「まぁ…」 「んでと「おはよう」って言い合って、が作ってくれた朝飯一緒に食 べることが出来るわけよ」 「……それが何? そんなの当たり前のことじゃない」 怪訝そうに首を傾げたにカカシは「うん」と頷いて。 「その、当たり前のことをとしたかったんだよね〜」 「カカシ…」 なぜだろう。 カカシの照れ笑いを見ているとなんだか胸の奥がじんわりしてきて。 暖かいのと 寂しいのと 嬉しいのと 切ないのと ごちゃごちゃに混ざり合ってなんだか矢鱈と恥ずかしい。 「だからね、誕生日プレゼントってことで……ダメ?」 この男は、何て欲のない。 「……バカモノ」 「やっぱ…ダメか……」 しゅん、と俯いてしまった顔を、長い髪が覆って隠してしまう。 はそれにちょっとだけ笑って、軽く握った拳でこん、とその頭頂部を殴った。 それを合図に恐る恐る顔を上げたカカシの顔は、例えるなら飼い主に怒られた犬が 尻尾を足の間に挟んで耳も一杯一杯垂れてる状態。まだ怒ってるのかと様子を伺い ながらびくびくしてる。 「美人がそんな顔しないでよ」 「?」 「あーもー。そういう顔されたらダメなんだっつの」 思わず噴き出すに、分かっていないカカシは首を傾げた。 「誕生日なんだったら早目に言えっつの。知らなかったから何にも用意してないで しょうが」 疲れてるからケーキ作る気力もないしさ。 笑いつつもぶぅたれて見せれば、が敢えて言わずにいる意味をカカシもやっ と分かったのだろう、 「特別なのは別にいらな〜いよ。俺は普通が良いの」 にっこり笑ったその様は掛け値なしに可愛くて。 「ん、じゃあ変化解いて良し」 「え? いいの?」 「ま、ね。カカシ、明日任務入ってるんでしょ?」 「ん。まぁね」 「だったら任務前に余計なチャクラ使わせるわけにいかないじゃない。大体、私が 誕生日祝ってあげるのは同僚のはたけカカシであって初対面のカカ美さんじゃあな いしね」 それに。 ………正直、自分より可愛い男にムカツク自分がまたムカツクっつの。 「……同僚」 「ん? なに?」 「いや、なんでもなーいよ」 「そう? ならいいけど。あ、でもだからって妙な素振り一瞬でも見せたら叩き出 すからそのつもりでね」 「………は〜い」 なんだ、その不満そうな返事は。 がじろりと睨むとカカシはへらっと笑って本来の姿に戻った。 コトコトコトコト… トントントントントンッ 出汁が沸騰したのを確認しては火を止めて味噌を溶き、鍋に流しいれる。 具は軽く炙った茄子と豆腐、それから葱。 朝から秋刀魚は匂いがついてキビシイので鮭の切り身を焼いて、レモンのスライス を載せた。 野菜は小松菜の煮浸し。 豆腐の冷奴には大量の大根おろしとシラスを盛って。 それらを食卓に並べ終える頃にはご飯もふっくら炊き上がる。 「さて」 外したエプロンを自分の座る椅子の背に無造作に掛けると、は客間へと向か う。折角の食事が冷めてしまうので、その足取りは些か急ぎ気味。 大した音も立てずに開く障子は建てつけの良さの証明だ。 「カカシー、朝だよ、起きて!」 「ん」 ぽふっと敷布団の際に膝をつけば、家の中を立ち回るの気配でとっくに目を 覚ましていたのだろうカカシが、それでも眠そうに目を開く。 「おはよ、カカシ」 「おはよ、」 「ごはんもう出来てるから、早く顔洗ってきて!」 「はいはい」 急かされてカカシが起き上がるともさっさと立ち上がって部屋を出る。 そのまま出て行くのかと思いきや、はくるりと振り返った。 「誕生日おめでとう、カカシ!」 「ん、アリガト」 笑顔を交わしてはキッチンへ、カカシは洗面所へ。 途中通りがかった縁側からは薄青の高空といくつかの雲がみえた。 「ん〜、い〜い朝だねぇ」 ずっとここに住みたくなる、というカカシの呟きを、雀だけが聞いていた。 fin. <あとがき> お馬鹿カカシでございます。 カカ美さん、書いてて非常に楽しかったのですが、これを読まれた方が楽しいかどうかは とても謎です。もしかしなくても自己満足の世界ですか・・・? 深雪様の「カカ美さん(仮名)」の美しさににK.O.パンチ食らって書き上げたシロモノです ので、内容がいっちゃってても「ああ、パンチドランカーなのね」と思ってスルーして頂ける とうれしいです。(ははは) =========================================================== 『カカシ生誕祭&アスマタン2005』にコラボ作品として提出させて頂きました。 |