「かかしーぃ、どこーぉ?」


きょろきょろと、視線と足を森のあちこちに彷徨わせながら声を上げてい
る、まだ10にも満たない幼い女の子は、薄暗い木立の中を危なげなく進
んでゆく。
探す相手が必ずそこにいると分かっているかのように。


そして、それは間違いではなく。


「なんだよ、


愛想の欠片もない声が応じたと思う間もなく、ざっと葉ずれの音とともに
幼女の前に降り立ったのは、同じ年頃だが、緑の忍者服に身を包み顔を半
分隠した銀髪の男の子。


「あ、カカシいたー」
「いたー、じゃないだろ。何の用だよ。修行してたのに」
「うん、これ」


突然の出現にも動じずににっこりと笑んだは、ずいっと右手をカカ
シの目の前に差し出した。その手に握られているのは、黒布に縫い付けら
れた銀色のプレート。


「お前ね……いい加減自分で結べるようになれよ」


しみじみと溜息をつくカカシは、それでも受け取った額当てを慣れた手つ
きでの額に結びつけた。はそれを当たり前のようにじっと受
け入れている。


「いいのー、だってこうやってカカシがむすんでくれるでしょ?」
「俺が居ないときはどうするんだよ」
「そのときはー………どうしよう?」
「……俺に聞かないでよ」


がっくりと肩を落とすカカシにが笑うのも、いつものこと。











『好きな人に額当てを結んでもらうと、任務の成功率が上がる』というお
まじないが最近くのいちの間で流行っている。


「なに、それ」
「女ってのはそーいうのが好きだよなぁ」


興味無さそうに応じたカカシは、チロリと一瞬だけ義理のように話しかけ
てきた紅に向けた後は、すぐさま手元の本に戻してしまう。アスマもやは
り紅に向けていた視線を宙に向けて紫煙を吐き出した。


「うるっさいわよ、アスマ。夢があっていいじゃないの」
「夢…ねぇ」
「なによ」
「夢にしてはちょーっとあざとすぎるんじゃなーい? 『任務の成功率が
あがる』なんてさ、それってもしも頼まれた男が断って相手に怪我でもさ
れたら、その男が悪いってことになるデショ」
「それは……そうだけど」


言葉に詰まった紅に


「あざといよねぇ?」
「あざといよな」


追い討ちをかけるように大袈裟に頷きあう男達に、形勢がすっかり不利に
なってしまった紅だったが、


「おはよ〜ぉ、ございまーす」


やけに眠たげな声が彼女を救った。
あまりにも暢気な声に、三人の視線が一斉に集められる。


「あれ…? どしたの、紅。ふぁ…っ、カカシとアスっちも変な顔して」
「変って……お前ねぇ、もうおはようって時間じゃないでしょーよ。
それと、会話しながら欠伸するんじゃないよ」
「ん〜、ごめんごめん。だって眠いんだもん」
「つーか、お前じゃねぇだろうな。妙なまじない流行らせたのは」
「んん? おまじないって?」


かくかくしかじか…説明役を買って出た紅の言葉を聞いているのかいない
のか、は何度も欠伸を繰り返す。彼女が朝に弱いのはいつものこと
だが、それにしても今日は酷い。
流石に不審に思ったアスマが問うと、案の定、夜明けまで任務だったとの
返事だった。


「それでまた忍服でここにいるってこたぁ、今から任務なのか?」
「うんー」
「五代目も相変わらず忍び遣い荒いねぇ」
「だからカカシ、額当て結んでー?」
「……はいはい」







でた。







アスマと紅はチラリとお互いの目を見合わせた。
『好きな人に額当てを結んでもらうと、任務の成功率が上がる』という例
のおまじない、その大元が彼女ではと疑った理由がこれだ。
が額当てを差し出すと、カカシが心得た様子でそれを結んでやる。
上忍待機所では見慣れた光景なのだが、それでいて二人は付き合っている
わけでもなくただの幼馴染でしかないというのが不思議なような、そうで
もないような。
……まぁ、少なくともカカシの方はもう少し踏み込んだ関係を作りたいと
長年願っているようなのだが、如何せんは暢気でのんびりとしてい
てどうにも攻めあぐねているらしい。
同じ男として哀れなものを感じないでもないアスマは、だからこそ噂を流
したのがであれば脈アリなんじゃないかと思いもしたのだが。


「あ、アスっちぃ、そのおまじないって私じゃないよ?」
「……そうかよ」


つか、その呼び方ヤメロ。
何度も繰り返してきた抗議を口にすると、今回もケラケラと笑い飛ばされ
てしまった。


「あー、でも気持ちは分かるなぁ」
「何がよ?」


はい、できた。
きっちりしっかり結ばれた額当てに「ありがとー」と笑顔を返して、それで
もその場所から動かずに話し続ける。


「やっぱりね、額当てって大事なものでしょ?」
「そうね」
「まぁ、自分の証みたいなもんだからなぁ」
「だからどーでもいい人には触って欲しくないって言うか、むしろ触らせ
ないし」
「当然ね」
「そういう大事なものを好きな人が結んでくれたら、そりゃあやる気も出
て任務の成功率も上がるってもんじゃない?」
「そうよね」
「かもね」
「…そーか? っぐぉ!!」


首を傾げたアスマのわき腹に、間髪いれず紅の手刀がめり込んだ。
バカだねぇ、とカカシの憐れみの視線が痛い。


「ま、オトコノコはどーだかわかんないけど、オンナノコはそーなのです
よ。私だってカカシに額当て結んでもらうとやる気でるもんねー」
「は?!」
「んじゃ、いってきまーっす」


突然飛び出した自分の名前にカカシが目を見開いている間に、は素
早く立ち上がるや足音もなく待機所を飛び出していった。


「え、ちょ、なに? アスマっ、アイツ今何言ったの?!」
「何って……そのまんまだろうがよ」
「良かったわね、カカシ」


面倒くさそうに紫煙を吐き出すアスマと紅のニヤニヤ笑いを見比べても何
にもならないと気付いたカカシが「あ」「ん」の門へと瞬身の術で
を追いかけるのはこの3秒後。











fin.