今日はやけに患者がそわそわしてるな。
なんとなく、そう思っていたら。
「なに言ってるんですか、先生。今日は木の葉通りで七夕祭りですよ!」
サクラちゃんはやけに張り切って教えてくれた。
気がついてみれば。
異様に張り切っているのは彼女のみならず、女の子たちは皆、子供から大人の女性
まで一様に気合が入っているようだし、それに比例するように男の子たちは、これ
また子供から結構な年のオジサマまで妙にそわそわうろうろ落ち着かない。
何となく見覚えのある光景なんだけど、それが何なのか思い出せない。
しきりに首を捻っていたら、肩こりと間違われてしまった。
「木の葉ではお祭りってそんなに重要なイベントなんですか?」
まぁ、肩こりは私の持病のようなものなので強ち間違いでもないし、揉んでくれる
という善意の申し出を無碍に断るほど私は清廉でも野暮でもない。
というわけで、おとなしくマッサージを受けながら疑問を問うてみたら、カカシ先
生は「ん〜、ま、そうとも言えるし、そうでもないとも言える」ととても曖昧な答
えを返してくれた。
「それじゃあ全然分かりませんが」
「結局ね、野郎どもにとっちゃ良いチャンスなわけよ。祭りは皆が参加するし、そ
れに一緒に行こうと誘っても不自然になり過ぎないデショ? 断られてもまだ友達
としての体面は保たれるし……って、凝ってるねぇ、本当に」
「あ、そこそこ」
「ここ?」
「はい」
「女の方も、例え誘われなくても浴衣着て色気振り撒いて歩いてればどこかで目を
つけた男が声を掛けてくるかもしれないから、それを期待してるってわけ」
成程、成程。
それで皆どこかウキウキして見えたのか。
事情が分かれば、あの光景が何に似ていたのかも分かった。
バレンタインデーだ。
あの、妙に男も女もそわそわした、どこか気恥ずかしい感じ。
あれにそっくりだった。
「つまり、お祭りは里の人たちにとっては大事な出会いの場ってことですか」
「そういうことだな。……ところでさん」
「はい?」
「さんはお祭り行かなくてもいーの?」
振り返ると、カカシ先生の目は窓の方を向いていて。
その後を追うように窓を見るとそこには見事な昇り初めの月が。
「いーんです」
「どうして?」
「……人込みが苦手なので」
「……そうなの?」
「そうなんです。なんかこう……人込みを見ただけで疲れると言うか」
要するに、体力がないだけのことなのだろうけど。
カカシ先生は「そっかぁ」と銀の髪を掻き回した。なんとなく、肩が落ちてる。
「……俺も、デートのお誘いに来たんだけどねぇ?」
「は?」
何か言いました?
カカシ先生が何かを呟いたことは確かなのだけれど、声が小さい上に低くて、聞き
取れなかった。
「なんでもな〜いよ」
「そうですか?」
ただの独り言だったのかな?
……まぁ、本人がいいと言うならいいか。
「カカシ先生」
「ん?」
「ありがとうございました。大分楽になりました」
ちゃんと向き合って頭を下げる。
「いーよ。これくらいならいつでもどーぞ?」
「あはははは。じゃ、またお願いします」
おどけるカカシ先生に私も笑って、そのまま立ち上がってキッチンへ向かった。
お盆に必要なものを全部揃えて戻ると、
「さん?」
カカシ先生は不思議そうに首を傾げた。
私はそんな彼に淡い紫の切子硝子のぐい飲みを差し出した。
「今日はお月様も綺麗なことだし」
のんびり優雅に月見酒と洒落ませんか?
そう言って微笑んだら。
カカシ先生も嬉しそうに笑ってくれて。
「いいね」
カカシ先生は生のお酒。
私は焼酎版ブラッディマリーを手に。
そっと七夕の恋人達に乾杯した。
fin.