「なんとっ! それでは其方が某を救って下さったというのか?!」
「はぁ、まぁ…」
「しかもそのか弱き身でで川に入るなど命懸けではないかっ」
「えー……命懸けって……」


あの時はもう頭がいっぱいいっぱいだったからなぁ。
助けなければという思いばかりで、命懸けとかそんなこと考える余裕もなかったと
いうのが本当の所なのだが。
ちらりと件の川を見てみれば、増水しているのか結構しゃれにならない勢いで流れ
ている。


「…あぁ、まぁ…そうなるみたいですね、うん」
「随分適当な返事だね」


ここで恩売っときゃ見返りが期待できるのにさ。
しれっと唆す迷彩男に「そんな余裕なかったし」苦笑と返事を同時に返すと、それ
に反応したのは目の前の赤い人。


「か…っ」
「か?」
「あ、やべ」


迷彩男が小さく呟いたかと思えば、ぱっと両手で己の耳を塞ぐ。
首を傾げたとそのやや後方で警戒しつつ立っている黒い人はこの時点で完璧
に出遅れた。


そう、もう既に一度経験しているのに、だ。


「感動でござるぁぁぁあああああ!!!!」











一陽来復












……どうして気付けなかった、私。
心なしかきーん…と余韻を引いている気がする耳を遅ればせながら両手で覆うが、
赤い人はそんな彼女らに気付きもせず、両の拳を固めて雄叫びを上げ続けている。


「この荒んだ戦国の世にあってなんと清らかなお心! この真田源二郎幸村、感動
致しましたぞ!」
「は、はぁ…」


そうですか、としか言いようがない。


「って、いう、か……っ」
「!」
「ちょ、旦那! なにやってんのっ離して離れて!」


勢い余ってか両手を握り締められていたりするのだけれど、全力で握られて骨がぎ
しぎし言っている気がする。痛くて声もまともに出ない。
黒い人が目つきを鋭くして身構えるのに迷彩男が気付いて慌ててその手を離させよ
うと二人の手の上から手を重ねる。


が。


ひゅん、と小さな風を切る音がの耳に届いた瞬間、三人の手は綺麗に分かた
れていた。


「…へ?」


瞬時に周辺に目を向け各々の得物を構えた赤と緑と黒の背を状況についてゆけず、
呆っと眺めたは、視界の端、下方に何かの存在を認めて目を向けた。
の爪先のすぐ先、5cmも離れていない川砂利に突き刺さる、短い鋳物。


「えーっと」


これに近いものを博物館で見たことがある。
短い握りの部分を持つこれは、手裏剣と同様忍者が使ったとされる、クナイだ。

ソレがここにある、ということは、誰かが投げつけてきたということで。


「…仮にも同盟組んでる軍の将に、これはちょおーっとオイタが過ぎるんじゃねぇ
か、かすが?」


迷彩男の呼びかけが近くの林に投げかけられる。


「……そのお方から離れろ」


いきなり攻撃してくるぐらいだ、相手は敵だろうから答えはないものだと思ってい
たら、案に相違して木々の陰から声が返って来た。
更に意外なことに、どう聞いても女性の声だ。


「そのお方って……このお嬢さん?」
「私?」


迷彩男がを指差し、は自分の指差して同じ方向へ首を捻る。


「そのお方は謙信様のお客人だ。お前たちが触れて良い方ではない」
「其方は上杉方の人間であったのか?」
「は? 誰ですか? って言うか、今の声の人はお知り合い?」
「ご存知ではないのか?」
「え? 声の人?」
「……」
「あー、もう埒があかねぇし、出て来いよかすが! でもって説明しな!」


迷彩男が短いモーションで腕を振った。
何かを  この場合はやはり同じようなクナイ状の物だろう  投げたのだと
が理解したのは林の枝葉がざっと音を立てたからだ。
ソレとほぼ同時にその辺りの枝から飛び降りてきたのは……


「うわぁお、ゴージャス美人…」


長い金の髪をぼんっきゅっぼんのナイスバディをぴったり包む黒レオタード(?)
の上で揺らし、露出した肌は日差しを知らないかのように白く、大きな瞳は意志の
強さを現してきらめいている。


「目の保養だぁ」
「おっ、話が判るねぇお嬢さん。見た目だけなら俺様も激しく同感」
「な! 破廉恥であるぞ、佐助!!」
「あーはいはい、すみませんねー」


ちっともそう思ってなさげな謝罪を返した迷彩男を、ゴージャス美人はぎろっと、
見てるこちらが怯んでしまいそうな険だらけの目つきで睨みつけると、の前
へと足を進め、淀みない仕草で膝を折った。


「あ、あの…?」


何しろこちとら何処に出しても恥ずかしくない現代庶民。
誰かにかしづかれた経験などあるはずもない。
戸惑うに構わず、ゴージャス美人は更に爆弾を投げてくれた。


「お迎えに上がりました、天女様。謙信様の元へご案内いたします」
「て、てんにょさま?!」
「は?!」
「なんとっ」
「…」


テンニョサマッテダレノコトデスカ?
なんて質問をすることも出来ず、助けを求めるように目を赤・黒・緑の三人に向け
るが、驚きの目を瞠るばかりの三対の目線に見つめ返されるだけだった。










「其方は天から来られたのか?!」
「まさか!」
「お嬢さん上杉の人間だったのか?」
「いやいやいや、だから違いますって! どういうことなのか私にもさっぱり…」
「煩いぞお前達! 謙信様をお待たせするんじゃない!」


結局。
川原で言い争っていてもどうにもならないという至極まっとうなの意見が容
れられ、おまけに『謙信様』と『お館様』も同じ場所にいるというゴージャス美人
もといかすがの情報に赤と緑の二人  なんとびっくり、真田幸村と猿飛佐助なん
だそうだ  もを連れてゆくのに同意したことにより、5人連れ立ってぞろ
ぞろと彼らの言う『本陣』へと向かうこととなった。
……道中、何度もかすがに怒られながら。

 



次項
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一陽来復:よくないことが続いた後に、よいことがめぐってくる意。

4話目にしてやっと場所移動…(苦笑)。